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塗料メーカーで働く 第五十話 思わぬ展開

 3月17日(火)午後3時頃 川緑は 下期の新人研修発表会の途中で会場の講堂を出た。

 新人研修発表会の最後には 技術本部長と研究本部長の講評が予定されていたが 彼は 明日の東京工場への出張準備のために技術部の建屋へ向かった。

 居室に戻った川緑は UVカラーインクのユーザー 日菱電線工業社の東京工場見学の際に報告する技術資料の準備を始めた。

 午後5時頃 講評を聞いて来た川上課長は 川緑に 「高野君の発表は 受けてたよ。」と言った。

 彼は 「吉岡研究本部長は 最近の研究発表は まるで絨毯爆撃みたいに 試行錯誤を繰り返す内容が多い中で 高野さんの研究は それとは違う切り口を示したと好評だったよ。」と言った。

 川緑は ちょっと嬉しくなり 「本部長に 硬化性の研究の取り組みを評価してもらえると これからの仕事がやりやすくなりますね。」と言った。

 午後7時頃 川緑は 出来上がった報告書のコピーを取りに 1階の複写機のある部屋へ向かった。    

 1階の部屋のドアノブに手を掛けようとした時に 部屋の奥の方から平田本部長の怒ったような声が聞こえてきた。 

 本部長は 「これはうちの部署でやることではないな。」と言い 「このまま突っ走ったら とんでもないことになる。 やめさせろ!」と言った。                 

 ドアを開けると 部屋の奥の机に 平田本部長が居て 彼を囲むように 米村部長 杉本部長がいた。

 部屋に入った川緑は 彼等の視線を感じたが 構わずに 入り口近くにあった複写機の所へ行くと 報告書のコピーを取り始めた。

 本部長は 視線を米村部長に向けると 来年度の技術部の人員配置をどうするのか聞いた。

 米村部長は 即答を避けていて 彼等の周りは 何か 重苦しい雰囲気に包まれていた。

 コピーが終わり 居室へ戻り 報告書をバインダーで止めていると 米村部長は 会議を終えて戻ってきた。  

 川緑は 「先ほどの話は 私のことを言っていたのですか?」と聞くと 彼は 頭を抱えるようにして 「そうや。」と答えた。

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