見出し画像

『婚活村』 - その村に入ったものは、決して独身では帰れない - 第一話(#創作大賞2024 #漫画原作部門)


あらすじ

舞台は過疎化と少子化に悩む香川県の山奥の小さな村。 都会から移住者を呼び込むために、村長のアイデアで婚活プロジェクトが始動。 街コンならぬ村コンを開催して、カップルが成立したら空き家を贈呈する計画。 都会から集まってきた男女7人の応募者は、問題を抱えたダメ人間ばかり。 村役場に勤務する主人公の明石凪あかしなぎさは、村長の自由奔放な思いつきに翻弄されながら彼らの世話役として奮闘する。 古い民家を活用した奇妙な共同生活が始まる。はたしてここから結婚するカップルは誕生するのか?


補足:キャラクター紹介

明石凪(あかしなぎさ)29歳
・主人公
責任感が強く穏やかなな性格だが、夜になると一変してデスメタルを爆音で聴きながら毒気たっぷりの漫画を描いて発散するのが習慣。

七瀬有栖(ななせありす)29歳  *応募者1
凪の中学の同級生。高校からアメリカに転校し村を出たが、婚活村プロジェクトを知って15年ぶりに地元に戻ってきた元問題児。

黒木風雅(くろきふうが)22歳  ・応募者2
超絶イケメンだが、超絶ネガティブ。何事にも自信がなく常に他人を妬んでいる。のちにゲイであることと参加の本当の理由をカミングアウトする。

後藤守(ごとうまもる)38歳. ・応募者3
バツイチ、理屈っぽい理系研究者。趣味筋トレ。

伊東ゆり(いとうゆり)26歳  ・応募者4
食べることが大好きな大食いユーチューバー。婚活スペシャリスト。

四谷智久(よつやともひさ)32歳  ・応募者5 
コミュ障のオタク。闇サイトでアイドルの似顔絵を売って稼いでいる。

月影恵(つきかげめぐみ)37歳  ・応募者6 
元モデル。ベンチャー起業家と結婚し、いわゆるトロフィーワイフを5年するが、夫の事業が破綻し離婚。田舎嫌い。

野村泰造(のむさん)61歳  ・応募者7
経歴職業不詳、わかっているのはバツ4。惚れやすく誰でもすぐに口説く。

大村大二郎(おおむらだいじろう)55歳
美杉村の村長で、婚活村の発案者。自由奔放な発想と強引な丸投げで、常に凪を困らせる。存在恋愛リアリティショーが大好きで、そこから次々と婚活村計画のアイデアを思いついていく。

紫吹真由美(しぶきまゆみ)46歳
町内会会長。保守的で村長の大村と犬猿の仲。問題が多い移住者を“独身モンスター”と呼び、ことあるごとに婚活村プロジェクトの邪魔をする。

明石慎吾(あかししんご)55歳
凪の父で村長の同級生。男手ひとつで凪を育てた一番の理解者。ひたすら優しい。亡くなった凪の母親のことになると話を逸らす。



第一話

●村役場の前の広場(午前)

杉の山に囲まれた香川県の山奥の小さな村。
田植え前の水田には、青空と連なる山々の反射が映っている。
春の暖かい日差しの中、腰が90度近く曲がったお婆さんが、カタツムリほどのスピードでゆっくりと歩いている。
この穏やかな田舎の静寂を切り裂くように、村役場の前の広場で、村長の大村大二郎おおむらだいじろう(55)の声が響く。
村長:「…ええ、過疎化少子化は日本全体の問題です。この美杉村も例外ではありません。このまま人口減少が続けば…」
村長はカラオケの時と同じように小指を立ててマイクを握り、熱弁を振るう。
村役場前に建てられたステージの上から、集まってきた数十人の老人たちに選挙演説のように語りかける。
村役場に勤める明石凪あかしなぎさ(29)は、落ち着かない様子で会場内を右往左往している。
村長:「…特にこの村のように、これといった産業や魅力がない田舎では、学校も廃校になり、若者は出ていき、そして老人しかいない村にすぐになってしまいます。そこで!わたくし大村大二郎はこの村を救う一大プロジェクトを発足することにしました」
凪はスマホの時計を確認したり、遠くを見たりして落ち着かない。
凪:(心の声)「まだかな…」
村長:(凪に向かって小声で)「凪ちゃん、準備いい?」
凪:「あ、はい、村長」
指でOKマークを作って合図を送る凪。
村長:「ええ、その名も…」
ステージにかけられた幕から伸びる紐を、村長が引っ張ると幕が外れ大きなボードが現れる。

