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学会発表は博士の学位取得に必須

博士論文を提出するための要件は大学院の履修要綱に以下のように記されていました。(現在は少し変更されています)
・全国的もしくは国際的な学会での研究発表を原則として1回以上行うこと
・博士論文提出時までに、学術誌(査読付き)に掲載された論文1編以上の業績をもつこと(掲載決定を含む)

私が学会で初めて発表したのは修士2年の時でした。会員数30名ほどの小さな学会で、当日の参加者も10数名でちょっとした研究会という雰囲気でした。私が学会デビューするには最適だったと思います。東京近郊の県にある大学で行われ、近くに有名な温泉がありました。せっかくだからと前日は親しい院生といっしょに温泉地区にある宿泊施設に泊まりました。ヘルスセンターのような施設です。遠くから来られた大学教授も宿泊されていて3人で作務衣を着て夕食を食べました。およそ学会参加のために来ているようには見えなかったと思います。

学会での発表者は7名で会場は一つでした。分科会などには分かれてはいません。小さな学会でしたが私にとっては初めての体験です。とても緊張しました。準備にも多くの時間を費やしました。パワーポイントなどは使い慣れていなかったのでレジュメを印刷して配布しました。発表の練習は原稿を暗記するまで何度も、いや何十回も行いました。原稿を棒読みするような発表はしてはいけないと思っていたからです。それに制限時間を守らなければいけないので練習は必要です。家でぶつぶつ言いながら練習しました。家族は「またやってる」と言って笑っていました。

修士の院生の拙い発表でしたがこの学会は私にとってとても良い経験になりました。学会発表のノウハウを学びました。懇親会も和気あいあいとした雰囲気で行われ、学会に対するそれまでイメージが崩れました。

博士課程になってからは年に数回発表しました。全国規模の学会、海外での国際学会、大学内部の学会で、以下のように行いました。
1年目:3回 (学内1回、全国2回)
2年目:5回 (学内1回 全国4回)
3年目:4回 (海外1回、全国3回)
4年目:3回 (全国3回)
5年目:2回 (全国2回)
6年目:2回 (全国1回、海外1回)

必要とされる回数よりずっと多いですが、私は学会で発表することは研究を進めるうえで、また博士論文を執筆する上で必須だと思ったからです。学会では様々な発表が聞けます。テーマもまちまちで興味深い研究にたくさん出会います。私は常に自身の研究と重ね合わせて発表を聞いていました。参考になることは山ほどありました。

発表すれば鋭い質問が飛んできます。厳しい指摘や批判も容赦なく受けます。質問に適切に答えられなかったり、厳しい指摘に打ちのめされたりして心が折れそうになることもしばしばありました。修士の時に体験した最初の学会が緩やかなものであっただけに、博士になって全国規模の学会で発表するようになってからは学会発表の大変さを痛感しました。

慣れるまでは緊張感も半端ではありません。緊張で声が上ずったり、難しい質問に頭が真っ白になることもありました。でもそうした質問や指摘によって研究を進めることができたと思っています。自分の研究に欠けている視点や枠組みの不完全さに気づきます。自己の弱点や強みも確認できます。その後やるべことも明確になります。めげずに発表を続けました。

海外での発表も有意義でした。それまでは海外で発表するのは著名な学者か特に秀でた研究者であり、私のような院生は対象外だと思っていましたが、実際に参加してみると院生もたくさん発表していることがわかりました。海外での最初の発表は博士課程3年目で香港の大学で行われた学会でした。2回目は6年目で、スウェーデンの大学で行われました。

海外発表はエントリーする段階から苦労しました。すべて英語で対応しなければなりません。現在であれば翻訳ツールを使って簡単に英訳できるのでしょうが、当時はすべて自分で書きました。英語力はかなり向上したと思います。最初にアブストラクトを提出して審査を受けます。採択されると受託メールが来るので参加登録をして参加費を払います。海外の学会は参加費がとても高額です。でもランチなど多くのものが含まれていて、日本での学会とはずいぶん違うと思いました。

学会の雰囲気も日本と違います。質問や意見が次々に出ます。日本ではシーンとする場面が時々見られますが海外ではまずありません。みんな遠慮なく意見を言い合います。それが研究者にとっては大事なことだと思います。

繰り返しますが大学院に入るまでは学会というのは優秀な研究者が集まって難しい議論を行う場というイメージが強くあり、権威主義的な印象を持っていました。参加するには敷居が高かったです。でも実際に参加してみるといろいろな人がお互いの研究を公表し合い、議論し、研究の妥当性を検討する場であることがわかりました。自分でも発表できるのだということを実感しました。

学会は楽しいこともたくさんあります。国内の学会は全国各地で行われます。そのたびにちょっとした旅行の気分になります。海外の場合は海外旅行をした気分になります。どこにも所属せず、自費で学会に参加する私には旅行するのも自由です。香港もスウェーデンもそれなりに観光を楽しんできました。スウェーデンの時は10日ほど北欧観光をしてきました。学会ではさらに懇親会でその土地の美味しい食べ物や飲み物が出されます。たくさんの人に出会えるのも魅力ですし、何よりも研究のための人的ネットワークを広げることができます。「どうせ参加するなら楽しまなくちゃ!」というのが本心です。


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