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「種を蒔く」

今でなくていい。

日本に帰って、あわただしい日々の暮らしに戻り、ルース氷河のことなど忘れてしまってもいい。が、五年後、十年後に、そのことを知りたいと思う。

ひとつの体験が、その人間の中で熟し、何かを形づくるまでには、少し時間が必要な気がするからだ。

旅をする木  /  星野道夫・著

これは、星野さんがオーロラを見るために、幅広い年齢の子供達と一緒にルース氷河に滞在した時のお話です。
オーロラを目の前にした子供達の反応は様々。そんな彼らを見て綴られた細野さんの言葉がとても印象的でした。

「ひとつの体験が、その人間の中で熟し、何かを形づくるまでには、少し時間が必要な気がするからだ。」

***

母親になって日々実感するのは、子育てとは種蒔きの連続である ということ。

子供達には、より良い人生を送ってもらいたくて、様々なものを与えてきました。
子供の心を育むための栄養分は様々です。本であったり、旅であったり、食事であったり、エンターテイメントであったり。
この子には何が響くのかなぁ…と、まるで実験をするかのように与え、観察し、対話をしてきたつもりです。

気まぐれな子供に対して、保護者という立場上、すぐにポジティブな反応を求めてしまいがちですが、そこはじっくりと気長に。空振りすることもたくさんありました。

偉そうなことを言ってますが、子供達が思春期を迎えた今もなお、私は種蒔きを続け、それが正解かどうかもわからないまま、日々彼らと向き合っています。


先日、高校一年生の息子が通う塾で面談がありました。
前回の模試の結果が芳しくなかったため、この先より一層の努力が必要、とのこと。

確かにもう少し頑張らなければいけないなぁと思いましたが、果たしてこれからの将来、勉強だけできれば本当に大丈夫なのでしょうか。そんな疑問も浮かびます。塾に通わせておいて言うのもアレですが。

面談の相手は塾の先生なので、大学に無事合格することだけを目的としています。
だけど、息子の人生は大学に合格した後も続きます。今よりもずっと長く。

もちろん受験勉強や学校で身に付ける基礎学力は大切です。しかし、少子化が進み、昔ほど大学進学が難しくなくなった(と思われる)今、年頃の子を持つ母親として、どこの大学に入るかよりも大学で何を学び、どんな経験をするかがより一層重要になっていることを実感しています。

自分を肯定できるような強みは、テストの点数だけでは判断できません。
幼少期から育んだ体験をもとに自分自身で気付いて、磨いていかなくてはいけないのです。

彼らの価値観を最優先させつつ、私はこれからも小さなきっかけを与え続けると思います。

押し付けがましくないように、さりげなくね。

子供の頃に見た風景がずっと心の中に残ることがある。

いつか大人になり、さまざまな人生の岐路に立った時、人の言葉でなく、いつか見た風景に励まされたり勇気を与えられたりすることがきっとあるような気がする。

旅をする木  /  星野道夫・著

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