「婚活村 プロジェクト」

村長:「じゃじゃ〜ん!美杉村婚活村プロジェクト」
ポカンとする聴衆の老人たちから、パチパチパチとまばらな拍手が起こる。
村長:「今日は、メディアの皆さんにも集まってもらっています」
村長が向いた先には、老人と子供の二人が紙と鉛筆を持って椅子に腰掛けている。
腕には「美杉村会報誌」「小学校新聞」と書かれた腕章。
村長:「メディアの力も借りて、この取り組みを、この村の魅力を香川中に、いや日本中、世界中に広げていこうじゃありませんか」
ポカンとしている聴衆。動じることなくスピーチを続ける村長。
村長:「ではここで、今日の主役のみなさんに登場してもらいましょう」
凪:(心の声)「もう、遅いなあ…」
村長:「ええ、婚活村プロジェクトに参加された7名の移住希望者をご紹介していきます。ええ、発表は村役場、移住推進課主任の明石凪ちゃんから」
マイクを受け取り、クリップボードの上の進行表に目をやりながら紹介をしてく。
凪:「ええ、一人目は後藤守ごとうまもるさん。東京で生物学の研究者をされています、どうぞ」
ト書き:「後藤守。38歳。研究者」
凪:「伊東ゆりいとうゆりさん。登録者3万人の人気YouTuberです。美杉村の人口の何十倍もの登録者ですね」
ト書き:「伊東ゆり。26歳。YouTuber」
凪:「黒木風雅くろきふうがさん。今回の参加者で最年少。大学生です」
ト書き:「黒木風雅。22歳。大学生」
村長:「おお、美男子。わたくしの若い頃を思い出すなあ、なんちって ガハハハッハ」
凪:「…。」
凪:「はい。続いて月影恵つきかげめぐみさん。元々モデルをされていました」
ト書き:「月影恵。37歳。元モデル」
村長:「都会のおなごさんはすらりとしてますなあ。わたくしより背が高い!」

凪:「四谷智久よつやともひささん。イラストレーターです」
ト書き:「四谷智久。32歳。イラストレーター」
凪:「そして、野村泰造のむらたいぞうさん。最年長61歳。お若く見えますねえ」
ト書き:「野村泰造。61歳。職業不詳」
凪:「もう一人の方は、ちょっと到着が遅れていまして…」

バァバァバァバァン!

バイクの爆音が鳴り響く。
田んぼの向こうに、田舎に似つかわしくないド派手なバイクが砂埃を上げて爆走している。
婦人会長:「まあ、うるさい!」
声を上げたのは美杉村の婦人会長の紫吹真由美しぶきまゆみ(46)。
それぞれ「移住者反対!」「美杉村を汚すな!」というプラカードを持った婦人会のメンバー二人を左右に従えている。
バイクがスピードを出したまま会場に入る。
前輪が前に突き出たチョッパー型のハーレー。
ボディはオレンジ色で炎が描かれている。
ブレーキをかけ後輪を滑らせると、砂埃や砂利が、婦人会の3人のプラカードに当たる。
婦人会長:「まあ、なんてことを!」
凪:「有栖…」
ステージ上の困惑した表情の凪。
バイクに跨ったまま七瀬有栖ななせありす(29)がヘルメットを脱ぐ。
金髪の長髪、右サイドの耳元は刈り上げて、巨大なピアスをしている。
有栖:「遅くなったな」
ト書き:「七瀬有栖。29歳。無職」


●村役場の中(午後)

