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やる気が起きない!税務署の新人研修!

 前回は官庁訪問を書いたので、今回は新人研修の話を書く

 国税局に入った僕は、新人研修を受けることになる
 国税は研修制度が充実している。税務調査では高度な税法の知識や調査手法が要求されるからだ。各国税局に独自の研修所があるが、それとは別に埼玉県和光市に「税務大学校」がある。文科省の管轄ではないので「大学校」という名前になっているが、敷地は小さな大学くらいの大きさがある。設備も1000人近く入れる大教室があったり、その他大小の教室、ゼミ室もある。
 ここで税務署員の卵たちは3ヶ月の新人研修を受ける。この税務大学校で行われるのは、新人研修だけではない。税務職員の研修の機会は多い。入社して3年後は専門的な研修があり、これは長く7ヶ月もある。その他、英語堪能で選ばれた人が国際取引を専門に学んだり、警察官が経済犯を捕まえる研修をしたり、その他財務省だけではないいろんな省庁の人が研修に来る。そういえば外国の人もいた。白人の若い男性が、中庭にある8の字を倒したような形の真っ赤なオブジェの前で寂しそうに佇んでいたので「これ3000万もするんだぜ、バカみたいだろ」と話しかけた時もあった。

 研修生は全国から集まってくるので、そのためにワンルーム中心のマンションが3棟位建っており、収容人数は700人くらい入りそうでした。僕はコンクリート打ちっぱなしの見た目はちょっとおしゃれなワンルームに入りましたが、剥き出しのコンクリートは冷えて寒かったような記憶があります。ベットも固かった。硬くて腰が痛くなってしまったので、マットレスを自分で買って敷いたくらいでした。

 周囲の環境は良好で、周りの道路は綺麗に舗装されていて、街路樹は多い。周りには理化学研究所とか裁判官や弁護士の卵が通う司法研修所があって、緑に埋もれた文京地区という感じだ。
 ただ、駅から30分という距離が難点でした。駅前までしょっちゅう歩いて行ける距離ではなく、歩いていっても所詮和光市駅。チェーン店の飲み屋がちらほらあるだけで、わざわざ30分歩いていくほどの繁華街でもない。この辺は私見というか、研修以前にどこに住んでいたか、あるいはどこの地方局か、によって捉え方も違うかもしれない。東京の大学に通っていた僕としては、和光市駅は十分田舎だし、電車に乗っても頑張っても池袋か、という印象になってしまう。

 いずれにしても、最寄りの駅まで30分というのは、陸の孤島に閉じ込められた感があり、窮屈な印象を持った人は多いと思う。陸の孤島の研修所に泊まらされて、なかなか息抜きができない環境で、場合によっては2人部屋。ベットは硬い。部屋は寒い。休日も会社の人が周りにいる。そんな新人研修が3ヶ月も続く。ついこの間まで自由を謳歌していた大学生には厳しいかもしれません。僕らの時にもノイローゼのようになっている人もいました。
 ここで3ヶ月、税法を中心に勉強します。税法は範囲が広い。税金をかける相手によって全部税法が違う。会社相手は法人税、個人は所得税、人が亡くなったら相続税、当然消費税もあり、紙の文書には印紙税、税金を徴収する時にも当然法律が必要です。これらを3ヶ月でそれらをやらなくてはいけないとなると、自然と表面をなぞるだけになります。まだ仕事をしているわけではないので、各税法の重要性も感じられず、関連性もわからないまま無味乾燥な単純な暗記に終始する印象でした。何が面白いんだろう。そう思ってしまいました。
 おまけに、まだ配属が決まっていない。
 税務署には系統というのがあって、会社相手の法人課税部門、所得税担当の個人課税部門、相続税担当の資産課税部門、滞納者に「金払え」という徴収部門に分かれています。研修後に配属先が知らされるのですが、研修時では未だ自分がどの専門に行くかわからない。
 この系統は一度決まったら退職するまで、ほぼ変わることなく、その専門性を追求していきます。 一度決まると一生変わらないということは、僕からすれば「今勉強してもほとんどの税法はその後一生使わなのじゃない?勉強してもしょうがないじゃん」ということになります。そうなると僕はまるで勉強する気が起きません。前職を辞めて、崖っぷちで死に物狂いで勉強して、なんとか公務員になれました。もう勉強は十分だ、と思っていたのかもしれません。
 そんな理由で、やる気が起きない。それに加え、教授の話がつまらない。税務大学校の教授は、多分税務署長くらいの偉くなった人たちの上がりのポジションだ。叩き上がってきた人達だから仕事はできるし、人間的にも立派だった。この研修の時も、またその後のいろんな研修でも、税大の教授たちにはたくさんお世話になったが、大変尊敬できる人達だった。でも、仕事のできる人が話が面白いとは限らないし、偉い人の話であっても、尊敬する人が話していても、面白くないのは面白くないのである。
 面白くないと思うと、僕は眠くなる。流石に給料をもらって研修しているのに居眠りはいけないので、周りをキョロキョロする。満席になると1000人くらい入る大教室は、教壇に対して半円を描いている。運よく、半円の端っこに座って頬杖をつくと、勉強してるふりをしながら教室全体の受講生の顔がチェックできる。頬杖ついて考えているふりしながら、横目で女子をチラチラ見る毎日。あの子かわいいな〜、そう思いながら眠気と戦いました。

後半は次号で

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