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108 逆転の構図

「だまれ!てめえうるせえんだよ。関係ねえだろ!」そう言ったのは生徒、言われたのは教師です。学校にもこんな場面があることを知ったのは公立中学校の教師になって6,7年目です。1980年代、全国の学校に校内暴力の嵐が吹き荒れた頃です。

先のことばは、登校した生徒を昇降口で指導していた男性教師に対して男子生徒が放ったものです。生徒と教師の立場が完全に逆転しています。もちろん教師も黙っていません。「うるせえとはなんだ」教師は注意しました。そのあとは生徒と教師の間でしばし小競り合いが続きました。その頃はこうした風景が日常的に見られました。「だまれ」なんて生徒が教師に向かって言う言葉ではありません。教師であってもできれば口にしてほしくない言葉です。

学校が荒れると教師と生徒の関係が時に逆転します。生徒は教師をおまえ呼ばわりし、そこにリスペクトはありません。それまで当たり前のように生徒のことをおまえ呼ばわりしていた教師は自分がおまえと呼ばれれることに戸惑いを覚えます。愕然とすることもあります。「先生に対して何という態度だ!」教師は叱責しますが効果がないことが少なくありません。生徒は引き下がらず、ますますエスカレートします。

こうした状況はやがて他の生徒にも広がっていきます。教師の指導に不満を持っていた生徒が力を誇示するようになります。教師への反発は次第にエスカレートし、秩序が崩壊していきます。一般の生徒の中にも教師の言うことを聞かない生徒が増えていきます。「先生なんてちょろいもんだ」そう思う生徒が出てきて、そうした流れを喜ぶ者も現れます。指導はまったく効果を発揮せず、教師は次第に無力感に陥ります。

保護者と教師の関係も逆転します。「先生」として一目置いているように見えた保護者の態度が変わります。「体罰があったからではないか」「指導が適切ではないのではないか」「いじめがあったのではないか」「教師が生徒になめられている」それまで言いたいことを我慢していた保護者が教師を糾弾します。

逆転の構図はあっと言う間にできあがります。そしてこのような構図の中にいる生徒と教師は不幸です。そんな構図を絶対につくってはいけないと強く思います。


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