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伊藤玲阿奈著『「宇宙の音楽」を聴く』について

ずいぶん前に読んでいたけど、読後感をまとめるのが遅くなってしまいました。でも、大事なことや面白いことが書いてあったので覚え書きします。(長文失礼します。)

著者の伊藤玲阿奈さんは2008年29歳でニューヨークでプロ指揮者としてデビュー、今も同地で現役活躍中。コロナ禍で自らが携わる音楽について問い直し、私達、現代の日本人が立っている西洋近代のパラダイムの限界を指摘し、それが音楽や音楽家の行き詰まりともオーバーラップしていること、幸せと音楽との間にある根源的な関係等について思索しています。

すごく明快な語り口で、今の私達が考える芸術家、音楽家の原型にして理想形は、ベートーヴェンであり、宮廷にも教会にも仕えず、圧倒的個性と自我と才能によって、クラシック音楽史上最大のイノベーションを成し遂げた人物として詳述されている件は説得力がありました。一方で、ベートーヴェンの人生が決して幸せなものとは言えなかったこと、成功=幸せではないことの実例であることについても触れ、これは西洋的思考回路、歴史を通じて形成されてきたパラダイムの問題点でもあることを指摘。著者自身も一人の音楽家として、同様の問題点を抱えて苦しみ、行き詰まった体験なども書かれています。

そこで著者は、西洋的パラダイムへの偏向を反省し、東洋思想、つまり東洋の思考のパラダイムへと移行して、バランスをとり、そこに生きる道を見出そうします。それがタオイズムであり、インドのヒンドゥー的な宇宙意識であり、ラヴィ・シャンカルの「音は神である」という神秘的な思考です。もちろん、こうした東洋思想を現代の日本人である私達が真に受容できるかどうかは微妙なところです。が、この本は、ここに至って西洋と東洋の深いレベルでの邂逅を見て、古代人は西洋においても東洋においても総じて「音は神である」「音楽は日常とは別の世界(神の世界)から来たもの」という感覚を持っていたことに行き着ます。その原始的で純粋な感受性は、単に素朴なのものではなく、むしろ数多の東西哲学を生み出した源泉であり、それ自体が深遠な哲学なのではないかと感じさせます。著者は、そこから自分なりの体験と言葉を駆使して、ジョン・レノンの「ワンネス」、東洋思想の「道」、西洋思想の「愛」を同一的なものとして説明を試みています。

そもそも、音楽にあるワクワク感、そして生きる希望のようなものはどこから来るのか考えさせる本でした。

余談ですが、私は日々生活する指針としてバシャールのようなスピリチュアルも参考にしていますが、語彙などを見てみると伊藤さんもそうなのではないかと感じました。

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