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[まねきの独り言]#忘れられない恋物語。コメのツッコミ禁止。お願い🥺

「一緒に逃げて」

大学2年の時だった。
新宿の小さなスナック、馴染みの店のカウンターの片隅。薄暗い照明だが壁に浮かぶシミがこの店の古さを物語る。時間はもう朝の4時近い。

「なんで? 明美ちゃん彼氏いるじゃん。ぶいぶいいわせてる新宿一番の組の売り出し中の彼が」
「なにが彼氏よ、ただのヒモよ、アイツなんか。気に食わないとすぐ暴力を振るう。見て」
ゆったり目の服で隠していたが、身体のあちこちにアザ。色の濃淡が、ところどころ違うのが悲しい。
「なんでこうなっちゃんだろ。あたしね、服のデザイナーになりたかったんだ。だから反対する親の反対を押し切って東京に出てきたのに、なんでかね、知らない東京で寂しかったんだよね。きっと。あんな男のにナンパにノコノコついて行って、このザマ。なんでやろ、ホント、なんでやろ」
語尾に残る関西弁、酔うとイントネーションが東京と変わる。
「あいつさ、組でヘマしたらしいんよ。だからあたしに身体売れって。もうやだよ、そこまで落ちたくない」
泣かないように、くちびるを噛み締めて、視線をこちらに向けようともせず、途切れ途切れに、吐き出すように言葉をつなぐ。
身体が震えてる。

なんであの時はあんな無茶できたんだろ。
今でも分からない。

「出れるか、このまま。東京駅に。全部捨てられか東京のこれまでの時間を」
うなずいた彼女を包み込むように抱いて、タクシーを拾った。

大阪に逃げた2人が知らぬ間に、東京では別の物語が進んでいた。

まず自分の方は母親が突然失踪したことを気に病み、寝込んだ。警察に届けを出し、大学には休学届を提出していた。
彼女は店を出る時、その日の店の売上を全部持ち去った。怒った店のママは警察に届け、彼女は容疑者になっていた。
突然金ずるの女に逃げられた男は怒り狂い、彼女の実家を執拗に訪れていた。
ただ、彼女の家は極道の親を持つ家庭だったのが、女に吸血鬼のように吸いつき金を、巻き上げるしか能のない東京のヤクザの不運だったのだろう。
関西の極道の流儀は甘くない。
いなくなった。永遠に。
たぶん行き先は大阪南港だろう。
コンクリートのおべべ着せられて。

明美というのは源氏名で、本名はイ・ヨンというのも暮らし始めてしばらくして知った。
在日3世、本名を打ち明ける時の悲しそうな顔が忘れられない。
「あんたがいなくなったら、死ぬしかないんよ」
「だけどあたしは部落だから、しょうがないんよね。大阪ではいつもそうだったんよ。あたしの出自を知ると、これまで好きだ、愛してるとさんざん歯が浮くようなセリフいってた男たちは去りよる。ねぇ、在日って犯罪なの。親は選べないよね、ね、教えて」
「東京に出たのもそのせい、大阪から逃げたかった。バカな男に捕まったのも、そのせい。あのバカ、在日といってもあたしを抱いた。アホやね、金ずるにしようとする魂胆見破れなくて、あの時初めて変愛できたと思った、信じたかったんよ」
「ずっと聞こうと思ってたんだ。なんで逃げるのにオレを選んだ。いい女だよ、大阪にきてからも尽くしてくれる。オレが東京のハンパモンの、かわり? 代用品?:」
「アンタが大学の同級のソウル出身の子を店に連れてきたこと、あったやろ。大阪より差別のない東京といえどもやっぱりあるんよ。嫌われてるんよ、日本の人に。でもアンタはそんな素振りひとつもなかった。言葉にも優しさで溢れてた。あの時、たぶん好きになってたんやろ。アホやん、あたしの、身体のアザ消えるまで抱かないなんて。いい女なんよ、ウチ。街ん歩けばいつも男が寄ってくるんよ。なんで好きにしていいのに‥‥」
「このドアホ❗️」
飛び出した彼女を追わなかったのは、なぜだろう。

部屋を出ていった彼女は3日待っても帰ってこなかった。置き手紙残して、自分も部屋を出て東京に戻った。

忘れられない恋物語、
抱かなかった男が悪いのか、
男にすべてを委ねたい女が悪いのか、
答えは、まだない。

短い時間を過ごした西陽だけしか入らないカビ臭い木造アパートは数年後には取り壊されてた。

夢、だったのかもしれない。

(了)

あのさ、創作だからね。
これネタにツコミ禁止❗️
コメント欄荒らさないで、おりゃ女好きだよ。こんな抱かなかいなんて、できひん。
あっ、やべー💦
また墓穴🤣

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