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パリ ゲイ術体験記 vol.30「XL男優」

極度なシャイで強度な赤面症の友人JC君は、行きたくて仕方ないゲイバーにも怖くて行くことができずに、若い頃は常に悶々としていることが多かったらしい。
私は決して勇敢とか豪胆な性格ではないけれど、怖いもの無し的なやや図太い神経をしているので、JC君からは変に頼りにされてSOS案件を受けることがたまにあった。

私達がまだ若かった頃の事、ある日JC君から電話があって、エッチな映画館に行ってみたいので連れていって欲しいと言う。
ネットで好きなものを見れる今日でこそポルノ映画館などは殆んどが廃れてしまっているが、一昔前までパリのその手の映画館はゲイが密かに集う場所でもあった。
その情報を仕入れた彼は、他人の顔がよく見えない暗い映画館は赤面症の自分にはかっこうのお出かけ場だと思いついたらしい。
仕方がないので、出かける前から何故だか既に赤くなっている彼を引き連れていざ映画館に。

スクリーンの中では、当時のフランスポルノ界では有名らしきスーパー男優が持ち前のXLな息子さんを従えて、あっても無くてもよさそうなシナリオで文字通りの茶番劇を披露していた。
「ヘテロセクシャルのポルノ男優って下半身の一部はご立派なのに、なんでこうセクシーでもなく顔もパッとしない田舎くさい連中ばかりなんだろうねー!」と隣に座っているJC君に語りかければ、シーシー声で「恥ずかしいので頼むから黙ってて…」と返ってくる。

映画館のホール後方では、超冴えないおやじ風ゲイ数人が、触覚を伸ばしたゴキブリがうごめく如くに同じ場所を徘徊している。
JC君は間違ってもそんな場所には入っていけないと諦めたのか「映画館はつまらないので出よう」と言う。
フラストレーションだけが残ったらしき彼は、今からブローニュの森に行ってみたいと言い出した。
ブローニュの森はパリの西にある大きな森で、週末ともなると家族連れなどがバイキングや森林浴や犬の散歩などに多く訪れる。

「緑繁る場所ゲイ集まる」みたいな我々の世界だから、大きな森はアバンチュール好きなゲイ達の格好の集いの場所となる。
ここブローニュの森の中には、季節を問わず昼夜を問わず確実に男達がいると保証できるエリアがある。
エリアは更に自然と細分化されていて、シンプルゲイのゾーン•女装のゾーン•男娼のゾーン•SMのゾーン等に分かれている。夜もふければ、知る人ぞ知るゲイ•セクシャリティ達の少し危ない百貨店みたいな様相を呈する。
その昔、夜中に車で私を初めてその森に連れて行ってくれた友人が「30分後にまた車で戻ってくるから楽しんで!」と言い残して、なんと場所を間違えて女装の娼婦エリアというかくも恐ろしい場所に私を置いて行ってしまった。
そのせいで、初ブローニュの森で女装娼婦に追いかけ回され迫られるという焦りまくった経験がある。

JC君とはまだ明るい時間であったから、ちゃんとエリアを確認して車を降りて、暫くしたら戻ってくる約束をして別行動をすることに。
木漏れ日が気持ちいい散歩道を歩いていたら、しゃがんで野花を摘みながら小さなブーケを作っている男が目に入った。
狩りをするような視線の男が多い出逢いエリアで、こんな優雅な事をしているお兄さんもいるんだな.. と思いながらチラッとその人の横顔を見たら、うーん…どこかで会って知っているような見覚えのある顔。
その顔が誰だったかをどうしても思い出せず、その人の周りを行き来してじっくり観察してみたら「ああああーっ、あの男だっ!!」と思いついてひっくり返りそうになった。
あの男とは、つい1時間ほど前にポルノ映画館のスクリーンの中で演じていた男優の主役である!
いやいやいや、そんな筈はない。男優のあまりのビックリサイズがショックだったから、顔が記憶に焼き付いてしまったんだ。ああ恥ずかしや…!と思い直してみたが気になって再び顔を確認しに戻る。
や、やっぱり間違いない …

エイッ!とばかりに「あの~ちょっとお邪魔します。人違いだったらごめんなさい。あ、貴方はもしかして、ある分野で有名な俳優さんではありませんか?」と尋ねてみた。
そうしたら、ニッコリ笑って立ち上がって「ボンジュールお兄さん!うん、そうだよ。俺の事を知ってるんだー?」と言う返事が返ってきたので、私は不整脈が襲ってくる感覚をもった。
「あなた様が何故ここに …」
そう私が呟き終える前に、あろうことか彼はいきなり自分の名器を引っ張り出したと思いきや「それならば、君はこの子も既に知ってるよなー。アハハ」
…と言って、武器をブルンブルン回転させて見せたものだから、こちらは完全に思考停止。重度な急性腑抜けになった。

言っておきたいのは、自分が狼狽してあたふたしたのは何もその凄い御神体を見て発作的にときめいたとかではなくて、このストーリーの非尋常さからである。
普段見る事のないエッチ映画をたまたま観に連れ出されて、その帰りに寄った広大な森の一角でエッチ映画の中にいた男優と鉢合わせをして、オマケにいきなり彼の商売道具を頼みもしないのにお目にかけられる…
こんな現実ってあってもいいの?である。

戻ってきたJC君を待ち構えて事の成り行きを話せば「のりタマ、君はあの映画のせいでエキサイトして取り乱しているだけだ」と言って全く信用しない。
「じゃあ、その男優とやらがいる場所へ連れて行け」と言うので「僕の電話番号を教えてと言ってひかえたら、作ったブーケを持ってさっさと帰って行ったから、もういないよ」と言ったら、JCは一言
「大嘘つき!」
そう思うのは確かに自然なのであるが ..

ちょっと公序良俗に反するようなこの偶然話、これで終わらせたいけれど実はまだまだ終わらないのであります。

つづく..


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