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願いの森

先だって、私の自作の曲を聴いて頂いたまつおさんから、こんなご質問を頂いた。

詩に音楽がつくというのは良いですね~(*´ω`)
ちなみに絵からも楽曲のインスピレーションが湧いたりするものなのでしょうか?


私のお返事。

 詩は、普通に読みましてもリズムと抑揚がある点で、それ自体音楽の要素がありますから、音楽とはとても相性がいいと思います。
 絵の印象からできた有名な曲にムソルグスキーの「展覧会の絵」がありますね。ただ、それほど多くの作品は知られていないようです。詩は言葉のリズムからメロディを作ることが容易ですが、絵の印象を音に変えて表現するのは非常に難しいのだと思います。
 でも、音楽制作の動機付けといいますか、きっかけとしては、一つのやり方だと思います。絵の印象から作ったという曲も時々投稿サイトで見かけることもあります。

そして、対するまつおさんからのお返事。

ああ、そうですね『展覧会の絵』はまさしくですね。
画家・ゆめのさんの作品を眺めているとなにかメロディが聴こえてきそうな気もするのですが残念ながら音にはならず、、
そこでお尋ねしてみた次第でした。


まつおさんからの問いかけ「絵からも楽曲のインスピレーションが湧くのか」に対して、私は評論家のごとく「展覧会の絵」を持ち出して、自分がどうなのか全く触れなかった。

実は、私は絵の印象から楽曲を作ろうとしたことはない。
たぶん、絵を見ても制作の動機付けになるようなインスピレーションは湧かないと思う。

まつおさんは、「画家ゆめのさんの作品を眺めているとメロディが聴こえてきそうな気がするのに、実際は音にならない」と仰ったが、私も同様である。
ただそれは、これまで聞いたことがないような新たなメロディが聞こえてこないという意味だ。
絵を見て既成の音楽が聞こえてくることはよくある。
自作曲であることが多い。
たぶん、完成する前から聴いているから、耳にこびりついているせいだろう。


ゆめのさんの絵を見て、私の頭の中に自作のピアノ曲が流れたことがある。

絵の画題は「願いの森」。

こちらは、まつおさんが投稿された「第1回ノートノベリスト詩詠み会」の記事で、絵はそのカバーに使われている。

私がゆめのさんの絵を見て印象的だと思うのは、様々な造形のモチーフに同じ系統の配色を使っている作品が多い点である。音楽に例えるなら、それは弦楽カルテットになるかもしれない。弦楽カルテットは、兄弟みたいな3種類の弦楽器からなる4つの楽器で編成される。その響きに通じるものがある。ゆめのさんの絵は、ベートーヴェンの晩年の弦楽カルテット群の緩徐楽章を思わせる、と言ったら言い過ぎだろうか。
これが弦楽オーケストラになると兄弟と言っても異母兄弟みたいな別系統のコントラバスが入るし、何といっても編成が大きくなるので、カルテットのような精緻さも静寂さもない。
そう、私がゆめのさんの絵に感じるのは、カルテットの精緻さと静寂さかもしれない。


さて、「願いの森」を見た時に、私の頭の中で鳴った曲だが、それはタイトルを「早春の鼓動」と付けたピアノ曲だった。それは、神秘的な森の情景を思わせるような連作の二作品の片割れである。
もう一曲の方は「盛夏の森に」というタイトルで、その「動」に対して「早春の鼓動」の「静」という対比を連作として盛り込もうとしたものだった。

ゆめのさんの「願いの森」の深い緑を見て、「早春の鼓動」が頭の中に流れた刹那、こう思った。

この曲、早春じゃなかったな。
春だとしても、もう少し後の方だ。
新緑が深緑に変わる頃、林床の生き物たちが静かに歌うような曲調かもしれない。

私は楽曲のタイトルは、後付けが多い。
それも、苦し紛れのタイトルだったりする。
なので、こういう絵との邂逅があると、真に気に入ったタイトルが決まる。

ただ、この場合は対比を狙った連作のピアノ作品の一つであるから、もう一つの「夏」に対する「春」を、タイトルに入れるのは不可欠。
「願いの森」と改題するわけにはいかなかった。

