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後悔していること。生きてきて一番悲しかったこと。

高校生のときの親友、Kちゃんの話。

高校3年生の秋になると、部活も終わって一気に受験モードに突入しました。そんな中、私は大学に行く意味が分からなくて受験勉強をしなかったり、精神的に不安定になって学校を休んだり、無茶苦茶な受験生をしていました。
私が通っていた高校はいわゆる進学校で、東大を目指している子がたくさんいました。みんなピリピリしつつ、学校では普通に振る舞っていた気がします。

私は仲のいい子には自分の精神疾患やメンタルの状態を割とオープンに話すタイプです。勉強をどれくらいやったとか、そういうこともあまり隠さず言います。「これだけ頑張った!ほめてほめて〜!」みたいな感じで、妹っぽく可愛がられてました。
そんな私をKちゃんは優しく支えてくれて、話を聞いてくれました。東大志望で忙しいのに、一緒に帰ってくれたり勉強を教えあったりしてくれました。

私立を第一志望にしていた私はすでに合格が決まっていたのでお気楽モードでしたが、国立志望の子たちは後期に向けて勉強していたので、そっとしておいた方がいいな、と思い、Kちゃんとも特に連絡は取っていませんでした。

東大の合格発表の日、私はがらんとした教室で本を読んでいました。合格した学校を報告する書類を提出するために学校に行って、なんとなく教室にいました。
バタバタっと廊下を走る音がして、廊下を見ると同じ文系クラスだった子たちが職員室に走っていくのが見えました。報告が終わって戻ってきたときに声をかけると、東大に合格した、と教えてくれたので、今日登校している子たちは第一志望に合格した子たちだということに気がつきました。

私はKちゃんが来るかな、とワクワクしながら待っていたのですが、Kちゃんは来ず、お昼の時間になったので私は帰宅しました。

Kちゃんから連絡が来たのはその日の21時ごろ。
「落ちちゃった」とLINEが来ていました。

次の登校日の帰り道、Kちゃんはぽつぽつと気持ちを打ち明けてくれました。

すごく悔しくて、整理がつかなかったこと。
泣いていたこと。
今も踏ん切りはつかないけど、滑り止めで合格した大学(私と同じ大学)に進学しようと思っていて、後期は受けないこと。

同じ大学に行けるとは思っていなかったので、私はつい嬉しくなってしまいました。
「Kちゃんと同じ大学に進めるの、嬉しい!」
と言ってしまった私を責めるでもなく、諦めたような笑顔でKちゃんは言いました。

「9月と10月、もっと頑張れていればよかった」

誰しも、振り返って後悔することはあると思います。けど、誰よりもストイックに勉強に取り組んでいたKちゃんを見てきた私は違和感を感じました。頑張り切ったとき、悔いは残りません。後悔しないように勉強したい、と言っていたのはKちゃんでした。

そのとき初めて、Kちゃんが9月と10月、文字が読めなかったことを知りました。


失読症というのは、脳に障害が出ると発症することで知られています。しかしKちゃんは、受験によるストレスで一時的に失読症に陥ってしまったのです。

基礎を終えて、本腰を入れて取り組めるようになるのは公立の高校の場合秋からです。他の子たちは大きく成績を伸ばしてくる中、どれほど焦り、苦しんだだろうと思うと心が痛くなってしまいます。

英語の長文が読めなくなった。
単語一つ一つは分かるのに、すぐに忘れてしまって文の意味が取れなくなる。
国語も読めなくなり、数学や理科基礎などの短い問題文も分からなくなった。

誰にも言うことができなかった。


模試の成績が大幅に下がったことに気がついた担任は声をかけたようですが、どう説明すればいいのかわからず、言えなかったこと。

授業では周りにバレないよう必死に取り繕っていたこと。

そして。
「かんなちゃんもすごくしんどそうだったから言わなかった」



Kちゃんはあまり友達付き合いが深いタイプではなく、悩みを打ち明けられるのは私しかいないことは分かっていました。それなのに、私は自分の悩みを言うばかりで、Kちゃんの話を聞くことができませんでした。

もし、Kちゃんの様子をもっと注意深く見ていたら。
「辛くない?」と声をかけていたら。
Kちゃんは第一志望校に合格していたかもしれない。

Kちゃんはストイックで、タフな子です。私や周りの子達はそう思っていたし、Kちゃん自身もタフだと思っていました。
だから、気付くことが難しかった。と言うのには、あまりにも無責任じゃないかと思うのです。

どれだけ東大に行きたいか知っていました。合格したらあんな勉強がしたい、こんなことがしたい、そういう話を何度も聞いてきました。Kちゃんほど必死に時間を作って勉強していた人を私は知りません。

Kちゃんの夢を奪ってしまった。そのとき言った「ごめん」では、到底償いきれません。

Kちゃんはそのあと未練を吹っ切り、現在は大学生活をエンジョイしています。東大に合格した子たちと遊んだりもしているので、コンプレックスに思うことも今はないのかなと思います。
でも、一番大切な友達の悩みを聞いてあげられなかったことへの後悔は、もしかすると一生背負っていかなければならないものかもしれない、と思っています。

大切な人に頼ってもらえる人間になろうと思ったのは、そのときが初めてでした。

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