ト書き:「半年前」
古い木造の村役場の2階にある村長室。
日の丸や習字で書かれた四字熟語が額に入れて壁に飾られ、
壺や、トロフィー、ゆるキャラのマスコットなどが無造作に棚に並べられている。
応接テーブルを挟んで向かい合わせに座る村長の大村大二郎と明石凪。
村長:「凪ちゃん、ワシは天才かもしれん」
凪:「はい?」
村長:「いや〜降ってきたんだよ、ビッグアイデアが」
凪:「またですか…」
不安げな表情の凪。
村長:「いや、今回は上手くいく。凪ちゃん、この村の一番の課題は何かね?」
凪:「うん…過疎化?」
村長:「そう!人口減少。特に若い世代が減ってる少子化。それに伴う空き家増加。これらを一気に解決し、さらに美杉村の魅力を全世界にP Rするサイコーのアイデアを思いついちゃったんだ」
村長は習字で「婚活村プロジェクト」と書かれた紙をホワイトボードに貼る。
村長:「ジャジャーン」
凪:「??」
村長:「昨日恋愛バラエティーショーを見ててひらめいて」
凪:「…」
村長:「都会から集めた婚活希望者を村の空き家に住まわせて、共同生活しながら相手探しをしてもらおうちゅう狙いだよ。都会では街コンというのがあるらしくてなな、街コンならぬ村コン!どうだ」
凪:「いや…でも…」
村長:「カップル成立したらそのまま村の空き家に住んでもらって、一石二鳥どころか、三鳥四鳥五鳥…」
凪:「そんなうまくは…」
村長:「凪ちゃん、ワシは天才だ!」
凪:「村長、でもどうですかね…保守的な村ですし…」
村長:「何だ、反対なのか?」
凪:「私は反対ではないですが…婦人会の3名がなんとおっしゃるか…」
村長:「ふん!あの三婆烏(サンババガラス)か?」
凪:「移住者は揉め事の原因になりますし…」
村長:「あのね、イノベーターは摩擦を恐れないものだよ。スティーブ・ジョブスもイーロン・マスクも田中角栄にだって、足を引っ張る奴はいたはず」
凪:「…」
村長:「凪ちゃん、君には見えないのかい?誕生するカップルの姿が。聞こえないのかい、新たに生まれる赤ちゃんの産声が」
凪:「…」
村長:「私には見える、美杉村の明るい未来が。このプロジェクトは絶対に成功する。そして、凪ちゃんは感謝するでしょう」
凪:「感謝…」
村長:「凪ちゃんは涙して、このプロジェクトを喜ぶでしょう」
戸惑う凪の表情。


●村役場の前の広場(午前)

ト書き:半年後」
七瀬有栖がヘルメットを脱ぐと、金髪の長髪、右サイドの耳元は刈り上げて、巨大なピアスをしている。
有栖:「遅くなったな」
ト書き:「七瀬有栖。29歳。無職」

凪:「な、七瀬有栖さんです…」
ステージの上から凪が紹介するが、派手な登場に村人はみんな唖然としている。
婦人会の3人組がプラカードを持って、
「移住者はんた〜い!」「美杉村を汚すな〜!」とシュプレヒコールをあげる。
村長:(心の声)「三婆烏め!」
村長:「ええ、最後の一人がようやく到着されたようですね。七瀬有栖さんは、何を隠そう、この凪ちゃんの元同級生です」
凪:「はい、有栖さんはこの美杉村で育って高校からアメリカ行っていましたが、今回このプロジェクトに参加すべく晴れて凱旋帰国されました。パチパチパチ」
ヘルメットを小脇に抱えて、村民を見下ろす有栖。

村長:「ええ、参加者のみなさんには、この先、花見、BBQ、カラオケ大会、川下り、お遍路巡り、そして美杉村夏祭りと、さまざまなイベントに参加してもらいます」
婦人会:「移住者はんた〜い!」「美杉村を汚すな〜!」
村長:「ええ、ということで、参加者のみなさんには共同生活をする家に、これから移動してもらいます。この明石凪くんが責任持って面倒みてくれますので、大船に乗ったつもりで安心して恋愛を謳歌しちゃってください」
婦人会の反対の声が大きくなり、村長は逃げるように会を終わらせる。
村長:「凪ちゃん、あとはシクヨロ」



●一軒家にて(午後)

山の麓に立つ大きな古民家。
凪が7人の移住応募者を引き連れて来る。
凪:「みなさんには家の前の畑でお野菜を育てていただきます。地元の方のご協力ですでに苗が植えてあります」
“自給自足か…” “野菜作りなら任せてよ、俺元々農家やってたから”と興奮気味の参加者たち。

