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チコのこと



 この子はずっと独りなんだと思う。



 絶対そんなことない。みんなでずっと寄り添っていくし、独りになんかさせない。仲間がいっぱいいるじゃない。とは、ぼくも思ってる。


 けれどもそれは第三者から無責任に思う表面的なことであって、本人にしてみれば いい知れぬ孤独がつねに心の奥底に眠っているのだと思う。


 この子が明るく振る舞えば振る舞うほどそれを思い 胸が苦しくなる。


 ぼくもぼくなりにつらく悲しい経験をし、それなりに苦労はしてきたけれども、救いなのは物心つく幼年少年時代にはなんの悩みも知らず、ただバカみたいに友だちとふざけ合って充実した毎日を送れたこと。時代にめぐまれたこともあったのだろうけど、この時の経験がなければあんな苦労は乗り切れなかった。


 この子はこれからもっとたくさん知りたくもないつらい現実を知ることになるだろう。過酷な運命が待ち構えていることだけはたしかだ。


 出来ればほんの少しだけでも幼年少年期に良い思い出を残してやりたい。


 本人の前では決して言わないけれど、心中いつも切実にそう願っている。




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