見出し画像

未の刻③

いじめの内容は古今東西同じものだと思われる。
いじめをする人間に想像力が無いからか、個性が無いからこそ自分と違う人間を潰そうと試みるのか。

有布子は漢字が苦手である。
それはいじめを受けたことによる結果だ。
最初の頃は漢字ドリルも宿題もやったが、提出したはずのノートは隠され小テストの際には全てにバツを付けられることで、彼女は漢字を勉強する事を放棄したのである。

また、学校でのことを思い出したくないために、教科書も一切見返したりしない。
そのため有布子は教師がわら半紙で作った小テストでは毎回0点である。
小学校ではグループ分けして点数を競わせたりするが、有布子はその0点の為にグループの点が下がったと殴られる時もあった。

だがしかし、全問正解しても消しゴムで消されて0点にされるのだ。
結局殴られるならばわざと足を引っ張ってやろう、という有布子の気持だ。
まだ一桁の年齢の子供には、悪手だろうがその程度しか考え付かないものだ。

その二年後、ようやく有布子に転機が訪れた。
額にほくろがあるために揶揄われ、前髪を伸ばして顔を隠す女の子を題材にした物語への感想文を、有布子達は担任によって課せられたのである。

有布子は自分へのいじめをもとに作文を書いた。

すると、その作文を書いたために教頭などが有布子に話しかけてきたりと、周囲が有布子を心配してくるという状況になったのである。

けれどこの時の有布子は、失敗した、そう考えただけである。
敵でしかない大人に内面の弱さを知られたら、さらにいじめられる、そう考えた。

あの作文をどうにかしないと。

「今度の参観日に今回の作文を読み合います。お母さん達が来るので、作文を書き替えたい人は書き換えましょう」

その時の担任は、ただ次の参観日を成功させる事しか考えておらず、有布子の作文ではなく他の子供の作文に手を加えるつもりであっただろう。
だが有布子には素晴らしき言葉としか受け取れなかった。

彼女はこの機会とばかりに、かっての作文を全文書き換えたのである。

意味も無く揶揄われる少女の気持がよくわかる、ではなく、いじめられる人間こそ問題があり、少々の揶揄いでぐじぐじ悩んで泣く方が悪く、思い込みの激しい彼女の行動こそ皆の迷惑であった、と言う風に。

結果、絶賛されていた有布子の作文が書き換えられていたことに教師陣こそ混乱し、教頭がこっそりと有布子に尋ねてくるという事態となった。

「どうしたの?あれは凄く良かった作文だよ?どうして作文を書き変えたの?」

「担任の先生がお母さん達が来るなら書き換えなさいって言ったから、先生がいつも言っていることで書き換えました。先生に叩かれるの嫌です」

翌年、担任はその学校を去った。
四年間の悪夢から有布子はようやく解放されたのである。
もともと長くいた教師であったから単なる異動なのかもしれないが、有布子は自分の作文によるものだと考えた。
そして、悪評の広め方を覚えたのである。

復讐まで時間をかける事も悪くないという事も。