ところが、松尾さんのコンテスト企画「私が見たゆめのせかい」を知ったとき、いいことを思いついた。

アレンジして別の曲として、「願いの森」と名付けたらどうだろうか。
ゆめのさんの「願いの森」には、まつおさんが画詩を作られている。
その詩をお借りして、ピアノ曲を歌の曲にアレンジしたらどうだろうか。
そうすれば、その歌のタイトルは晴れて「願いの森」になる。
まつおさんから、詩の使用許可を頂いて、コラボレーションにしよう。
その制作の動機付けは、詩も歌もゆめのさんの「願いの森」だ。
だから、そのコラボ作品の紹介記事を書いて企画に応募してよいのではないか。
歌はふみさんにお願いすることにしよう。


ただ、企画の期限が迫っている。
通常のペースでは間に合いそうもない。
果たして間に合うかどうか、やれるだけやってみることにした。

詩は、上でリンクを引用したまつおさんの記事からお借りした。
詩は7行×3節の構成で「第1回ノートノベリスト詩詠み会」にまつおさんが応募されたもの。まつおさんが通常作られている自由形式の詩とは異なっているが、その詩からは最愛のパートナー「りえさん」を失った深い悲しみを何とかして生きる希望に変えたいというまつおさんの願いが感じとれた。

アレンジを始めたのが5月20日の朝。
既成の曲に、既成の詞で歌を付けるのは、詞も曲も自由にならないので結構難しいものである。
アレンジの基本的方針はこうである。
まず、原曲のピアノには手を付けず、曲の雰囲気を変えないようにする。
そして歌のメロディは、できるだけ原曲の主旋律または副旋律を使う。
但し跳躍などがあって歌いにくい箇所と、イントネーションが不自然になる箇所は、新たなメロディを付け加える。

原曲はA・B・Aの3部構成。
そして詩も3つの節に分かれているので、対応は容易だ。
個別に作ればよい。

1番の歌詞は、不思議とA部分の尺にぴったり合って、思いのほかトントンと作業が進んだ。
真ん中のBも、最初から詩が曲に合わせて作られたかのようだ。
詩と音楽の整合性もよい。
3番の歌詞は、1番と同じAの部分なので同様の譜割ができる。

お昼過ぎにはアレンジと譜割が完成した。
原作のピアノ曲は、この詩を待っていたような気がした。

ボカロを使ったデモをまつおさんに聴いて頂いたのがその日の夜。
折り返しのメールでまつおさんのご了解を頂き、正式のコラボ作品として公開できる形になった。

翌日、このアレンジに歌入れできるか、ふみさんに問い合わせた。
というのは、元がピアノ曲である。器楽曲のメロは生身の人間では歌うのは困難なのだ。
比較的歌いやすいメロに変えたつもりだが、私が歌うわけではない。
ふみさんのご意見を聞いて、場合によっては根本から作り直さないといけないと思った。

だが、案ずるより産むが易し。
ふみさんからは二つ返事で歌入れのご了解をいただけた。
そして、その二日後の5月23日の夕方に、ふみさんから歌のトラックが届いた。しかも、以前に歌入れの依頼をしていた別の3曲と一緒に。

この季節、雨が多い。雨の日はノイズが多いので宅録はできない。
難しいメロを短期間で習得して、雨の合間に録音して頂いたのだ。

感謝あるのみ!

ただ、送られてきた音声ファイルのタイトルが「願いの森」ではなく「眠りの森」になっていた。
ふみさん、大急ぎで録音トラックを作ったので、タイトル間違えたんですね。^^

あとは、私がミックスする段取り。
翌日、仮ミックスして、ふみさんにリモートで聴いて頂いてご意見を伺い、若干の調整をして作品を完成させた。24日の夕方だった。

このコラボ、私が関わった中ではたぶん最短の5日で完成できた。

絵画は、見る人のもの。
詩は、読む人のもの。
そして音楽は、聴く人のもの。

公開されたものは、作り手の思いとは別に、いろんな感興があってよいと思う。

あなたは、このコラボ作品「願いの森」を聴いて、どんな感興を覚えるでしょうか?

願いの森
Lyrics:まつお
Song:ふみ
Music:音楽帳工房 (「早春の鼓動」作品7-8 より)




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