おおとり璃句 短歌置き場 その3

【2021年8月から、2021年10月までの作品より】
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唯一の旋律へ幾千万のことばを乗せた笹舟の群れ

這い出してにじんだ栞たしかめて2ページ戻りきょうを始める
はちみつは色とりどりの揺りかごをゆっくりとろり忘れてセピア
アゲハ、「ア」の高鳴りいちど飲み込んで、アゲハ、呼ぶこえ世界揺らした

ひそやかな好意であざやかに包囲すみやかな勝利をしとやかに
雲のしたおなじ絵の具で描き足したように眩しさふくらみました
砂漠でも芽吹ける種を月面へ放つ 倫理が定まるまえに

ひと煮立ちさせて一転冷ややかにされてゼリーはあなたのかたち
やりとりを「今から行く」の着地へと誘導しつつ髪泡だてる
居酒屋でふざけた魔法かけられていまもレモンレモンレモン味

ほんとうに最後の花火音もなく照らすことなく空を冷やした
はなびらは落ちてなお彩りとして踏まれて朽ちてどこまでが色
息継ぎもうまくできずにいたようで金木犀の遠い呼び声
あきざくらまばらに揺れる感傷を日ごとつめたい風が連れ去り

骨ひとつ折れてしまった傘を差すひらいても軋まなくなるまで
キリギリス側に生まれて革靴が行列をなす駅で凍える
墓地のない都市はひときわしらじらと塗り隠す昏き袋小路

塞いでも塞いでも朝漏れ出して絶望を濁らせる金色
鉢植えに残る記憶をやわらかく撃ち抜いて霧吹きの引鉄
ぐんにゃりと昼寝している猫の牙ふれてみたならサバンナ遥か
未来への荷物がいまは軽すぎて空にふらりふらりコウノトリ





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