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第二回シームレス発売記念特別対談

シームレス1巻が各電子書籍ストアでの配信が開始されました。
第二回対談はシームレス1巻にスポットを当てて作中では語られなかった沖縄のユタ(霊媒師)のことや漫画制作についても語り合います。
前回の対談はこちらで読めます。

※今回の対談、ネタバレ大いに含みます。ご注意下さい。

誰でも読める一話サンプルあり、KindleUnlimited加入者なら無料で全部読めます。よろしくお願いします。

星野:ヒロットヨンさん、こんにちは。前回からあっと言う間に1週間が過ぎました。

ヒロットヨン:星野さん、こんにちは。あっという間ですね。前回の対談楽しかったです。

星野:お互い色んな発見がありましたよね。私も楽しかったです。
さて今回は各巻についてもっと掘り下げてお話を聞いてみたいと思います。
まずは『シームレス』シリーズの第1巻に当たる「 Voice of livingdead」についてです。色々とお聞きしたいことがあるんですが、まずこの作品が描かれたのはいつ頃なのでしょう?

ヒロットヨン:2018年の11月です。1巻の中では第三話目「スーパーナチュラルねーねー」が一番最初の作品です。

三話目冒頭、この出来事が全ての長編を描くきっかけに。

当時はSNSにコミットするようショートストーリーの読み切りとして描きだしました。数話描いたあとシームレス2、3、4巻の話に着手していくんですがその間で数話、同時進行でショートストーリーを描きおろして1巻が出来上がりました。だから1巻、全10話なんですが描いてる時系列も違うし古い順に配置もしてないです。バラバラなんです。

一巻の第一話に当たる「みんな大好き田いもパイ」はかなり後半に描かれたもの

星野:そうなんですよね。私は途中からリアルタイムで読んでいるんですが、シームレス3(「コリアン ダーク シティ」)と同時進行するのでよく頭がこんがらかった記憶があります。今回改めて整理されたものを読み返して、「ああ、こういう話だったんだ」とストンと腑に落ちました。バラバラに書いていても頭の中では繋がりは意識していたんでしょうか。

ヒロットヨン:最初は何も考えてなかったんですけど長編を続けていく内に自分の中で意識するようになったターニングポイントが二カ所あります。2巻の途中描かなくてもいいことを入れたんです。失敗するかもな、失敗してもいいからやってみるかって。漠然とアイデアと全体像が浮かんだんですよ。前回の対談でも話してますが「SNSの数秒で魅力が通じるもの」って一生懸命面白いものを描いても埋もれて消える空気になってるってことですよね。一応、作者が再掲載みたいな形で何度でもあげれますけど、そういうことじゃなくて読者が自分の意思で戻るような作りにしたかったんです。何度も何度も戻ってもらう。「そういえばここテストに出るって先生言ってたな、どこだっけ?」ってノートを巻き戻してめくるような感じで。

星野:確かに。私も何度も読み返しました。分かりづらくもあり、大事な何かを見落としているような気もしたりで。そういう仕掛けは確かに一か八かなところがありますね。「分かりづらい面白さ」みたいなものは、最近の漫画は極力排除する傾向があると思います。

ヒロットヨン:漫画ではこういうの駄目でしょうね(笑)。でもやりたいことがわかりづらいことだったんです。それを表現できる方法が僕には漫画しかなかったんです。

星野:いや全然アリだと思います。本来、漫画はその形式も内容も自由だと思います。ついつい「起承転結が…」「ハリウッドでは…」みたいな一般論に落とし込みがちですが、そこからいかに逸脱できるかは常に考えたいです。

星野:「 Voice of livingdead」はタイトルからして怖そうですが、読んでみると所謂ホラーではなくて、奥様のマキさんの回想録という形でユタのしきたりというか、ユタとは何かが語られてゆきます。私はユタについてはほぼこの本で学んだので丸々鵜呑みにしているところがあるのですが、実際こんな感じなのでしょうか?

