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ふみさんの「やさしい色で」を訳詞して楽譜付き動画を作りました

この記事は、日本語の歌を英語に訳詞する際のノウハウ的な内容と、歌の曲における転調の意義について書いています。参考になるかどうかわかりませんが、ご興味のある方はお付き合いください。
(4870字とやや長めですので時間のある時にでも^^)

やさしい色で」は、ふみさんの詩に私が曲付けした歌です。
ふみさんが歌われたものは、こちらで聴くことができます。

そのメロディーと伴奏を活かして、英語に訳詞したものを作りました。
楽譜付きの動画としてYouTubeに公開しています。
歌は合成音声(AI Saki)です。


さて、歌を作るとき、私は言葉の抑揚やリズムを元に作ります。
メロディーは日本語の詩から作りますので、日本語の抑揚とリズムを反映したものになります。最近、私はそうやって作った歌に、元の詩を英訳して作った訳詞を乗せる試みを始めました。譜割といわれる作業ですが、英語と日本語の抑揚やリズム感が大きく違うため、なかなかうまくいかないものです。
英訳したものを譜割するためには、訳詞を工夫するのが基本なのですが、英語の語彙が少ない私には敷居が高いので、もっぱら機械翻訳に頼りっぱなしです。とはいってもやっぱり難しい。

ただ、私のような作曲者が訳詞する場合は、一つ利点があります。
それは、訳詞に合わせてメロディーを変更してしまうことです。
もちろん、大幅に変えてしまうと別の曲になってしまいますので、変えるのは最小限にします。
この「やさしい色で」の英語版の制作でも、訳詞に合わせるためにちょっとしたメロディーの変更をしています。その際、思いがけないハーモニーが生じるという、作曲者にとって大変嬉しいことがありました。純粋に音楽だけで音楽を作るやり方も大切と思いますが、言葉という制約がある中での音楽制作も、実にやりがいのある仕事であると実感しています。

「やさしい色で」の訳詞では、詩に使われている擬音語をいかに英訳するかも、難しいところでした。

たとえば、詩の中にある次の一節です。

眠る君を僕は見ている
すや すや すやり

詩「やさしい色で」ふみさん作 より

この詩句の音節は20個あります。
私が作ったメロディの音符は、詩の音節数より一つ多い21個です。
「すやり」を「すやーり」と歌わせていますので詩句の音節より一つ多くなっています。
詩の譜割は下の楽譜をご覧ください。

これに訳詞を乗せるのですが、英語に直訳しますと、音節が少なすぎて歌になりません。

例えば、上記の一節を「僕は、すやすや眠る君を見ている」と書き換えて、機械翻訳にかけてみるとこうなります。

Google翻訳:I'm watching you sleep comfortably.
DeepL翻訳: I see you sleeping peacefully.
みらい翻訳:I'm watching you sleep soundly.

英語訳の音節数は、上から順に9、8、7ですから、21個の音符の半分以上が余ってしまいます。

その場合は、メリスマといって母音を引き伸ばす歌い方にする方法もあります。
ただ、メリスマは言葉の本来のリズムを崩してしまうので、たくさん使うと不自然な感じの歌になりやすいです。
できればあまり使いたくない方法です。

でも、聖書の詩句を使ったラテン語の歌には、メリスマが多用されているじゃないか

確かにグリゴリオ聖歌のような宗教音楽はそうなのですが、たぶんそれはラテン語が死語(実際に話す人がいない言葉)になっているので、メリスマの不自然さが実感されないからではないかと思います。
あのへんてこりんな(失礼!)歌い方のせいで、厳かで神聖な感じがすることは確かだと思いますが。^^

メリスマに頼らないとするなら、詩の意味を変えることなく、詞の音節数を増やす工夫が必要です。
そのためには、同じ意味の長いワードを使うとか、説明的な修飾語句を付けることもできるのですが、日常的にあまり使われない多音節のワードは聞き取りにくいですし、説明語句を付けると冗長な歌になってしまいます。
そこで、詩のフレーズを部分的に反復することを考えます。
反復は畳みかけるような効果も得られますから、その方が普通に使われるやり方と思います。

また、似た意味の言葉の反復も場合によっては使えそうです。
例えば「すや すや すやり」のような擬音語は、Sleep を修飾する副詞を3つ並べることで、表現できそうな気がします。

訳詞の候補がいくつかできた段階で、次に英語の抑揚が自然にメロディーに乗るように訳詞を工夫します。
私は、名詞や動詞のような内容語(脚注あり)は強拍に、前置詞のような機能語(脚注あり)は弱拍の短めの音符に配するようにしていますが、これがなかなかが難しい。曲の雰囲気が変わらない程度にリズムを変えることで対応する場合が多いですが、メロディや和声を変える必要に迫られることもあります。ただ、そういう変更によって思いがけない音楽的効果が得られることもありますので、今度はそれを原曲の日本語バージョンにフィードバックしてやることもできる。
曲作りの醍醐味はそのあたりにもあると感じています。

いろいろ書きましたが、私がこしらえた訳詞です。

I am watching you be asleep.
I am watching you be asleep soundly, quietly, and peacefully.

