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ロンドの作り方

タイトルを見ると、ハウツーものの記事のようでしたね。
でもそうではありません。
私は昔完成できなかった楽曲のメモから、これまでいくつか曲を完成させてきました。この記事では未完成だった曲をどのようにして完成させたのかということを書きたいと思います。
これは、その一例です。ロンド形式で作ったヴァイオリン曲を材料にしています。

ロンド形式はウィキの説明によりますと「異なる旋律を挟みながら、同じ旋律(ロンド主題)を何度も繰り返す形式」とあります。ただ、これはかなり大雑把な説明ですので、後でもう少し正確に説明したいと思います。

さて、音楽の生成過程を文章にするのは大変難しいです。でも音楽の制作は基本的に時間で区切られたパーツの組み立てと考えることができます。特にロンド形式のように個々のパーツの区切りがはっきりしている曲でしたら、作曲者の脳内でどうやってメロディが生成するのかはわからなくても、パーツを組み立てるにあたってどういう観点で作業を進めたのか、という説明なら理解して頂きやすいだろうと思いました。記事には読みにくい手書きの楽譜も出てきますし記事自体も4000文字近くあって長いのですが、よろしければお付き合い下さい。

なお、曲は自作のヴァイオリン・ソナタから、第三楽章のロンドです。

最初にロンドの説明です。
ロンドは輪舞曲と訳されますが、舞曲ではなくロンド形式と呼ばれる型に沿って作られた器楽曲を表す言葉です。
ロンド形式は、ロンド主題というメインのテーマが登場する部分(これを仮にメインブロックと呼びましょう)が繰り返し登場しまして、その間に別のテーマが登場する二つのブロック(それをブロックA、ブロックBと呼びましょう)が代わりばんこに挿入される形です。

記号的に書けば、ロンド形式は次のように表せます。

メイン・A メイン B メイン A メイン

注)ロンド形式はA・B・A・C・A・B・Aと書かれることが普通です。
ここでは、この後で出てくるスケッチで使われた記号に合わせた関係で、違う表記をしています。

ここで真ん中のブロックBは中間部と呼ばれる部分でして、その中にいくつかのブロックが含まれることもあります。このようにロンドは、別に作ったブロックを組み合わせるだけで一応形になりますので、作りやすいように見えます。ただ、曲としてまとめるのは結構難しいかもしれません。私が中学生の時、ヴァイオリンのロンドを作ろうとして思い付きを書き込んだスケッチ帳があります。そこにはMainABの3つのブロックのそれぞれの冒頭部分が書かれていました。それぞれテーマとしても大まかには出来上がっていたのですが、作品としては完成できませんでした。スケッチ帳にあった日付は8月9日。中学三年生の夏休みでした。完成に至らなかった理由として、そろそろ高校受験の準備という時期的な制約もあったかもしれませんが、それよりも全体をまとめる力がなかったことが大きかったように思います。

さて当時の中学生も、還暦を過ぎました。おまけに高校受験の予定も取りあえずはありません。^^
ならば頑張れは今度はロンドを完成させることができるんじゃないかと思いまして、昔作ったスケッチをもとに再度チャレンジした次第なんです。
以下では、再チャレンジがいかになされたかをブロックごとに書きます。

1.メインブロック

まず、メインのブロックのテーマ、いわゆるロンド主題です。
こちらは、当時のスケッチです。無関係の部分は、薄くしてあります。

Manuscript Main

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8/9は日付。中三の夏休みの頃です。
Vinは普通使わないですね。正しくはVlnです。ヴァイオリンです。
「Rondo 主題」とあります。ロンド形式のヴァイオリン曲を作る気満々ですね。^^
八分の六拍子、調性はヘ短調。
このスケッチが書かれたページより前のところに、同じくヘ短調のヴァイオリン曲のメモがありましたので、そちらを第一楽章として、こちらを第三楽章のロンドとして構成するつもりだったことが伺えました。
第一小節は、バッハのフーガ作品から持ってきたような音型で、その後の部分もバッハっぽいです。最後の第9小節にAとありまして、そこから次のブロックAに続く構成を考えていたようです。その右隣のは、調性も拍子も違いますので、関係ないメモと思われます。そうすると、メインブロックがたった8小節しかない。もう少し長くする必要があります。そのためには、この第一小節のバッハっぽい音型をメインのモチーフにして、他にいくつかのモチーフを組み合わせてテーマを構成する方向で進めることが必要と考えました。
まず、メインのモチーフが分散和音的な跳躍音型ですので、他のモチーフとしては、音階的に進行する音型を組み合わせるのがいい。また、メインのモチーフには、激しい情熱的なものがありますので、それをさらに強調できるような音型を第3のモチーフとして重ねてみようと思いました。それは何かというと、ベートーヴェンが熱情ソナタで使った「運命の動機」のリズムです。運命というと、あのジャジャジャ・ジャーンもしくはダダダ・ダーン。(漢字で書いたら蛇蛇蛇雀もしくは蛇蛇蛇弾かしら^^)それはともかく、そこから動機(モチーフ)としてのエッセンスを抽出しますと、3つの音が同じ音程で同じ間隔で続いた後に、最後にもう一つの音(音の高さも長さも自由)が置かれて、そこで一旦音が休止するという形になります。「運命の動機」が多用された熱情ソナタも同じくへ短調でしたし、これは御大のお導きか、と思いながら作ったのがこちらです。