ヒロットヨン:ユタと近い距離にいた妻と身内の方に聞いた実話がベースなので丸々鵜呑みでも問題ないと思います。ただ若者の間で語り継がれるトイレの花子さん的な都市伝説っぽい話もあるのかなぁと。noteであげた時「わかる、沖縄の語り草はこんな感じなんだよね」と反応してた沖縄の方がいたので。僕もそうでしたけど意外と内地の人は知らないですよね、沖縄のそういう話って。

星野:なんとなく聞いたことはあっても、それが実際にどんな風に語られているのかは知らない人がほとんどだと思います。そうした私のような読者には、どの話も新鮮に映ると思います。

ヒロットヨン:沖縄って観光地のイメージが強いですよね。そんな風習があるなんて思ってもみなかったんで僕も初めて聞いた時は凄く新鮮でした。

<みんな大好き田いもパイ>

星野:ここからは各話について語ってゆきたいと思います。
最初に田いもパイを作っている女性がユタに選ばれてしまうエピソードが語られます。いつもゆくパン屋さん、あるいは駄菓子屋のおばさんが違う世界に行ってしまう、でも居なくなる訳でも死んでしまう訳でもない、みたいな、まさに現実がシームレスに違う世界に接続してゆく怖さがあります。

ヒロットヨン:妻のおばあもカミダーリ(お告げ)がきて神聖な場所で修業してユタになったと聞いてます。

一般の人は入れない御嶽(うたき)と呼ばれる聖域で修業してユタになるそうです。世界文化遺産に登録されてる斎場御嶽(せいふぁーうたき)は観光地として解放されています。

日常会話でそういう話をしてくれるんですけど、なんか不思議な怖さがありますよね。よくよく考えるとなんで普通に喋ってんの?恐ろしい話やでって。あ、でもお義母さんに出会ったころはそういう話してくれなかったです、内地の人にそういう話は印象悪くなるかもと思ったのかもしれません(笑)

星野:ちょっとこう、人を選ぶところがありますよね。それを聞かされるこちら側にも覚悟が要るというか。さきほど所謂ホラーではない、と言いましたが、語り口が日常系なだけにかえってゾッとする怖い話なんですよね。ただ普通の人には見えないものが見えるからといって、呪い殺されたり感染したりする訳ではなく、ある意味日常は(一見穏やかに)続いてゆく。ここが従来のホラーの型に嵌まらないところかな、と思います。

ヒロットヨン:そうなんですよね、本当にそうなんです。怖いはずなのに話を聞いてると徐々に怖いという感覚じゃなくなってきて。なぜユタが存在して沖縄にはご先祖様を大切にする風習が残っているのか。話を聞いてると日常に溶け込んでる空気があるんです。沖縄の人全員そうではないと思うんですけど。

星野:あ、みんながみんなそういう訳ではないんですね。

ヒロットヨン:義理の姉の旦那さんはそういう話は嫌いでしないんです。霊的なものを信じてない人で。でも一緒に飲んでたら「親父の葬式の日、廊下歩いてるの見た」とか言うんです。信じてるやんって(笑)。なんていうか現実とあっちの世界の線引きが曖昧というか不思議な魅力がありますよね。

星野:うーん、沖縄ってその点独特ですね。でも全員がそうではない、というのは気に留めておく必要があるのかも知れません。

従来のホラーだと、特殊な能力を得るにはなにかしらの代償を支払うというのがある種のパターンだと思います。悪魔と契約する代わりに超常的な力を得る、その代わりにお前の命をもらう、みたいな。そこには何かの目的があり(復讐とか)、それに伴う犠牲が必要ですよね。

ヒロットヨン:後々話の中で語られていきますけど、結局ユタとはなんなのか、なんの為にユタにならなければいけないのか。存在意義を考えていくと題材的にはホラーにすることもできるんですけどそこに行きつかなかったというか…。ユタに関わる沖縄の人達、それぞれどういう意識を持っていてそこからどう翻弄されてしまうのか。心の変化を描くことの方が自分の中でしっくりくるんです。人間を描く方が楽しいですね。

