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『デジタル・ミニマリズム』を読んで

  • カル・ニューポートの『Digital Minimalism』(邦題デジタルミニマリスト)では、スマホ、コンピューター、SNS、Eメール等のデジタルツールをもっと目的を明確にした上で限定的に使うことを提唱している。これらのツールは、日々の隙間時間の暇つぶしに何となく使うのではなく、意図的に自分が成し遂げたい何かの為に使う事が重要であると説く。

  • 多くのデジタルツール、特にソーシャルメディア、ゲームやアプリは、利用するユーザーの利益を最大化する為ではなく、ユーザーの注意を最大限引き付ける為に設計されている事が指摘されている。これらの企業が利益を最大化するには、出来るだけ多くのユーザーに出来るだけ長時間アプリやゲームを使ってもらう事が必要だからだ。

  • 何となくInstagramやYouTubeのショート動画を眺めていたらあっという間に時間が過ぎていたという経験は多くの人にあると思うが、これは必ずしも動画やコンテンツに自分が興味を持っているからではない。これらのアプリが視聴者の潜在意識に訴えかけてユーザーの注意力を奪い、判断力を弱め長時間スマホの画面を眺め続けるように設計されているからである。

  • また本書では、仕事中に絶え間なくメールをチェックする事がいかに生産性を損ねるかについて繰り返し述べられている。様々なメールに次々に返信するとある程度仕事をしたかのような充足感を感じることがあるが、これは錯覚である。実際は大して重要でない細かい用事を片付けるために、もっと集中力を必要とする大事な仕事に取り組む時間を犠牲にしているだけなのだ。

  • 著者は、スクリーンタイムに厳しい制限を設けたりすることで、注意力を取り戻し、目的意識をもって主体的かつ限定的にこれらのツールを使う事を推奨している。

  • また、本書は「孤独」(solitude)が精神的な健康や創造性に不可欠であるとしている。著者は孤独を他人の思考や情報から離れた時間と定義し、デジタルコミュニケーションやソーシャルメディアの絶え間ない情報の流入が、現代人からこの重要な時間を奪っていると指摘する。孤独は自己反省、問題解決、そして感情のコントロールに不可欠あり、デジタルの雑音から離れ、意図的に孤独の時間を確保することが重要だと述べられている。

  • ニューポートはまた、アリストテレスの哲学を引用して、充実した人生(a life worth living)について議論している。アリストテレスの「エウダイモニア(flourishing)」の概念は、瞬間的な快楽ではなく、目的意識を持った意味のある活動こそが本当の幸福をもたらすという考えに基づくが、現代のデジタルツールがしばしば一時的で浅い楽しみを提供するだけで、長期的な幸福にはつながらないと指摘する。過剰な情報を整理し減らすことで、人々はより深い満足感や自己成長を促す活動に没頭できるようになると主張している。

  • 本書はあくまでもKnowledge Workerと呼ばれるいわゆる知的労働者を対象に書かれており、本書の主張の全てが必ずしもすべてのオフィスワーカーに当てはまるわけではない事を付記しておく。

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