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女子高生の副業



第1章:平凡な日常の崩壊

青く澄み渡った空には、一筋の雲も見当たらない。春の陽射しが柔らかく校庭に降り注ぎ、教室の窓からは、新緑の葉が風に揺れる様子が見える。教卓から見て一番奥の右端っこの窓側で授業を受けている殻乃柚子(からのゆず)は、その光景を退屈そうに眺めていた。そんな平凡な1日の始まりであった。

教室は30名の生徒が入る広さで、机と椅子が5列×6行に並んでいる。前方には黒板があり、掲示物には行事予定表やポスターが貼られている。教室の左側に窓が並び、新鮮な空気が通っていた。

教室内では、歴史の授業が続いている。先生が黒板に年号を書きながら講義を続けるが、柚子の心は窓の外に向いていた。頬杖をつきながら、ぼんやりと外の景色を眺める彼女の姿は、一見すると普通の高校生そのものだった。

授業中のクラスメートたちは、先生の話を聞いているようで実はあまり集中していない。数名はノートを取りながらも、他の数名は机に伏せて居眠りをしている。前の座席にいる友人、近藤舞もその一人だ。友人?いや、わからない。彼女とは話すこともあるが、深い関係ではない。ただのクラスメートなのかもしれない。

授業の終了チャイムが鳴り響く。キーンコーンカーンコーンそれと同時に、外からプロペラの音がだんだん近づいてくるのが聞こえた。

バババババ…。

クラスメイトたちは授業終了の挨拶で立ち上がっていたので、そのまま窓のほうを見た。だが、1人の女子高生だけは何かを察した。それは、殻乃柚子だった。

彼女は直感的に危険を感じ取り、即座に行動に移った。まず、両手で自分の机を強く押し倒し、窓のほうに向けてバリケードを作った。その背後に身を潜めるように身をかがめた。彼女の動きは冷静で、無駄がなかった。

その1秒後、窓が割れる音が響き渡り、教室内に悲鳴と弾丸の音がこだました。
バキッ!バンバンバン!(窓の割れる音と銃撃の音の混合音)

教室は一瞬でパニックに陥った。

生徒たちは恐怖で固まる者、逃げようと走り出す者とに分かれた。窓の反対側、廊下へと走る生徒たちは、互いにぶつかり合い、必死に教室の扉を目指した。しかし、銃弾は彼らの足の速さよりも遥かに速く(時速約804km)、逃げる間もなく次々と命中していく。

一人の男子生徒は、廊下に出た瞬間、背中に銃弾を受け、そのまま床に崩れ落ちた。廊下には血の跡が引きずられ、死に至るまでの短い悲鳴が響いた。他の生徒も次々と同じ運命を辿った。

一方、恐怖で固まっている生徒たちは、何も抵抗できないまま立ち尽くしていた。彼らの瞳には恐怖が映し出され、体は震え、声にならない叫びが喉に詰まっていた。次の瞬間、彼らの頭に銃弾が命中し、血飛沫が教室内に散った。近藤舞もその一人だった。彼女は恐怖に引きつった顔をして、立ち尽くしたまま銃弾に倒れた。

目の前には、赤い海(大量の血)が広がっていく。

そのころ、柚子は冷静だった。周囲の惨状を目の当たりにしても、彼女の心には何の動揺もなかった。まるで何も感じていないかのように、教室内のパニックが広がる中、次の一手を考えていた。弾丸の音が鳴り響く中、彼女は冷静さを失わず、いつここから脱出するべきなのか最善のタイミングを見計らっていた。

災厄なパターンは二つ考えられた。ひとつは、敵がヘリコプターから降りて学校の中まで襲撃すること。もうひとつは、学校ごと吹き飛ばすロケットランチャーなどの爆発物で攻撃し、木っ端みじんにすること。

だが、二つ目はないと考えたい。もしそうなら、最初から爆発物を使えばいいはずだ。

柚子の思考は瞬時に分析を始めた。敵の目的は何なのか?なぜこれほどまでに執拗に攻撃するのか?

約30秒後、ヘリコプターの機体の音と銃声が静まった。待っていたかのように、柚子は瞬時に動いた。ここでの最善の行動は、クラスメイトの死体を二、三人集めて、その下に隠れることだ。逃げることも考えたが、その場合、敵に遭遇する確率が高い。まるで森でクマに出会った時のように、動かずに身を隠すことが最も安全だと判断したのだ。

柚子は冷静に、そして迅速に行動を開始した。近くに倒れているクラスメイトの死体を引き寄せ、その下に自分の体を滑り込ませた。血の匂いと冷たい感触が彼女の体を包むが、感情を無にしてその場に潜んだ。彼女の心臓は依然として静かに鼓動を刻んでいた。

だが、ヘリコプターの機体の音は徐々に遠ざかり、人間の足音は一切聞こえなかった。敵が降りてきて襲撃する気配はないようだった。

教室内は静まり返り、ただ彼女の息遣いだけが微かに聞こえる。何が起きているのかを確かめるために、慎重に頭を持ち上げ、周囲を見渡した。彼女の目には、無数の死体と破壊された教室の光景が映し出されていた。外の空は依然として晴れているが、その静けさがかえって不気味だった。

敵の真の目的は一体何なのか?

キーンコーンカーンコーン(授業の始まりの音)。初めて、チャイムの音色がこんなにも澄んで聞こえた。

第2章: 彼女の秘密

翌日、彼女は自宅のリビングでニュースを見ていた。モダンなデザインの家具が並ぶリビングは、静かな雰囲気に包まれていた。窓の外から差し込む朝日が、部屋の中を柔らかく照らしている。テレビ画面には、襲撃された学校の映像が繰り返し流されている。破壊された校舎、散乱する机と椅子、そして血痕が映し出されるたびに、悲痛なナレーションが流れる。

「朝のニュースのお時間です。昨日、私立●●高校でヘリコプターによる襲撃事件が発生しました。現在、犯人は逃亡中です。事件により、536名の生徒と教師が死亡し、生存者はわずか4名です。」

ニュースキャスターは深刻な表情で報道を続けていた。彼の声は落ち着いているが、その目には見えない緊張感が漂っていた。柚子は無表情でテレビを見つめながら、冷静に情報を整理していた。彼女の中で、昨日の惨劇の映像が繰り返し再生されていた。

「私は特に何も感じなかった。友達は確かにいた気がするが、そんなに仲がいいとは言えない。その場限りの友達だったのかもしれない。」彼女の心の声が冷静に響く。

1週間は心のケアということで自宅待機となった。政府の支援チームが訪れ、精神的なサポートを提供すると共に、学校側も生存者のプライバシーを守るために全力を尽くした。生存者数4名の名前は報道各社に伏せられていたので良かった。もし報道されていたら、彼女たちの生活はどうなっていたか分からない。

彼女はソファに深く座り込み、冷たい紅茶を一口飲んだ。頭の中で昨日の出来事を繰り返しながら、彼女は次の行動を計画していた。何か大きな陰謀が背後にあることを直感していたが、それを証明する手掛かりはまだ見つかっていなかった。

その夜、柚子は自室で一人、もう1台のスマホを取り出した。

「こちら、ミッションは失敗しましたが、生存者として行動を継続します。」

彼女の声は冷静で、感情を一切排していた。受信機からの応答を待つ前にスマホの電源を切った。彼女は窓の外を眺めた。

先ほど電話したスマホの横には、CIAのロゴが入ったカードキーが置かれていた。静かな部屋の中で、そのカードキーが彼女の秘密を物語っていた。




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