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#37「ベストマッチ」

「漫画家にはねえ、頭良くないとなれないよ」

 小学生の頃、親に言われた言葉だ。

 今、僕が少しでも頭よくなれたかどうかはわからないし、この稿の主旨ではないので今回は隅に置くが、少なくとも親の言っていたことが正しかったということは理解できている。

 前にもどこかで話したかもしれないが、小学生の頃は漫画家になりたかった。
 絵が好きなクラスメイトと自由帳の中身を見せあい、または漫画を読ませあい、図画工作の時間には腕を競いあい、掲示物の制作では力を合わせ……みたいなことを気づいたら結局六年間ずっとやり続けていた。
 購読していたベネッセのポイント交換プレゼントでも、漫画家セット(Gペンやインク、原稿や雲形定規など執筆に必要な一式が入った結構いいやつ)をラジカセと天秤にかけ、結局は前者を選んだ。
 そんな脈絡があって親から受けた忠告が上の一言だったというわけである。

 中学校に進んで少し経つと、漫画家の夢は消えていた。
 図画工作系のことは好きなままだったが、夢に掲げるにはどうやら厳しいらしい、とわかった。
 地道な作業をひたすら続けなければならないことや、門の狭さ、門をくぐった後の重圧や生活の不安定さなど、段階的にだがその大変さを着々と理解し、少し悔しかったが手放した。
 ただ、夢の種類で言えば、結局今は今でソレと大差ないことをやっているんだけども。

 漫画家に限らず、クリエイティブなことは頭が良くないとできない、というのはなんとなくわかった。
 それでも心のどこかで自分がその法則に違和感を握りしめたままだったのは、アイデアや遊び心で戦う印象の強いクリエイションと、学校で教わるような堅苦しい教養知識とが一体どう関係あるのか、ピンとこなかったからなのかなと今では思う。

 実際、知識はクリエイティブの大きな助けになる。

 ゼロからイチが生まれるのは、確かにひらめきや思いつきなどの偶発的なものによる。
 でもそれはビッグバンのような完全なる無からの爆発ではなく、それまであちらこちらから舞い込んできて、知ってか知らずか着々と脳内に堆積していった情報のカケラがバチッと組み合わさったときの火花が火種になるのだと僕は考えている。

 そんな思いを、僕は自分の創作ブランドSpiderwow Worksのイントロダクションページに記載している。灰色の夜明け、というやつである。

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