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深海に漂う⑦

私には、同類を見分けるゲイダーのような能力はない。そして、今までの経験上、そんな都合よくコッチの世界の人と日常の中では出会えない。
二日酔いなのか、頭の中に綿が詰まっているような感じで思考が止まっている。

忘れよう。昨日の事は、全部無かった事にしよう。そう言い聞かせて、シャワーを浴びながら目を閉じる。
髪を軽くタオルドライしただけで、ソファーに寝転ぶ。いつもの天井の安心感と、いつもなら仕事している時間の光に罪悪感と優越感。
置いてきたアフタヌーンドレスが少し気になったが、きっともう着ない。
招待状をもらってから、鎖骨が綺麗に見えるドレスを探した。いつもなら躊躇うハイブランドのドレス。
春姫が私の身体の中で1番好きだった鎖骨。デコルテが綺麗に見えて、男の視線を集めるような清楚と色気の間のドレス。
でも、春姫は1度もコッチを、…私を見なかった。不躾な視線を送ってきたのは、どうでもいい男達だけだった。
「律は私だけのモノなんだからっ!」と、軽く唇を尖らせて嫉妬してくれる春姫はもうどこにもいない。
何をしてるんだろう、私は…。
一緒に居る時は、自分中心の春姫から少し離れたいと思った事もあった。
でも、離れてしまうと一緒に居た時間が長すぎて、左側の不在に戸惑う。
目を閉じて思い出す。
私、泣いてたなぁ。泣けたんだなぁ。春姫を失って、悲しかったんだ。
一方的に別れを告げられ喪失感はあるけれど、悲しいのか分からなくてずっと泣けずにいた。それが、あの日解けた。
何がそうさせたのか考えてみるけれど、分からない。

ボンヤリと考えて、イヤ、思考を流している間に夜になっていた。お腹は全く減っていない。とりあえず、明日からのいつも通りの為に今日は早目に寝よう。

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