訳詞の譜割は次の楽譜の下段のようになりました。

訳詞は、最初の文をもう一回繰り返してから、最後に副詞を三つ並べる形にしました。
機械翻訳と違うのは、I'm(→ I am)と sleep(→ be asleep)です。
I'mとやりますと、次のwatch-ingで第一アクセントにならない -ing が次小節の第一拍(強拍)に置かれるため不自然な抑揚になります。そこで I am としてから、次の付点四分音符を分割してwatch-ingを割り当てた形です。ただし楽譜を見るとシンコペーション気味になっているので、やはり -ing に強勢がある形ですが、まあそのあたりは歌う時のリズムの取り方で何とかなるという期待で。^^
もう一つ、sleep の方ですが、「眠る君」は「眠っている君」という意味にとれますから、Google翻訳で出てきたsleepの原形よりもDeepL翻訳の進行形 sleep-ing の方が意味的にも、また音節数としても、好ましいと考えました。
ただ、ここでも watch-ing と同様に -ing が次小節第一拍の付点四分音符に来てしまうのは問題でした。
そこで、窮余の策として be a-sleep に変えると同時に、第三拍の二つ目の八分音符を分割して、bea- を配置することにしました。これで a-sleep の第一アクセントが次小節の第一拍に来ることになり、語感的なところは私にはわかりませんが、リズム感は英語っぽくなりました。

さて、話は変わります。
この曲、やさしいのは色だけでして、メロディーはやさしくないです。
あ、メロディーはもちろん優しい感じに作ってますが、歌うのは易しくない。
そういう意味で、もちろんダジャレも兼ねてます。^^

この先は、歌うのはもちろん、文章で説明するのも難かしい転調の話になります。
上の動画の楽譜を参照しながら読みいただけば、多少なりとも分かりやすくなるかもしれません。

この曲は、短い間隔で転調が繰り返されています。
曲の主調はハ長調ですが、歌メロの途中、Bar5のあたりからト長調になりまして、続く間奏で原調に戻るパターンなのですが、次にもう一度ト長調になった後の間奏(Bar17)から遠隔調(脚注あり)のロ長調に転調します。と思う間もなくその3小節先で、またト長調に戻っています。ここは器楽ならいざ知らず、歌う場合は音程が取りにくく難しいと思います。また、Bar34-36では、ト長調から複雑な転調を経て主調のハ長調に復帰しています。途中Bar35の your heart のところの二つの記号が謎だったのですが、よくよく見ましたらここのFはロ長調の下属音E(階名でいうとファ)が半音上がったE#として記譜すべきところでした。E#は、嬰ヘ長調の導音(階名で言うとファ)です。導音が新たに出現したら、それは転調です。つまりハ長調から見て最も遠い嬰ヘ長調まで行ってしまったようです。で、そこからまたハ長調に一瞬で復帰する形になっています。こちらも相当歌いにくいところです。

このように、私が作る楽曲はやたらに転調が多いのですが、関係調(脚注あり)への転調に関しては、歌の楽曲では比較的歌いやすいことと、この後に説明するようにメロディメイクの自由度が上がるので重宝しています。

メロディメイクは、使える音域の広さによって制限がかかります。音域が狭いと自由度は下がります。
女声で無理なく歌える音域として、私はふみさんを想定してC4~E5あたりを使っています。例えばハ長調で作る場合を考えますと、その音域では属音(階名で言えば)としてG4しか使えませんので、属音からその上の属音まで駆け上がるようなメロディが作れません。
ところが、例えば関係調のト長調に転調すれば属音としてD4D5が使えますから、駆け上がりもその反対も自由にできます。ただ、ト長調では主音(階名で言えば)がG4一つしか出せません。そこで主音から上の主音へ駆け上がりたくなったら、ハ長調に戻してからやれば解決です。あるいは関係調ではないですがホ長調に転調してからなら、その音域の中で最も輝かしく響く最高音のE5を主音として使うことができます。

最後になりますが、ふみさんの書かれた詩は、私の拙い英語訳詞では十分に伝わらないと思います。
そちらは、ふみさんに歌って頂いたものを、こちらのリンク先でどうぞお聴きください。

この曲は、もともとふみさんの日本語の詩に付けたものですから、日本語で歌う方が詞とのマッチングがいいはずです。

ということで、結論を申し上げますと、苦労して訳詞しても、実入りは少なかった。^^;

先日、同じくふみさんの詩「お花畑」を訳詞したものをこちらに公開していますが、やはり、もとの日本語の詩に付けたメロディに、訳詞を譜割して乗せるのは難しいと感じます。
むしろ訳詞をもとにして一から曲を作る方が、英語のリズムにマッチしたメロディを付けやすいのではないかとも考えるのですが、英語ネイティブではない私が果たしてうまく付けられるか、かなり疑問です。
それに、その作り方をすると「頑張って訳詞したんですよ。でもメロとの関係でこれが精いっぱいだったんです」という言い訳ができなくなるのも困るし。^^;

ということで当面英語の歌作りは、日本語歌詞 → メロディ → 訳詞と譜割 というこれまでのやり方を踏襲することになりそうです。

ところでふみさんには、この歌もそうですが転調が多く音程が取りにくいメロディーを、これまで何度も歌って頂いています。
ふみさんは苦情一つ言うことなしに、いつも歌って下さる。
私にとってふみさんは、私のメロディーメイクの源泉を提供してくださる詩人でもあり、たいへん得難い歌い手さんでもある。

いつも感謝しております。m(_ _)m

  • 内容語と機能語
    内容語(content word)は名詞・形容詞・動詞・副詞のように実質的な内容を表すことばで、機能語(function word)は代名詞・前置詞・接続詞・助動詞・限定詞(a, an, the, your, their)などのように、文法的な関係や話し手の事態のとらえ方を表すことばである。(ことばの広場

  • 遠隔調
    音楽用語。 楽曲の原調から関係が薄く,遠く離れた調をいう。 たとえばハ長調からみた嬰ヘ長調や変ニ長調。(コトバンク

  • 関係調
    関係調とは、音楽理論用語のひとつで、ある調から「特に近い」と感じられる調性感をもつ、幾つかの調のこと。近親調とも呼ばれる。 なお、関係調以外の調を「遠隔調」という。 古典派の後では、遠隔調への転調も頻繁に行われるようになった。(Wikipedia

    (私も古典派よりかなり後の人間です。^^)

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