凪:「ええ、ここが今日からみなさんが共同生活をするおうちになります」
藁葺き屋根がある古い一軒家に、「ようこそ、美杉村へ。婚活村プロジェクト」と書かれた派手な垂れ幕がかかっている。
“でっかい家だ”“立派だなあ”と歓喜の声があがるが、凪が戸を開けると、7人の表情は一変する。
蜘蛛の巣が張り、土埃が家中を覆い、色褪せた障子には穴が空いている。
“こりゃひでえなあ” “なんかカビ臭い” “え、こんなとこ住めないわよ”
と不満を口にする。
凪:「そ、そうですね、ちょっと手を加える必要がありますけど、かなり広いですし…」
野村:「まあ、直せば住めるよ、任せてよ。俺元々、内装の仕事してたから」
最年長の野村泰造の言葉に背中を押されて、続々と家の中へと入っていく。
凪:「そうなんです。共同作業を通じて愛を育んでもらおう、というのが村長の狙いでして…」
後藤:「そんな番組ありましたね。テラスハ…」

恵:「ぎゃーー!!!!」

バタバタっと大きなカラスが天井から飛び立ち、月影恵の横を通り玄関から外に飛んでいく。
驚いて倒れ込む月影恵。
恵:「ああ、命の次に大切なハイヒールが…」
田舎には場違いなハイブランドのピンヒールが折れてしまい、落胆の表情を見せる。
折れたヒールを手に取る最年長の野村。
野村:「これなら簡単に直せるよ、俺元々靴屋やってたから」
後藤がカラスが飛び立った天井を見上げる。
後藤:「ああ、カラスの巣があるんだ。こりゃ、カラスハウスだ」
野村:「カラスハウス、いいネーミングだねえ」
凪:「まあ、みなさん座りましょう」
土間の囲炉裏の周りに座布団を敷き、円になって座る。

凪:「では、自己紹介をお願いします。じゃあ有栖から時計回りで」
隣の七瀬有栖にあいさつを促す。
ひとりだけ座布団ではなくバイクのヘルメットの上に腰掛け、ヤンキー座りをしている。
有栖:「七瀬有栖。よろしく」
凪:「え?終わり?」
有栖:「これから知るんだからいいだろ」
凪:「有栖とは小中学校まで一緒で、人生の半分はアメリカにいたんだよね」
有栖:「そんな感じ」
気を遣い笑顔を取り繕う凪とは対照的に、無愛想でぶっきらぼうな有栖。

後藤:「じゃあ次は僕かな」
タンクトップ姿の後藤が立ち上がる。
後藤:「後藤守。38歳、バツイチです。娘が一人いますが今は元妻と暮らしています。趣味特技はどちらもこれです」
そう言って、隆々とした上腕二頭筋を見せる。
後藤:「筋トレやプロテインのことならなんでも聞いてください」
凪:「後藤さんは、こう見えて生物学の著名な研究者なんです」
後藤:「こう見えて?それは筋肉に対する偏見ですか?」
凪:「あ、失礼しました、そういうつもりでは…」
後藤:「冗談ですよ。休職してこのプロジェクトに参加しました。本気です」

凪:「続いて、黒木さん」
後藤の隣に座る黒木は、日焼けした後藤とは対照的に、アイドルグループにいてもおかしくないほど白く透明感のある肌をしている。
黒木:(囁くように)「黒木風雅と言います…」
「え?」
あまりに声が小さく、みんな同時に聞き直す。
黒木:「黒木風雅と言います。慶蹊大学の4年生です」
“あら、若い” “イケメン” “エリートだ”
モテそうなスペックとは裏腹に、自信ないオーラが全身から溢れている。
後藤:「君、イケメンなんだからさ、もっと自信持ちなよ」
後藤の雑な指摘に凪が慌ててフォローをする。
凪:「黒木さんは最年少ですので、みなさん色々とご指導お願いします。続いては伊東さん」

