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ミズミズアリ 〜アリが蘇らせた「好き」〜

砂漠のオアシスで発見された「ミズミズアリ」🐜。
それが通った所はみずみずしくなり、オアシスはそのアリによって出来た。

現在では人々に美容目的で利用されている。
体に這わせ、肌を潤すのだ。

しかし、ミズミズアリにはもう一つ秘められた能力があった。
それは、死にかけたものを蘇らせ、さらにパワーアップさせてしまう。

死にかけたセミは蘇り、サバイバルゼミとして1年近く生き続けるようになる。
剪定しすぎてダメになった桜は、無限桜として再び咲き乱れ、
その花は散っても散っても一年中無くなることはない。

🌸𓆦🌸

休日の昼下がり、君子はミズミズアリを体に這わせていた。
乾燥肌に悩んでいる彼女は、月に一度はミズミズアリをレンタルしていた。

少しずつ肌は潤ってきたが、突然、胸の辺りが波打ちだした。
胸の奥からギーと下手なバイオリンの音が聞こえる。
「うう、何これ、気持ち悪い。」
たまらず耳を塞いだ。
が、音は小さくなるどころか、鋭く脳に直接響いてくる。

するとボンヤリと、忘れていた幼い頃の記憶が蘇ってきた。

私はバイオリンを弾いていた。
弾き始めの下手な時、先生に毎日酷く叱られた。
練習を続けてなんとか綺麗な音が出せるようにはなった。
先生からは叱られなくなり、
よく頑張ったね、厳しい練習のおかげね、とお母さんから言われた。

だけど私は、次第にバイオリンを弾かなくなっていった。

バイオリンは好きだった。
音は汚くても弾くのが楽しかった。
なぜ弾かなくなったんだろう。

音が綺麗になったから?
いいえ「好き」が死んでしまったの。
私の柔らかなみずみずしい感性が、音に奪われてしまったのかな。

また弾きたい。
返して!私の「好き」を!
下手とか上手とか、気にせずただただ好きなように弾いていたかった。
もう誰にも私の「好き」を奪わせない!

そんな衝動がみずみずしく甦り、目から水が溢れ出す。
胸の辺りでは渦が巻き、渦の中から五線譜が龍のように昇り出てきて、
天井を漂っていた。
君子は、まるで水中のようなぼやけた視界の中、呆然とそれを眺めていたが、いつの間にか眠っていた。

💧💧💧

目が醒めると、ミズミズアリは消えていた。
ベランダでは物干しで、五線譜がユラユラと揺れている。
床には、君子が子供の頃に弾いていたバイオリンと弓が転がっていた。
そっと手を伸ばし拾い上げ、弾いてみる。

「うわ、ひどい音。
 あんなに練習したのにな…。」

苦笑いしながら思う。
でも…私に必要なのは綺麗な音じゃなくて、「好き」を感じるみずみずしい心だ。

弦を押さえる柔らかな指がヒリヒリする。
その痛みが、少しずつあの頃を甦らせる。

君子のバイオリンの音はベランダに干された五線譜に吸い込まれ、
水々しい音となり、世界中に降り注いだ。

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