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83 服装指導を振り返る 

生徒と教師の間に軋轢を生むことがいちばん多い指導に服装指導があります。「細かいことをいちいちうるさい」「それくらいいいじゃん」「別に悪いことしてるわけじゃないのに」指導に対してこうした不満を持つ生徒は少なくありません。「そんなこと生徒手帳に書いてない」「校則にない」と抗議する生徒もいます。

私も服装指導では生徒によく不満をぶつけられました。最近は校則の見直しがあちこちの学校で行われているようですが、私が教師だった頃は実に細かいところまで指導が行われていました。たとえば、上着やズボンのかたちや着用のしかた、髪留めやリボン・ゴムの色、Tシャツの色や柄、ベルトの色や太さ、下着の色、靴下の色や長さ、靴の種類や色などです。名札(当時は名札着用でした)の付け方も指導していました。荒れた学校では制服を自分で「改造」する生徒がおり、ズボンを「ボンタン」にしたり、スカート丈を異様に長くしたりする生徒もいたものです。その後は逆にミニスカートがはやり、今ではこれが主流になっているようですが。

正直言って「そこまで細かく言わなくても」「そんなことまで指導する必要ないのでは」と思うこともありました。不合理だなと思いながら指導していたこともあります。教員間で指導にばらつきがあってはいけないと思うからです。「A先生は何も言わないのに、B先生はうるさい」と生徒の中から指導体制への批判が出るからです。もちろん職員会議などで議論することはありました。でも統一見解に至るのは難しかったです。教員にも様々な考え方があり、服装に関する価値観も異なります。私自身は悩み、迷いながら服装指導をしていました。

学級通信にも服装のことはたびたび書きました。今読み返すと服装指導の矛盾や葛藤が見えないように書いている様子がわかります。指導の不合理性を前面に出さないように苦労している自分も見えます。たとえばイラスト入りでこんなことを書いていたときがありました。↓

「みんなの服装ちょっと見直してみませんか。名札の付け忘れやワイシャツのだらしない着方(①)、上履きの「かかとつぶし」(②)をしている人はいませんか? Tシャツの色や柄、スカートの丈、ズボンの形は適切ですか? ワイシャツに柄が入っているのかと思えるようなシャツ(③)を下に着ている人がいます。女子のタンクトップも最近目に余るものがあります。ズボンも「あれっ?」と思うようなもの(④)をはいている人がいます。派手な髪飾りやリボン、ゴム(⑤)をしている女子はいませんか? 名札の「エレベーター」(⑥)も増えていますよ。名前が見えない名札なんて意味がないでしょう?

イラストby Shiori Nonaka

生徒を刺激しないよう、でも彼らがきちんとした服装で生活してくれるよう、自分が言葉を選んで書いていることが感じられます。

指導する中で私自身が疑問に思うことは多々ありました。たとえば、暑い日にワイシャツの第一ボタンをはずすことを禁じる必要があるでしょうか。教師は「だらしがないから」と言いますが、当時は教室にエアコンもありませんでした。蒸し風呂のような中で第一ボタンをはずこともまで禁じる必要があるでしょうか。「だらしなさ」が増したらそのときに指導すればよいだけです。むしろTPOをわきまえることを教えるべきだと思います。ちなみに職員室だけはエアコンが入っていました。

そもそも校則として明記されていないのに「校則違反」として指導することは妥当でしょうか。指導の際に教師がよく口にするのが「校則(ルール)だから」ということばです。でも、実際には校則になっていないこともたくさんありました。

学校を異動した時のことです。異動先の学校は服装指導の厳しい学校でしたが、私が疑問を感じた指導のひとつがソックスについてでした。ソックスは無地の白でくるぶしの少し上の長さ。長すぎても短すぎても注意を受けました。ワンポイント入りも禁止でした。生徒手帳には「白のソックス」としか書かれていません。生徒の中にはワンポイントのソックス、くるぶしが出る短いソックスや逆にハイソックスのような長いものをはいてくる者もいました。でも色はみんな白です。私には問題があるとは思えませんでした。でも生活指導部の教師たちは厳格に指導を行い、くるぶしが少しでも見えると注意をしました。小さな小さなロゴが入ったソックスをはいていても注意しました。彼らは何かに憑りつかれたように指導しているように私には見えました。違反を見つけることが目的化しているようにも思えました。

生徒たちはもちろん納得しません。だって生徒手帳には「白のソックス」としか書かれていないのですから。私は生活指導主任にそのことを話しました。私自身が納得できないことを生徒に強制することはできません。主任は「これまでずっとそうやって指導してきたから」というだけで納得のいく回答は得られませんでした。着任したばかりの私はそれ以上何も言えず周囲に合わせました。でもそれは間違っていたと今は思っています。もっと意見を言うべきでした。結果はどうあれ議論は必要です。




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