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天王寺 澪 エピソード集 2

今回のお話はここから始まります。
奈良公園バスターミナル
・2019年(平成31年)4月13日 - 午前7時30分にオープン。
・施設部分の延床面積は約5,900平方メートルで、大半がガラス張りの東西の建物を渡り廊下で連絡した構造。300人収容のレクチャーホールや展示スペース、着物レンタル店、飲食店が入居し、観光拠点して活用できるようになっている。(ウィキペディアより。)

「澪さん、私たちこんなところで油売ってていいんですか?」
ここは奈良公園バスターミナルの屋上の展望テラス。
二階にあるスターバックスで、澪さんがソイラテを私がカフェラテを買って持って来てる。
澪さんが観光いえ、パトロールがしたい、と言うことで来たんやけど。
「あら、まこちゃんはカフェは嫌い?」
「いえ、好きですけど、勤務中ですよ。」
「まぁ、いいんじゃない?どの道私たち窓際族なんだから。」
「窓際族だなんて、違いますよ絶対。」
「まこちゃんも大変ね、定年間近のおばあさんのお守りなんて。」
「お守りじゃ無いですよ。確かに署長には澪さんの事まれましたけど。」
「うーん、署長ね。幼稚園からの幼なじみで同期で腐れ縁。」
「でも、澪さんの事、本当に心配してはりましたよ。あの子猪突猛進型だからって。」
「署長は石橋を叩いて渡る人だからね。」
と言う澪さんの目が、私の後ろを見てる。
「ねぇ、まこちゃん、ナプキンを拾うふりをして後ろの男を見て。」
私は澪さんの言う通り、わざとテーブルのナプキンを落として、屈んで拾うふりをして私の後ろの席を見た。
テーブルが二つあって、男性が背中合わせに座っていた。
そのうちの手摺りに近い席に座っていた男性が、席を立って手摺りに近づいた。
男性は手摺りから身を乗り出すように景色を眺め始めた。
正面に若草山、北側に東大寺大仏殿が一望出来る。
その時、背中合わせに座っていたもう一人の男性が動作を開始した。
ゆっくり振り返ると、景色を見ている男性が座っていたイスに立て掛けてあったアタッシュケースに手を伸ばした。
そしてゆっくりと自分の手元に引き寄せると、立ち上がりエレベーターに向かって歩き始めた。
置き引き?
私がそう思うのと同時に、澪さんが動いた。
「あの男性にアタッシュケースの事を教えてあげて。私はあの男を追うから。」
澪さんはそう言うと、エレベーターに向かう男性の方に歩き始めた。
私は立ち上がると、景色を眺めている男性に近づいた。
澪さんに気付いたのか、エレベーターに向かう男性が走り出した。
「あなた、待ちなさい!」
そう言って澪さんも走り出した。
タイミングよく、エレベーターの扉が開いて男性が飛び乗った。
走り寄った澪さんの目の前でエレベーターの扉が閉まった。
澪さんの声に何事か、と振り向いた男性に言った。
「警察ですけど、男が持ち去ったアタッシュケースはあなたのものですか?」
私の言葉を聞いた男性は酷く取り乱した。
私は男性から概要を聞くと、
「必ず取り返しますから。念の為、あなたからも警察に通報してください。」
そう言って、澪さんが下りて行ったエレベーター横の階段に向かった。
澪さんは既にひとつ下の階を下りていた。
「もう、歳の割にめっちゃ速いやん。」
私は危険を承知で一段飛ばしで下りて行った。
一階に着いた時、ようやく澪さんに追いついた。
男は団体バスの乗降場を北に向かって走っていた。
「澪さん、男は私達も停めている駐車場に向かっています。」
「そうね、あのアタッシュケースには何が入っているの?」
「なんでも、取引先と交わした契約書だそうです。」
「契約書?余程重要な契約なんでしょうね。」
これだけの言葉を交わすのに、私は息切れで苦しいのに、澪さんは息ひとつ乱れてはいない。
男は駐車場の隅に停めてあった大型バイクに乗って走り出した。
私達もすぐに車に乗り込んだ。
小型の回転灯をルーフバーに取り付ける。
男は駐車場出口のゲートのスキマを通って車道に出た。
「あ、一方通行逆行やわ。」
私達もすぐあとを追ったけど、ゲートの上がるのがもどかしかった。
男は登り大路町の交差点を左折して754号線を北上した。
この道は基本片道一車線で、転害門までは、鹿が歩いていたりする。
回転灯とサイレンのスイッチを入れる。
赤色灯が回転しけたたましいサイレンが鳴り響く。
転害門を過ぎて、今在家のY字路を道なりに右に行く。
般若寺の交差点を右折して柳生街道に入る。
「この先はどこに続いているの?」
「ゴルフ場があったり、柳生の里があったり、大回りすると名阪国道の針ICまで行けます。走り屋がよく出没するところですね。」
「どこまで行くつもりなんだろうね。」
