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【超短編】殺人日記

昨日人を殺した。
「夕飯は何食べたい?」と聞いてきた母だった。
俺は決まって「唐揚げ」と答えるのを知っているのに
聞いてきたから殺した。

死ぬ直前の母は、絶え絶えの息をしながら
恐怖・後悔・失望の色が混ざり合った瞳を
俺の記憶に残していった。

十数年見てきた中で、最も美しい姿だった。
最も純粋な色が、互いに否定することなく目を回っていた。

この人の全身から力が抜ける瞬間、
弾けた花火のように、特大の輝きが見えた。

弾けた花火のように、一瞬の輝きで
そこに残るのは、真っ暗な虚空だけだった。

「なんで?」という言葉を残さなかった(残せなかった?)彼女は、
きっと何が悪かったのかを理解したのだろう。

ここから得られた快楽は、少なくとも
普通に生きている中では最大のものだと思う。

だから今日は
俺を尊敬している後輩を殺した。

少し惜しい気持ちはあるが、それ以上の気持ちよさがあった。

俺が首に触れた瞬間は、特に何かを疑うでもなく、
後輩は一昨日の思い出を話していた。

絞めたら、「不思議」一色の表情に一変して、
それはそれは
綺麗だったよ。

きっとじゃれ合いのつもりだという考えが一瞬あったんだろう。
反射的に抵抗する手は、そんなに強くなかった。
もちろん、そのあとの手は
もっと弱かった。

彼は最後まで「疑問」の目を向けていた。
なんでって聞かれても、みんな気持ちいいことはしたくなるでしょ。

やっぱり純粋な色をした目は、キレイだな。
散っていく花は、キレイだな。


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