深海に漂う②

2人でよく行ったカフェ、手渡しされた招待状。
残酷さとそれに気付いていない春姫らしさがあって、クスッと笑ってしまった。
あの日から、感情が何かおかしい。
少し怪訝そうな顔をした春姫に、「分かった。」と返事をした。

親友を祝う友達のポジションで、めいいっぱい着飾って参加したハレの日。あの日なんだか大丈夫な気がして参加に丸をした事を、盛大に後悔した。

春姫の目が、感情を失っている。
そこそこ有名な式場で、まずまず美味しい食事。新郎や新郎の友人達の暑苦しい位の祝福の中で、感情を持たない眼で春姫が笑っていた。
上手く呼吸ができなくて、式場を出てココに来た。
頬を刺す潮風の匂いに、ザワついていた心が少し落ち着いた。

気がつけば、辺りはすっかり暗くなって、暗闇の中ただ押し寄せて来る波音が少し怖いと思った。左側が少し寒い。

もう随分、立ち上がる気力がなくボンヤリし続けていた。

身体が芯まで冷えてしまっていて、風邪ひきそうだなぁなんて考えていると「お腹空かない?」と頭の上から声がした。
懐中電灯がコッチを照らしているので、上手く見えない。右手で光を遮りながら声の持ち主を眺める。
作業用のオールインワンに、ゴム長靴が見えた。170cmの私より少し高いトコロに、飾り気なく髪をひっつめた少し怒ったような顔があった。
「そう言えば、随分前にあっちの方で岸壁を覗き込んでる人がいたな。」なんてオートマティックに思いながら、返事に困っていると、「大丈夫。奢る。」と見当違いの言葉と差し伸べられた手が目の前にあった。
反射的にとったその手は、力強く優しい温度がした。

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