男がスロットルを全開にした。
今までとは桁違いのスピードで逃げる。
「ふーん、いい度胸してるじゃない。」
そう言うと澪さんはアクセルを踏み込んだ。
体がシートに張り付く。
凄まじい風圧に目も開けていられない。
「カワサキのZX-10Rか、相手にとって不足なし、行くわよ!」
バイクは極限まで車体を傾けてコーナーをクリアしていく。
澪さんは、見事なヒールアンドトゥでエンジンのパワーバンドを外さずコーナーを抜ける。
最小限のカウンターとドリフトで、コーナーのベストラインをトレースしていく。
こんな峠道みたいな所でバイクを追跡するのは、四輪にとって分が悪いことは、交通課でいやと言うほど経験してる。
バイクにセブンがついて行けてるのは、犯人が下手な訳じゃない。
ラインのとり方、ハングオンを含めての体重移動のスムーズさ。
もしかしたらレース経験者かも知れない。
そんなバイクについて行けてるのは、澪さんが凄いんや。
頼子が言ってた。首都高の背後霊ってこの事なんや。
柳生藩陣屋跡から369号線を南下する。
名阪国道の針テラスまで、バイクとのバトルが続いた。
針テラスでは既に数台のパトカーが待機していた。
覆面もいる。
逃走劇を繰り広げた男はあえなく御用になった。
現場には、交通課の玉木巡査や頼子の姿もあった。
警備課の角川警部補の姿もあった。
でも私には一つ分からない事があった。
それは、追跡を始めてから一度も本部に連絡をとっていないのに、私たちの動向が分かった事だった。
「それはね、」
と澪さんが教えてくれた。
「回転灯を作動させると、GPSが居場所を教えてくれるようになってるの。私一人だったらどうしようもできない場合もあるでしょう?東京でもそうだったの。署長の仕業よ。」
「ああ。」
そう言えば署長さんも言うてはったわ。
『あの子猪突猛進型だから』
「ところでここ、温泉があるじゃない。」
「ありますよ。しかも天然温泉、ナトリウム泉でお肌つるつるすべすべになるんです。」
「入って行きましょう。」
「いいんですか?」
「お縄にできたんだから、あとは一課か二課のお仕事。それに」
「それに?」
「サービスしなくちゃ。」
「誰にですか?」
「決まってるじゃない、ここまで付き合って下さった方々によ。」
「でも、これ、小説ですよね。どうやってサービスするんですか?バスタオルを体に巻いた澪さんの挿絵でも入れてもらいます?」
「そんな面倒くさいことしなくても、実況すればいいのよ。」
「実況、ですか?」
「そう、例えば私の入浴シーンとか。」
「どんな風にですか?」
「それは、こんな感じで」
と澪さんが語り始める。
「天王寺澪は、たわわに実った乳房を両腕で抱き抱えながら、静々と湯船に向かって行く。やがて右足のつま先を大浴場の湯船に浸し、続けて左足も湯船に浸けると、湯船の中心まで一歩一歩と歩を進める。おーっと、さざ波のような湯面がゆっくりと膝から太ももそしておま」
「わーっ!ダメですダメです!その言葉を言うたらあかん!」
「えっ?」
「それは放送禁止語だけじゃなく、活字にもできません!」
「本当に?」
「活字はどうか自信ないけど、その単語は言っちゃダメです!」
「そうかぁ、残念。あ、そうそう、まこちゃんが入る時は私が実況してあげるね。」
「いいです!遠慮します。」
なんだかんだあって、大浴場の湯船に浸かっている二人。
「ねぇ、まこちゃん。」
「はい?」
「さっきの犯人、般若寺の交差点でどうして右に曲がったのかしら。まっすぐ行った方がロスは無かったと思うんだけど。」
「多分ですけど、きっと走り慣れた道だったのだと思います。あのルートは奈良の走り屋がよくバトルしてるところですから。」
「そうかぁ、走り慣れた道で、しかも二輪、ちぎれると思ったのかしら。」
「だと思います。」
「ところが残念なことに、こちらに車はエンジンを載せ替えてるモンスターマシンだったってことね。」
「澪さん、私からもいいですか?」
「なぁに?」
「あの道、初めて走ったんですよね。」
「うん、なかなか楽しい道だったわ。」
「初めてなのにどうしてあんなハイスピードでコーナーに突っ込めたんですか?」
「ああ、そのこと?」
「後学の為にも教えてください。」
「あれはね、前を走るバイクの進入速度とバンク角から予想してたの。予想的中で良かったわ。間違ってたら・・・。」
「間違ってたら?」
「ドッカーン!」
と両手を高々と持ち上げる。
透明なお湯の中で、たわわな乳房がゆらゆらと揺れた。
スラッとした体型やのに、あの乳房の大きさは反則やわ。水着の痕がまだ少し残ってるけど、肌もつやつやでめっちゃきれいやし。あ
、あかん、なんかヘンな気になってきた。

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