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【チカホへの道 #18】浪江日和さん編

前回お知らせしました、「博士学生が描く、66のミライ」受賞者のご紹介。
トップバッターは「SDGs賞」受賞者 
農学院 博士後期課程1年 浪江 日和(なみえ ひより)さんです。

浪江さんは現在「土壌学研究室」で日々研究に励まれていますが、私たちがよく食べるあの「お米」を研究材料としているそうです!でも、お米の研究って・・・?

”面白い!”を共有したい -それがイベント参加を決めた理由-

博士課程まで進むと「何を研究しているの?」と聞かれることが多くなります。ですが、「~ということを研究しています。」と正確に説明したつもりでも、みんなの顔をみていると、頭の中は???でいっぱいの様子です。
自分が「面白い!!」と自信をもって取り組んでいる研究が理解されず、悔しいなと思うことが多々ありました。
そんな中で、チカホでのこのイベントは一般の方に研究を説明する、いわゆる “アウトリーチ”の練習にもってこいだと思い、参加を決めました。

無肥料・無農薬水田!?-浪江さんの“面白い!”にせまる-

無肥料・無農薬の水田で、“中耕除草”を4回以上すると肥料・農薬に頼る
慣行農法に匹敵するほどの高収量が得られた』

(粕渕ら,2019)

という面白い研究があります。
前述の文献によると

無農薬での栽培:
生態系ピラミッドが維持され、捕食者がイネ害虫の発生を抑制。
栄養分の補給:
微生物が生成した栄養分の層を除草時の撹乱によって土壌中へ供給し,それをイネが吸収・利用できる。
酸素の供給:
イネの根っこまで酸素が拡散し、呼吸や発根を促進

などです。このように様々な効果が重なり、無肥料・無農薬でも高収量がとれると考えられています。
ちなみに中耕除草とは

農業分野でも持続性 -サステイナブルハーベストの必要性-

今日では、SDGsを皮切りに農業分野でも持続性が求められています。人口爆発に備えたり地球温暖化を抑制したりするためには、『収量を維持しながら環境とのバランスにも考慮した“サステイナブルハーベスト”の実現』が急務です。
有機栽培と中耕除草を組み合わせた農法は、自然の力を最大限に活用しつつ、収量が得られるというまさに画期的な“サステイナブルハーベスト”なのですが、懸念点があります。

有機栽培と中耕除を組み合わせた農法の弱点 -“メタン”の存在-

それは水田からのメタン発生です。メタンは地球温暖化の原因物質であり、地球へのダメージは二酸化炭素の28倍と言われています。メタンは水田土壌中に生息するメタン生成菌によって生成されます。メタン生成菌は水田土壌のような酸素が少ない場所を好み、有機物からメタンを生成します。その後、イネ・気泡・拡散経路でそれぞれ大気中へと放出されます。
そこで、“メタン排出”という懸念点を払拭するために、先ほどの中耕除草による"酸素の供給"効果に注目し、『中耕除草で定期的に酸素を供給することで、メタンが生成されやすい環境の改善に効果があるのではないか』という仮説を立てて、有機栽培と中耕除草を組み合わせた農法でのメタン排出量を調査しました。

自身の研究成果について発表する浪江さん

研究から見えてきたこと-収量とメタン削減、2方向からの考察-

【収量の結果】
有機栽培の5回耕起では、慣行栽培に匹敵していないことがわかりました。しかし、中耕除草の回数を増加させると収量も増加する傾向がみられました。中耕除草はイネの生育を促進する可能性があります。

【メタン排出量の結果】
有機栽培の5回耕起では、メタン排出量が最も削減された結果を示しました。中耕除草の回数を増加させるとメタンが減少する傾向がみられました。中耕除草はメタン排出を削減する可能性があります。

以上より、有機栽培で中耕除草の回数を増やすとイネの生育が良くなり、
メタン排出も減るかもしれないことがわかりました。
これからは中耕除草の適切な回数を調べ、十分な収量とメタン排出量の
いいバランスを探る必要性があると考えています。

浪江さんの研究成果発表ポスター

研究がミライに繋がる ー 浪江さんが目指すミライ ー

私はこの研究で目指したい未来社会のあるべきかたちを考えてみました。
■脱肥料&農薬ですべての人が安心安全な食糧を手にとれる社会。
■本農法を環境教育の教材として使うことで、『地球環境を守りたい』と主観的に考えられるサステナビリティ人材の育成が盛んな社会。
■環境負荷を最小限に抑え、持続可能な生産と消費が実現した社会。
■温室効果ガスを抑制し、地球温暖化に具体的な緩和策を講じた社会。
■人間活動と生物多様性のバランスがとれた社会。
以上が、私が描いたミライです。
このような社会が実現できるよう、研究に励んでいきたいと思います。

イベントに参加して、みえたモノ。- これからの自分の糧に -

実際にポスターを作成してみると、自分の研究はかみ砕いて説明する部分が多く、ポスター内に収まりきらないのではないかと不安になるほどでした。
ポスターを作り終える頃には、自分の伝えたいことを分かりやすく簡潔にまとめ上げる力がついたなぁと感じました。
チカホイベント当日には、たくさんの一般市民の方が聞きに来てくださいました。学会でのポスター発表とは異なり、様々なバックグラウンドの方々が聞きに来てくれることが新鮮でした。そのため、ひとりひとりの反応を見ながら丁寧に説明するように心がけました。
研究での取り組みを理解していただき「頑張ってね。」「期待していますす。」等の嬉しいお言葉をかけていただいた際には研究への活力がわきました。また、専門分野の垣根を越えて、北海道大学の他の博士課程学生が取り組んでいる研究について知れたことが、とても良かったです。自分の中で共同研究を想像してみたり、アドバイスをもらったり、研究を発展させるためのとても良い出会いの場にもなりました。
研究を他者にわかりやすく伝えるために工夫・発表する力がチカホイベントで身についたと感じました。
 
企画・運営して下さいました皆様、当日足を運んでくださいました皆様、
この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました。

私と同じような志を持って研究に励んでいるメンバーが土壌学研究室には沢山います。興味がある方はインスタグラムをチェックしてください!
私たちと一緒に研究しましょう!!

北海道大学 土壌学研究室 インスタグラム 

浪江さん、ポスター展示へ参加くださり、ありがとうございました!中耕除草は江戸時代には広く一般的な農法であったとか・・・。江戸時代の農法にそんな効果があったなんてすごい・・・。

次回は優秀賞を受賞した森田豪さんをご紹介します。乞うご期待!




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