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〈詞〉春の一人称単数

冬が終わろうとすると、いつも君のことを考えてしまう。
そして、いつも君は期待を裏切らず、ぼくのもとにやってくる。

君との出会いは、いつも突然だ。気づくと君はすぐそばにいる。
君の気配は、すぐにぼくの目を赤らめる。

君は目には見えない。もちろん他の人にも見えない。
ただぼくは、君を気配で感じることが出来る。まるで船の魚群探知機のように。

君を意識し始めると、他のことに手が付かない。
君は、ぼくの生活の大部分を支配し、虜にしてしまう。


今、ぼくは君に支配されている。精神的にも、肉体的にも。
特に、今年の君は強烈だ。いつも以上にぼくを支配している。強く、強く。
何をするにも君を感じずにはいられない。


ねえ、君はおそらくぼくの人生の伴奏者の1人だ。
勘違いしないで欲しい。ぼくは君のことが好きじゃない。
けれど、この先もずっと付き合っていく運命だ。

だから、ぼくは君と上手に付き合えるようになりたい。
来年は、君を迎える準備を万端にする。今年は間に合わなくて、君を怒らせてしまったから。


きっともうすぐ、君との別れは訪れる。君はいつも、いつの間にかいなくなる。
それは決まって桜の咲く時期だ。卒業式に合わせるかのように。
どうかそれまで、ぼくが正気を保っていられますように。

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