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「あらゆる関係に生じるズレを、言葉の力でなくしたい」稲葉志奈さん

はじめに
昨年秋から、フリーランスのライターとして活動している藤原梨香と申します。先日、パートナーとしてお仕事をしている編集デザインファームinquireのライター講座にてインタビュー記事を執筆しました。取材相手は、Webディレクター・ライターの稲葉志奈さん。稲葉さんの許可をいただき、こちらに公開したいと思います。

自分の気持ちがうまく伝わらずに、人間関係に亀裂が生じてしまう。人と分かり合えずに、悔しい思いをした経験のある人は決して少なくないでしょう。
「あらゆる関係に生じる“ズレ”を、言葉の力で解決したい」。その思いを胸に、“書くこと”と向き合い続けてきた、稲葉志奈さん。クリエイティブディレクター・ライターとして、採用コンセプトの設計やサイトの構築、インタビュー記事の執筆に携わってきました。
書くことだけではなく、プロジェクトの設計から関わってきたからこそ見えてきたものとは。彼女が実現したい未来に迫ります。

誰に何を伝えるか。言葉には影響力がある

──稲葉さんは、ライターだけではなくクリエイティブディレクターとしてもご活躍されているんですね。
稲葉:
はい。キャリアとしては、ライターよりもディレクターのほうが長いです。大学時代はプロダクトデザインを中心に学び、新卒でデザイン会社に入社。アプリ開発やサービスコンセプトの設計に携わりました。今は企業のブランディングのお手伝いをする、ギフトという会社で働いています。

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ディレクターとして手がけた、ディップの採用サイト

──一見、「書くこと」とは無縁のキャリアのようにも思えますね。ライターとして執筆を始めたのは、いつからですか?
稲葉:
ギフトに入社してからです。もともと書くことは好きではなく、むしろ苦手で(笑)。ライターをやるなんて、想像もしていませんでした。

──そこからなぜライターに?
稲葉:
前職で参加した研修で文章の書き方を学ぶ講座があって、苦手意識が薄れたんです。これまでは、優れた感性をもった人だけがいい文章を書けるのかと思っていたのですが、実際には明確な論理展開が重要だと知りました。要素を分解し、再構築する。その過程がデザインと通づるところがあって面白いな、と。それからしばらく経ってギフトに転職したあと、「ライターをやってみないか?」と社長から声をかけられました。書くことへの興味も高まっていたので、挑戦してみました。

──前職での研修を含めて、稲葉さんはライターになる運命だったのかもしれませんね。
稲葉:
そうかもしれません(笑)。実際にやってみたら、伝えることはもちろん、取材時のインプットも面白かったですね。取材を重ねるうちに自分の中に知識が蓄積されていき、その知識を伝えることで誰かの役に立てる。難しさを感じることもありますが、この仕事に出会えてよかったと思います。

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初めての執筆は、全日本空輸(ANA)のINNOVATIVE VOICEだった。

意図を正しく届けるために

──アウトプットをする際に心がけていることはありますか?
稲葉:
企業やインタビュイーが伝えたいことを、「正しく届ける」ことです。ライターになったことで、言葉の重みを実感しました。言葉ひとつで企業やインタビュイーのイメージが大きく変わっていくので、面白さと緊張と両方の気持ちを感じています。

──齟齬なく、正しく届けることは難しいですよね。どんなふうに言葉を選んでいくんですか?
稲葉:
「今、私が紡ごうとしている言葉は、果たして相手の伝えたいこととマッチしているのか?」自分に対して常にそう問いかけています。時には、語源に遡って言葉の意味を調べることも。会社のイメージを左右する企業理念や採用コンセプトのコピーライティングをするときには、特に心がけていますね。

──確かに責任は重大です。稲葉さんの言葉に対するまっすぐな気持ちが伝わってきます。
稲葉:嬉しいです。少しでもマッチする言葉を届けるために「この言葉に対して、どんなイメージを持ちますか?」と、企業の社員さんへのヒアリングも欠かしません。同じ言葉でも人によって違った解釈が存在するので、その溝を埋めていきたいんです。

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古澤建設のコーポレートサイトのコピーライティングを担当。

──社員さんもうれしいでしょうね。ただ、インタビュー記事を書くときにはどうしていますか?文字数が膨大なので、ヒアリングは難しそうですが……。
稲葉:
その場合は、インタビュイーと私の認識を合わせるようにしています。相手の発した言葉を自分で言い直して、感覚をシンクロさせていく感じです。

──稲葉さんの丁寧で真摯な姿が浮かんできます。アウトプットをする際は、どんなことを心がけていますか?
稲葉:
“肝となる部分”を先に定めることが多いです。「ここは絶対に、この人の言いたいことをニュアンスまで伝える」という箇所を決めます。絶対にずらしたくないところを大切にしながら、流れを組み立てる。話をどう進めればストーリーの中でその言葉の解釈がずれないかを考えながら、起承転結を設計していきます。

“勘違い”で生まれる関係のズレをなくす

──稲葉さんと話していて、相手と自分の感覚を際限なくすり合わせて「言葉」に向き合っていると感じました。書くことを通して何を実現したいですか?
稲葉:
情報の編集を通して、人と人の関係に生まれるズレをなくしたいです。企業ブランディングや採用のお手伝いをする中で、入社前後の期待値にズレがあるとわかりました。社長の言葉に惹かれて入社したけれど、言うことがコロコロ変わるとか、内部の状況が全然違っていたとか……そういったことで悩む人のお話を伺うことが、少なくないんです。

──入社後のミスマッチに悩み、パフォーマンスが発揮できずに社員が退職してしまうパターンはよく耳にしますね。
稲葉:
企業と社員、お互いが不幸になってしまいますよね。だから私は、言葉の細部を大切にして、情報を正しく伝えることでズレをなくしていきたい。企業の意図を正しく伝えられれば、本当にマッチする人との出会いを生み出せるはず。人との関係や自分の理想を追い求めた上で、幸せになれるんじゃないかなと思うんです。

──人が本当にマッチした場所に行けるようなお手伝いをしたい、と。
稲葉:
そうですね。私たちは「言葉」で会話をしています。採用候補者が最初に見るホームページやコンセプト、社員の人柄を適切に伝えることが大切。勘違いで生じる関係のズレを言葉の力でなくし、一人ひとりが幸せに生きられる世界を作りたいです。

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