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転職のススメとススメナイ

 前回、転職理由を3つあげた。生活環境の違いから、時系列になっている。

① 給料が安く、家族を養うのが厳しくなる。長く勤めないと(年功序列)昇給する可能性がない。
② 会社の方針が大変保守的で、いずれやる気がせる。
③ 何かを達成し、その延長ではそれ以上のことはできないと思ったら、新しいことに挑戦する選択肢を選ぶ。

 今回、4番目の理由を追加するが、結果としてそうなったのかもしれない。

④  キャリアを活かし、キャリアを伸ばす。 

 転職の「ススメ」としては、④が本来と思う。私の3つの理由は、そうせざるを得なかった、”止むに止まれず”選んだ道と言えなくもない。

 若い人からの相談は、②と④が多い。②の理由では、移った会社も保守的だったというリスクもあるので、転職先をしっかり吟味することを勧める。ダメだったら、また次を探せば良いと助言すると、不安をあおってしまうが、たいてい辞めている。

 ④の場合は、難しい。ススメるには材料が足りず、ススメナイには、同情が邪魔することが多い。特に若い人では、「キャリア」と呼べるかどうか躊躇ちゅうちょする。「棚卸し」するほど商品が多くない店のようでもある。まあ、埃を被ってはたきで払う必要のある商品(例えば中高年にたまにいる「昔取った杵柄きねづか」)が無いだけましだと思うことにしている。

 そういう時は、たとえ短い期間のキャリアでも、その先・延長上にあるものまで読んで、「仮想キャリア」構想をしっかりまとめるように助言している。考え方と姿勢が勝負になる。そもそも、日本企業は、いかに会社の仕事やチームワークに馴染むかが優先で、一人一人のキャリアなんてお題目以上に真剣に考えているようには見えない。転職でもされたら困るし。

 振り返って、私の転職の結果はどうだろう?

 30年で5回転職の成績は、3勝2敗と思っている。総論的には良かったのだろうが、失敗だったかなと思う転職もある。転職チャンスは、求人企業に半分支配されるのだから、しょうがない。在籍期間で測ると、3勝は、10年、8年、4年と割と「長く」続き、2敗は、4年か2年と短い。

 上手く行った方は、直属上司がトップ( CEO)で外国人か日本人離れした人というのが共通している。私の職位が高かったわけではない。成績が良くても「上」=CEOに出世するということはない。しかし、仕事の重要性が認識され、責任と権限があった。「君を信じて、任したぞ」「わかリました、頑張ります」という関係だ。

 2年で辞めた会社では、実際の仕事には関与しない「管掌役員」の日本人No.2がいて、トップとの本来あるべき関係が間接的になり、仕事が「曲がった」。元日本企業が外資に買収され、役員・幹部はほとんど日本人で、日本的制度が支配していた。日本人を「差別」しているのではなく、仕事と関係のない序列制度が問題と思っている。

 退職願*を出すと外国人のCEOに呼ばれ、理由を1時間も説明させられた。「そんな理由では納得できない」と言われ、「政治的理由(Political Reasons)」と答えたら、あっさり認められた。薄々感じていたのだろう、私の後任が2年決まらなかったと、後で聞いた。*「退職願」の「願い」というのも日本的ではある。

 職務経歴(キャリア)を頼りに活動すると、転職先は、ほとんど海外企業になってしまう。海外企業は、キャリアで決まる。新卒で一括採用し、社内研修やローテンションで適性を見て仕事を割り振るなんて、悠長なことはしない。即戦力として使えそうな人材は、外からでも内からでも、さっさと採用・登用する。

 社員もサバサバしたもので、大企業の部長が仕事が合わなく感じ、ちょっと小さめの企業の課長に転職していくケースもある。海外では、キャリアを軸に水平的な市場が存在しているからで、日本みたいに、企業や業種縦割りの垂直な市場ではない。何も欧米に限った話ではなく、アジアでも進んだ国はみんなそうだ。

  「応募書類」というのも随分違う。日本では、いまだにキャリアより、「履歴」が重視される企業が多いように思う。さらに、「学歴」や、転職回数なんかは問題だ。職務経歴は一生懸命書いたが、履歴書は手を抜いた。

  海外企業では、レジュメの最後に「教育(Education)」というのがあり、最終学歴を書く。どんな仕事をしてきたかが遥かに重要なのだ。年齢だって最後の方だ。日本では、履歴書の最初の方で、職歴の前に「学歴」を書かされる。

 ちなみに、社会貢献やボランティ活動などは、海外企業では学歴同等の扱いだが、日本式履歴書では「その他特記事項」に書く。

 ある自治体の「国際交流」の非正規嘱託職員を募集していたので応募した。条件は悪いが、キャリアが活かせそうだと思った。

 「局長」という偉そうな人が出席した最終面接の最初の質問「出身は、〇〇市ですか?」で、次は予想できた。「焼酎が有名ですよね?」これで、結果は読めた。

 会社でも地域でも、長年、社会貢献やボランティア活動をやってきたので、レジュメに加えて、そうした活動の概略をまとめたレポートも送っておいた。

 面接は、局長が出席したので、さっきまで打ち解けていた他の人は質問しなかった。彼は、目の前の履歴書だけを持って、左手に積んだレジュメとレポートには一度も目を向けなかった。

 一応国際交流経験も問われたので、「左の書類を読んどけよ」とは言わず、「覚えているだけでも、アメリカ、イギリス、ロシア、インド、韓国、中国、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールなど、多くの国の人々と一緒に仕事をしたり、ボランティアをしました」と、時間の無駄だと思いながら、嫌味を兼ねて、わざと長い回答をした。

 学歴と職歴で、ちょっと困ったことを思い出した。

 世の中には、「中退」でもそれなりの「価値」がある変な大学がある。ある特定の分野で、作家、俳優、インテリ系タレントに多く、中退にも箔がついている。学費未納で除籍になった大学がそれで、収まりどころが悪い。2年目除籍だったので卒業した大学への「途中編入」や「浪人」にしたりして、辻褄を合わせた。

 さらに、転職履歴を全部書くと長くなり、「入社・転職」以外に何か書くとますます長くなるので、「大学卒業後、さまざまな会社に勤務」として、社名を省いて、主な仕事を箇条書きにし「詳しくは職務経歴書に譲る」と書いたら、即刻返送されてきた。

 公文書の改竄かいざんや廃棄が横行し、これにならったかのように民間企業でも、データ改竄が横行する社会に成り下がってしまったのだから、履歴書の「工夫」に、経歴詐称、私文書偽造などとめくじらをたてる人もいるまい。

(了)

 


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