星野:なんとなく分かります。ホラーに持ってゆくには登場人物がみんな温かいですし…。ホラー映画にありがちな因果関係をヒロットヨンさんが描くお話は持たないですよね。「友利のおばさん」は勝手に選ばれ、拒み、最後は受け容れる。それで死ぬことはないけど、田いもパイは作らなくなってしまう。それを悲しんでいいのかすら分からないところがあります。

ヒロットヨン:描いていいところまで描かないんです。漫画は想像力が一つの武器だと思うんです。けど僕の想像より読者が友利のおばさんがあの後、一体どんな人生になっちゃうのかなと考える余韻を残す方が良いと思ったんです。

星野:考えちゃいますよね。私も色々考えちゃいました。描かないことで生まれる余白を人はつい埋めようとする。その余白を意識的に作るのがヒロットヨンさんの戦略なんですね。それってすごく高度なテクニックだと思います。ある意味、一番美味しいところを描かないので勇気も必要ですよね。

<遅咲きのユタ>

<スーパーナチュラルねーねー>

<スーパーナチュラルねーねー2>

<長年の後悔を解放する>

星野:ここからはネタバレを恐れてやや駆け足でゆきますが、この4編はマキさんのおばあさんやマキさんのおねえさんについて、マキさんがヒロットヨンさんに語る、という形式で話が進んでゆきます。ヒロットヨンさんは聞き手として、またコメディリリーフ的な役割として登場します。ヒロットヨンさんが入ってくることで客観的な視線になり、同時にギャグ漫画っぽいテイストになりますね。

私が出ると軽いノリに…?

ヒロットヨン:最初からわかってたことなんですがこの漫画で一番キャラ立ちしないのが僕なんです(笑)。聞き手のポジション的には解釈したり怖がったりリアクションしたらいいと思うんですけど…。そこは性格が出てて。全部茶化したくなるんですよね(笑)。

星野:いや、充分キャラ立ってますけど…(笑)。自分を描くのは難しいですよね。私はやったことありませんが、どうしたらいいか途方に暮れると思います。

ヒロットヨン:あ、立ってますか、良かった(笑)。そう、自分のことってどう描いていいかわからないところがあって弱いかなってずっと思ってました(笑)。安心しました。

星野:東南アジア系の料理を作る人であることが触れられてゆきますが、なかなか明らかにはしてくれないんですよね。私、ヒロットヨンさんのお店突き止めるまで、随分検索しましたもん(笑)。

料理人の見せ場。それはチャーハンを炒めてるところ。

ヒロットヨン:検索したんですね(笑)。
それは飲食店で料理する自分と漫画描く自分は別という意識が最初強くて。本来、漫画としては一番最初に飲食店を営んでる夫婦みたいな説明が冒頭に必要だと思うんですけど…。恥ずかしかったんでしょうね、当時は。

<プールアタック>


星野:この話ではヒロットヨンさんは登場せず、さらに濃いキャラのお父さんが登場します。運命に対して抗うというか、行動して力技でなんとかする強引なキャラです。実際、ご本人もこんな感じなのでしょうか?

扉は開けれません

ヒロットヨン:本当にこんな感じです。嘘みたいですけどお義父さん、本当に漫画みたいな人なんです。一人で空手の特訓したり深夜ずっと習字してたり。習字してる時ずっと横で見てたんですけど10分くらいして「いつからそこにいた?」って集中しすぎて気づいてなかったんです。面白いなぁって。面白いって言ったら怒られるのかな(笑)。でも好きですね。好きじゃないと描けないですから。

星野:すごい人ですね!作中でも愛されキャラとして描かれますよね。ただ、単純にいい人だけでもないということが徐々に明らかになってくるという…。

ヒロットヨン:一筋縄ではいかない色んな人生がありますから…。漫画のキャラ作りの為に空手の練習をしてるのではなく空手をする理由があるということなんですよ。あー!これは追々ですね!めっちゃ先の話ですよ(笑)。

