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96 生徒をからかう教師

放課後のことです。清掃時間が終わり部活動の始まる時間になったとき、サーカー部の生徒が体育倉庫の鍵を取りに職員室にやって来ました。学校内のカギはすべて職員室のキーボックスに保管されており、生徒が取りに来たときは近くにいる教師が確認して渡すことになっています。「サッカー部ですが体育倉庫の鍵をお借りしに来ました」職員室の入り口で生徒はそう言いました。私は礼儀正しくてさわやかな印象を受けました。

その時です。近くにいた体育教師がにやにやしながらこう言ったのです。「サッカー部か。鍵がほしけりゃ一曲歌え」生徒はびっくりした様子でした。でも体育教師は続けてこう言ました。「サッカー部員はみんな歌がうまいんだってな。〇〇先生(サッカー部の顧問)が言ってたぞ。踊りもいっしょに見せろよ」生徒はどうしてよいかわからない様子で顔を赤くして立ちすくんでいます。きっとまじめな生徒なのでしょう。「歌わねえのか。じゃあ鍵は渡せねえな」教師は執拗に続けます。そばにいる教師も数名が同調して「歌えよ」とはやし立てます。

その時、職員室の奥にいた女性教師が生徒のところにやってきました。そして体育倉庫の鍵を取り出して「ごくろうさま。練習しっかりね」と言って男子生徒に渡しました。生徒はほっとした様子で「ありがとうございます」と言って立ち去りました。生徒がいなくなったあと女性教師は男性教師たちに向かって言いました。「生徒をおもちゃにするもんじゃないわよ」と。男性教師たちは気まずそうな表情を見せました。

生徒をからかう教師は少なくありません。親しみを込めてからかうこともあります。からかうことで関係を深めようとします。からかわれる方の生徒もそれを抵抗なく受け入れることはあります。お互いの関係がしっかりできている場合です。先の生徒の場合はそんな関係には見えませんでした。彼にとっては苦痛だったと思います。この出来事が彼の心に傷を残さなければいいなと思いました。同時にその場にいて理不尽さを感じながら自分が何も言えなかったことを反省しました。「生徒をおもちゃにするもんじゃない」とびしっと言った女性教師を私は見習いたいと思いました。

教師のからかいや悪ふざけは時に同僚に向けられることがあります。2019年に神戸市の小学校で発覚した「教師いじめ事件」もそのひとつではないでしょうか。からかいが度を超えて犯罪となった悲劇だろうと思います。そして同校にもきっとそれを見ていて何も言えなかった(あるいは、言わなかった)教師が何人もいたのではないでしょうか。

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