小さな体に丸顔の童顔、座布団の上に座るとゆるキャラのように見える伊東ゆりが早口で話し始める。
ゆり:「伊東ゆり。26歳。ええ、食べることが大好きです。大食い系ユーチューバーやってます。婚活歴は4年で、ありとあらゆるアプリや婚活パーティーや婚活サロンを経験しています」
後藤:「へ〜、何で、このプロジェクトに参加したんですか?」
ゆり:「婚活アプリだけでも4つも入っていたんですが、条件で人を選ぶのがなんだか合わなくて…。全部脱会して今回に掛けてきています。私も本気です」

凪:「続いては…」
凪が下を向いている四谷に挨拶を促す。
ボサボサの長髪で目が隠れている。体全体に肉が乗っていて、背中に背負った大きなリュックサックが、丸い印象をさらに強めている。
四谷:「ええ…、四谷智久です。32歳。ええ、イラストレーターしたり、アイドルグッツをネットで売って生活してます…」
下を向いたまま誰の目も見ずに挨拶を済ます。
後藤:「3次元の恋愛とか苦手そうだね」
凪:「後藤さん…」
後藤:「好きなタイプとか言っちゃいなよ」
四谷:「好きなタイプは…、僕のことを気持ち悪いと言わない人です」
「…」
四谷の発言に誰もリアクションできずにいると、沈黙を遮るように月影恵がハキハキと話し出す。

恵:「ゴホン(咳払い)月影恵です。離婚経験ありますが子供はいません。結婚前はモデルをしていました。おいしいものが大好きで、趣味はミシュランの星集めです」
ハイブランドで全身覆って、古びた民家の中で完全に浮いている。
後藤:「なんだかいい香りがしますね」
恵:「はい、シャネルの5番です。ここはなんだかカビ臭いですね。正直、田舎暮らしは好きではありません」

凪:「では、最後、野村さんお願いします」
野村:「ええ、野村泰造。61歳、ええ、バツ4です」
「おお〜」と歓声が上がる。
野村:「人生経験だけは皆さんよりあるんで、なんでも頼ってください。あ、あとノムさんと呼んでください」

一周まわったところで、凪が立ち上がり、部屋をくるりと眺める。
凪:「ということで、皆さん、この家で自給自足の生活をしていただきます。料理もあちらのキッチンで交代でお願いします」
古びた竈門がありキッチンという雰囲気ではない。
凪:「竈門も薪もありますけど、ちゃんとガスも通ってますからご安心ください」
野村:「料理は任せてよ。俺元々シェフやってたから」
ゆり:「ノムさん。なんか、色々やってるんですね」
恵:「料理はお願いします。私食べる方が得意なんで。あ、あと、朝食はエッグベネディクトしか認めないんで」
野村:「エッグベネディクトね、任せなよ」
恵:「でも、料理より掃除が大変そう。壁に穴も空いてるし…」
泥土を乾かしたような壁に穴を見つけ、恵が覗き込む。

恵:「ぎゃーー!!!!」

またも恵が倒れ込む。
凪:「どうされましたか」
恵:「目が目が…」
野村:「任せなさい」
いきなり、「押忍!」と叫び正拳突きで土壁を壊す。
みんなが唖然とする。
野村:「元々、空手の師範をしていてな」
土埃が収まると、壁の向こうの納戸に三人の人影が見える。
凪:(心の声)「三婆烏!」
土埃が収まると、壁の向こうの納戸に三人の人影が見える。
凪:「婦人会の皆さん!どうされたんですか!」
婦人会長:「どうもこうもないわよ!変なことが起きないよう、見張っていたんです」
凪:「見張るって…」
婦人会長:「それにしても、あんたたち、よく嘘ばっかりつけるわね!」
凪:「嘘?」
婦人会長:「みなさんのこと、婦人会の方で独自に調査させていただきました」
婦人会AさんBさんが、報告書と書かれた資料を、婦人会長に渡す。
婦人会長:「著名な研究者?人気youtuber?モデル?聞いて呆れますわ。まずあなた!」
有栖を指差し睨みつける。
婦人会長:「七瀬有栖。あなたはスピード違反の常習者ですね」
有栖:「はあ?」
婦人会長:「今年に入って3回も。バイクでも車でも違反していますね」
有栖:「F○ck!日本の法定速度が遅すぎんだよ」
婦人会長:「そもそも、あなた。この婚活村に応募してきた書類の写真、これなんですか!」
婦人会Aさんが写真を広げる。速度違反取り締まりの自動カメラで撮られた写真。
婦人会長:「オービスの写真ですよね」
有栖:「しょうがねえだろ、ちょうどいい写真がなかったんだから」
婦人会長:「次は後藤守!あなたはストーカーです」
後藤:「はぁ?」
婦人会長:「裁判所から接近禁止命令が出されていますね」
後藤:「ストーカーじゃない。自分の娘に会おうとしただけだ」
婦人会長:「身内とはいえ、保育園に無断侵入するのは立派なストーカーです」