<ユタの血統書>

<2年2組>

<6年1組>


星野:この3編では、マキさんの同級生や先生がユタになる、あるいはいずれなるかも知れないという話が描かれます。その中で、ユタにも色んな血統があるらしきこと、ユタの能力にも色んな個性があること、中には悪いユタもいるということなどが描かれてゆきます。でも悪いユタは実は良い先生だったりと、単純な話ではないということも分かったり…。

ヒロットヨン:作中で触れてないんですけどユタには「お金儲けに走ってはいけない」という暗黙のルールがあるんです。霊感商法詐欺みたいなことをするとユタの能力が消えてしまう、本人に悪いことが起こるとか言われています。でも悪いユタにならざるをえない状況も考えられるわけです。

星野:なるほど、商売としてのユタは成立しないんですね。

私が好きなのは、マキさんの友達のえみさんがマキさんのおばあの霊を見てユタの運命を受け入れはじめるところと、二人の話を聞くともなしに聞いていた担任の先生が、えみさんの進路を「内定済…で、いいのかな…」と思うところです。いや、普通そうはならんやろ!と(笑)。

ヒロットヨン:最初は、怖い話から良い話に落とし込もうと思って描いてたんですけど何を思ったか急に笑かしにかかろうと舵を切りました。悪い癖です(笑)。でも気に入ってもらえて良かったです。僕も好きな場面です。

<Voice of livingdead>

星野:さて、この話を語るのは難しいです。何を書いてもネタバレになりそうですし…。なので、作中で引用される映画(?)について聞いてみたいのですが、これって実在する映画ですか?

??…突如現れる映画のワンシーン

ヒロットヨン:あ、そこですか(笑)。セリフは映画と全く関係ないんですけど絵は実在の映画からのオマージュです。タイトルは伏せようかな(笑)。

星野:了解です(笑)

ヒロットヨン:この映画冒頭に「THIS IS TRUE STORY(これは実話である)」のテロップから始まるんです。僕、長年騙されてたんですけどこれ実話じゃないんです、嘘なんです。

星野:「これは本当の話です」という嘘をつく、ということですね。面白いなぁ。

ヒロットヨン:で、このテロップがあるとないとで作品の面白さに影響するか考えると影響しちゃうんですよね。こんな話が実話だなんて面白いなって思ってしまう。僕の作品にも通ずるものがあるのかなと。

星野:確かに。実話のようでもあり、嘘のようでもあり。

ヒロットヨン:メタファー(隠喩)を作者が話すのも恥ずかしいんですが「漫画は本当も嘘も描けるし嘘を描いてもいい」という僕なりのメタファーです。どこまで本当でどこまで嘘なのか、読者が面白がってくれる方を優先して考えた方がいいかなと。僕の作品はかなりの数のメタファーを潜ませています、メタファーを入れる為に描いてると言っても言い過ぎじゃないかも。いつか誰かが気づいてくれたらいいかなと忍ばせてます。本編とは関係ないのでオマケ程度に思ってもらえたら。

星野:作品を重層的に作って、気づいたり興味を持った人は深堀りしてより楽しめるんですね。私も映画や音楽にインスパイアされて作品にこっそりエッセンスを忍び込ませることがありますが、どちらかというとオマージュを捧げる、というニュアンスが強いです。



ヒロットヨン:解体屋ゲンもそうですね、オマージュたくさんありますね。あれ?前回の対談で真逆だって言ってたのに話せば話すほど共通点がありますね(笑)

星野:何か影響を受けたり、意図的に漫画に取り込もうとするメタファーの対象は映画が多いように思いますが、他の漫画や音楽はどうですか?

ヒロットヨン:漫画や音楽からの影響ももちろんあります。何をどう描きたいか考える時ってあの映画のワンシーンをとか、登場人物の表情(感情)を描く時はあの歌詞の感じかなとか聴いたり思い浮かべたりします。

星野:なるほど、それでは次回はその辺りを深堀りしてゆきましょうか。という訳で今回はここで終わりたいと思います。ありがとうございました!

ヒロットヨン:ありがとうございました!

次回、『シームレス2 ハウス オブ ザ で』編へと続きます。


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