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時間について

気候風土適応住宅をとおしてやろうとしていることは何だろうか。

1つは、途切れそうになっている、あるいはすでに途切れてしまっている時間のつながりを、もう一度つなげ続けようとする試みなのかもしれない。

途切れそうになっている時間のつながりとは、一言でいえば伝統や風俗ということではないか。
それは、家を造るための職人の技術であり、家での住まい方であり、家並みや自然から形成される景観や風景であり、そこに暮らす人々が享受し、その人の根っこの部分となる風土とのつながりでもある。

家造りや家での住まい方に費やしていた時間は、便利さや効率化の中で失われ、日常の中でこれまで費やしてきた時間も、どこかに消えてしまった。

時間を費やし培われてきた職人の技術によって、手間暇掛けて家造りすること、窓を開けて室内に風を通し、過ごしやすくすること、薪を燃やして部屋の中を暖めたりすること。
寒い日には、陽の当たる縁側に移動して過ごすこと。
お風呂を焚くこと、ご飯を炊くこと。

費やしていたたくさんの時間を失って、得たものは何だろうか。

もちろん技術の進歩を否定するものではないし、便利さの恩恵を受けていることも事実であり、それはそれでありがたいと感じる。
それでも、そのことで得たものより、失ってしまったものの方が多いのではないかと感じてしまう。
時間を省いてきた結果、それとともに大切なものまで一緒に失ってしまってはいないか。

失うことは簡単であるが、長い年月をかけて培われてきた職人の技術や住まい方の知恵などは、一度と失ってしまうと簡単に取り返せるものではない。

冷たい風を気持ちいいと感じることや、暖かい太陽の光を心地よいと感じるような人の感受性まで変化してしまうことにはならないか。

家造りや住まい方の効率化、画一化が進む一方で、そこからこぼれ落ちていってしまう大切なものを、過去から未来へと連綿と続く時間軸の中につなぎ留めておきたい。

私の中で、気候風土適応住宅との関りはそういう取り組みになっている。

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