婦人会長:「次は伊東ゆり!あなた迷惑系youtuberですね。食べ放題の店を閉店に追い込んだり、危険なきのこ食べたりで大炎上していますね」
婦人会Aがスマホで映像をスマホで見せる。キノコを食べながらケラケラと笑い続けるゆりの姿が映っている。
ゆり:「あれ、これもう公開してないはずなのに…」
婦人会長:「隠しても無駄です!悪事は永遠です」
ゆり:「笑いきのこだったの知らなくて…」
婦人会長:「次!四谷智久!イラストレーターって言ってたけど、アイドルの似顔絵や破廉恥な絵を闇サイトで売って生計を立てていますね」
婦人会Aが一枚の絵を見せる。写真と間違えるようなリアルタッチのアイドルの水着姿。
婦人会長:「ちょうど、落札したものが届きました」
後藤:「おお、KGB42センターの広原こずえちゃん。こりゃ高く売れるわ」
凪:「これ購入したんですか?」
婦人会長:「当たり前です!調査ですから」
四谷:「お買い上げ、ありがとうございます」
婦人会長:「ありがとうじゃないわよ!違法行為よ!」
婦人会長:「次は月影恵!37歳元モデルと言っていたけど、最近までいかがわしいお店で働いてらっしゃいましたね」
婦人会Aが際どい服を着てキャバクラで接客をする恵の写真を見せる。
婦人会長:「まあ、汚らわしい」
恵:「こ、個人情報ですよ!」
婦人会長:「1週間の張り込みで、同伴2回、アフター3回行っていました」
後藤:「ものすごい執念だなあ…」
婦人会長:「全てはこの村を守るためですから」
婦人会長:「最後、野村泰造!先程バツ4と言ったけど、最後の奥さんと正式に離婚されてませんね」
野村:「おお、よく調べたねえ」
全く動じずに、ニコニコと笑っている。
婦人会長:「何を開き直っているんですか!重婚は犯罪ですよ」
野村:「連絡付かねえだからしょうがないだろ」
婦人会長:「まったく!こんな問題児ばっかり集めて、何が過疎化対策よ!」
凪:「いや、でも…」
婦人会長:「由々しき問題です。凪さん!村長はどう、責任を取るんですか?」
凪:「申し訳ございません…村長に伝えて対応いたします」
うな垂れる凪。


●凪の自宅にて(夜)

凪の部屋。
子供の頃から使ってきた古い勉強机に、肩を小さく丸ませて座る凪。
机の横には写真立て。色褪せた写真には2〜3歳の凪と、若い頃の両親が映っている。

耳がすっぽりと隠れる大きなヘッドフォンで、音楽を聴きながら、机の上に広げた紙に、ひたすら漫画を殴り書きしている。
爆音で聴いているのか、デスメタルがヘッドフォンから音漏れしている。

♪Fuckin' kill you all~


シャーシャーと、スピーディーに漫画を描いていく。
血だらけの女性。首が吹っ飛ぶ男性。ナイフで次々と刺していく影など、サイコパスな絵。
昼の優しい表情とは一変し、目は血走り、何かに取り憑かれたように一心不乱に描き続ける。
「だから言ったのよ!」「何が問題ないよ!」「問題児ばっかりじゃない!」
「三婆烏もどんだけ暇なのよ!」
怒りが抑えきれなくなって声を出しながら、毒々しい漫画を次々と描いていく。

部屋の外で、心配そうにたたずむ、凪の父の明石慎吾あかしけんご(55)。
お盆にお茶を乗せているが、漏れてくる凪の声を聴いて娘の部屋に入れず立ちすくむ。
慎吾:「凪…」


つづく。

#創作大賞2024 #漫画原作部門   #婚活  


第二話

第三話


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?