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譜表の一段目はヴァイオリン。その第一小節は原案通りのメインモチーフですが、その後はトレモロ的な跳躍音型で上行して最高点の変イまで行ってからメインモチーフと同じリズムで下降します。
真ん中はピアノの右手パート。上のヴァイオリンと対照的になだらかで音階的な上下運動をさせています。
一番下はピアノの左手パート。運命の動機を使ったバス進行です。
メインブロックは、各パートの第1小節から第2小節にあるモチーフを様々に組み合わせまして、8小節だった原案を20小節まで引き延ばすと同時に、全体に渡って激情的な雰囲気に仕立てることができました。

2.Aブロック

2つ目のブロックAのテーマです。
当時のスケッチではメインブロックの第9小節から始まることになっていたものです。

Manuscript A

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Aのテーマはピアノパートの付点四分音符の和音を使った和声的進行です。ヴァイオリンパートは分散和音的な装飾的な音型があるだけです。ピアノパートのsf(スフォルツァンド)と弱音指定のp記号が交互に並んでいる部分にも注目です。ここはどこかで聴いたようなスイング感がある部分ですが、ヴァイオリンパートが空欄でしたので、ここに即興的にリズミカルなメロディーを付けました。
こちらが、今回作りましたAブロックの開始部分です。

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上の楽譜でヴァイオリンの第5-6小節にあるのが、即興的に付け加えた音型です。その音型によって、このブロックAはユーモラスな感じを出すことができました。メインの激情と激情の間に剽軽が割り込んだ形ですね。
この剽軽な音型は、ヴァイオリンのピッツィカートやスピカート奏法などで反復していますが、その後でピアノの同じ和声進行の上にもう一つ別の、今度はやや情熱的な感じのメロディーを付けることで、このブロックを締めくくっています。この後、再び激情的なメインブロックが来ますので、いきなり激情的になる違和感は抑えられたかもしれません。

3.Bブロック

ブロックBは、ロンドの中間部です。ここは通常、曲調がガラリと変わる部分です。
下の楽譜は当時のスケッチです。

Manuscript B

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楽譜の下半分、と書かれたところがブロックBです。前と打って変わって荘重な雰囲気が感じられる部分ですが、イ短調で書かれていまして、そのまま使いますとあまりにも突拍子もない変化になりますので、主調のヘ短調に移調しました。
なお、楽譜の上半分は、メインブロックのメインモチーフを使ったスケッチです。よく見ますと五線譜を段違いに継ぎ足しています。3声のフーガとしてカッコよく展開する案を思い付いたことが、手に取るようによくわかりました。まあ、歳はとっても同じ人間ですので。^^ これを使うとしたら、ブロックBで使えばロンド・ソナタ形式になります。ですが、せっかくの荘重な部分の使いどころがなくなりますので、この案は採用しないことにしました。

こちらが、ヘ短調に移調して少し手を入れたブロックBの譜面です。

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原案でもピアノのパートしかありませんでしたが、それをそのまま生かしてピアノの独奏部分にしました。ただ、中間部としては構成的に短すぎます。そこで、これを三つ並べまして、真ん中にだけヴァイオリンのメロディを追加しています。そのヴァイオリンは非常に印象的な仕上がりになりました。漢字で表現したら「安寧」といった感じです。そのど真ん中部分の安寧を一度しか使わないのはもったいないということで、曲の終結部(コーダ)で再度使っています。

4.全体構成

以上、全体の構成を曲の雰囲気を表す言葉で要約しますと、こうなります。

激情 → 剽軽 → 激情 → (厳粛安寧厳粛) → 激情 → 剽軽 → 激情

何とまた、目まぐるしく変わっていることか。^^

でも、曲としてのまとまりということなら、たぶん聴いて頂けば、何度も繰り返される激情が全体を支配しているように思われることでしょう。何度も出せば、それが一番印象に残りますから。それと、まだ出していませんが第一楽章も激情の塊ですので、全体としても激情っぽいソナタということで、ところどころに見え隠れする剽軽厳粛・安寧は、ちょっと気分を変える心理的な効果が期待できると考えています。

それから、曲の一番最後に終結部(コーダ)を付けました。そこも安寧です。このコーダは何となく、シューマンのピアノ作品「子供の情景」終曲の「詩人は語る」風の終わり方になったような気がします。
敢えて言うなら「音学長は騙る」でしょうか。(語るに落ちた^^;)

ということで、長い長い音学長の語りにお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

あ、曲の方も、もしお時間がありましたら是非聴いて下さい。前回出した第二楽章と同じく、素敵なストラディバリのヴァイオリンを使っていますので。


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