【読書メモ】PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本 寺沢弘樹著


どのような問題意識でこの本を書いたのか?


今後の自治体経営に必要なことは、金太郎飴のような体裁だけ整えた計画や机上の空論ではなく、実践主義の地域のプレイヤーと連携したビジョンとコンテンツをベースとしたリアルなプロジェクトの展開。公共資産を負債ではなく資産として上手く利活用すればまちづくりに大きく貢献できる。

なぜPPP/PFIが必要なのか?


お金とセンスの観点がある。
お金の観点では、過去高度経済成長期に大量に設置した公共インフラが老朽化し更新投資が必要になる中で、資金調達をどうするか?というと、自治体は地方交付税として国から受け取る補助で財政が成り立っているが、肝心の国は国債発行による自転車操業で予算を賄っており、これ以上政府からの補助は期待できない。ゆえに自治体は政府に頼らない自立した資金調達が必要になる。
センスの観点では、自治体が主導する場合は事業採算性や市場性の精査が甘くなりがち。事業の構想段階から斯かる観点が織り込まれるよう民間事業者を巻き込むスキームが必要。
ゆえに、事業性・収益性をもとに民間が主体となり民間から資金を調達するPPP/PFIが必要となる。

PPP/PFIが必要だとして、普及に際したボトルネックは何か?


行政職員・組織の観点からは、「①抵抗感≒やらなくてもクビにならないので今までと同じ生活を望むこと、②認識不足≒単年度会計の財務、従来型手法が前提なので問題意識・危機感が生じないこと、③排他性≒行政区域内のみでの資金流通・業務の仕組みが前提となっていること」。

PPP/PFIにはどのような手法があり、どのような場面で役に立つのか?どうすればうまくいくのか?


必ずしも大きなプロジェクトではなく、民間の資金・マンパワー・ノウハウを活用するものは全てPPP。小規模でもできること、面白いことから手をつけるべき。
「みんな」や「賑わい」といった曖昧な言葉の計画に縛られず、ビジョン、コンテンツ、事業性の3つが揃ったプロジェクトを行うこと。
ビジョンは、何を主たる目標とするのか一つに定め、迷ったときに立ち戻れるようにする。
コンテンツは、ビジョンを達成するために誰が・いつ・何を・どういう収支で・何名を対象に実施するのか、という肉付け。そのうえで、ビジョンとコンテンツが成り立つイニシャルコストやPPP/PFIの各事業手法等を設計し事業性を確保する。
※好事例:紫波町の公民連携基本計画
公共施設のハードから議論するのではなく、具体的なサービスから必要なハードを逆算するべき。
自治体は結果責任のない年度の補助金事業を行うのではなく、リターンを得るための投資を行う、という概念をもつ必要がある。リターンとは、エリアの地価を向上させ、雇用を生み、固定資産税・法人市民税・都市計画税等の増加につなげること。
※好事例:大東市・紫波町・盛岡市の公民連携エージェント、長門湯元の星野リゾートによるマスタープラン、山陽小野田市のLAVB
PPPを活用した公共施設利活用の優先順位をつける場合には、まずは収入支出の大きな施設から、収入を上げ支出を下げる方策を探すべき。
支出に関しては、ESCOやバルクリースによる高効率空調・照明への更新、複数施設の各種設備の保守点検業務の包括管理、経営ノウハウに優れた指定管理者への更新といった民間ノウハウを活用したPPP手法が挙げられる。
収入に関しては、有料広告や自動販売機など比較的簡易にできるもの、ネーミングライツ売却、未利用(・低利用)箇所の部分貸付、指定管理者の自主事業の裁量拡大が挙げられる。
ESCO事業は空調・照明等の建築設備を中心とした事業スキームで、利用者と自治体経営の根幹に与える影響・リスクは限定的且つパフォーマンスも省エネ率という単純な指標で評価可能であり、更に事例も多数あることから事業としての難易度は低い。
包括施設業務管理委託契約は、庁舎・学校・公民館・図書館等の様々な保守点検の業務委託をひとつの業務委託にまとめて発注・契約するもの。個別の契約に係る入札管理を行う業務負担を軽減できる。
随意契約保証型の民間提案制度は、総合計画ベースのプロジェクトとは真逆のプロセスであり、そのまちのなかで市場性があるもの、民間にとって魅力的な資産、民間が課題解決のための具体的なノウハウを持っているものから順に提案がなされ、事業化されていく。
※好事例: 常総市・東村山市・沼田市・津山市・鳥取市・福岡市・別府市
プロジェクト管理に際しては、市からの持ち出しに関し、撤退ラインである損益分岐点、翌年度の投資配分の軽重を付けるラインである重点投資ラインを事前に設けることで、意思決定の透明性を高め住民理解を醸成する。

PPP/PFIの成功事例はどこが挙げられるのか?


・高浜市→庁舎をリースで調達
・横浜市/パシフィコ横浜ノースのPFI→行政財産ではなく普通財産とすることで運営事業者の経営自由度を確保
・箕面市/船場駅前まちづくりPFI→文化ホールの運営事業者を主体とするEOI方式
・盛岡市/木伏緑地
・尾道市/ONOMICHI U2

逆にだめなPPP/PFIとはどのようなものなのか?


・地域の実情をふまえず先行事例を模倣したもの
・手法ありき
・自治体による補助を前提
・地域プレイヤーが参入せず民業圧迫型
・民間の裁量余地がない仕様
・運営ではなくデベロッパー優位の仕様

示唆


自治体は、公共空間・施設の取扱いに関し、計画行政にこだわる机上の空論型と現場とのリアルな連携を重視する現場密着型に二極化していく。
机上の空論型のほうが楽であり、だからこそ先行事例を模倣した金太郎飴のような総合計画や公共空間が全国に乱立する。
当然、後者のほうは民間の資金・マンパワー・ノウハウをフルに活用していく必要がある。そのためにはノウハウのある優秀な民間事業者や意欲ある住民と軽やかにネットワーキングできる人材をいかに行政内で確保できるか、ということが最重要論点と理解した。
一方、当然自治体の給与水準で斯かる優秀人材は採用し難いので、どう人材を調達するか?というと、一定の期間にプロジェクトに従事することで得られる経験値を報酬と位置付けて、外部の志のある人材を招聘するのがよいのではないか。
といっても限界があるなかで、現場密着型に移行できる自治体は限られるのだと思うし、住民は自分の住む場所をよくよく見極める必要がある。
また、住民側も単に行政サービスの消費者ではなく、 PPPを通じたサービスの生産者側に立つこともチャレンジしていくべきだろう。

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