#32「救急車」
YouTubeの向こうにいるのは、自分と同じくどこかで普通に営んでいる、ただの人間である。
…はずなんだが、ここ最近は芸能人YouTuberが数多く参入してきて、そして彼らと一緒にテレビ業界から流れ込んでくる映像技術者も少なくなく。
顔ぶれもそうだし、動画そのものもテレビと並べて何ら遜色なく、コンテンツとしてのレベルが全体的にハイスタンダードになった。
ところが、高精細な画面の、すごくしっかり組まれたセットのように見えても、ふいに画面内の"向こうのほう"から、救急車のドップラーが漏れ聞こえてきたりする。
そう言うのを聞いた時、ああやっぱり、YouTubeの向こうにあるのも同じ世界だ、と僕は思い直す。
***
救急車の存在が生涯まったくの無縁という人はなかなかいないと思うが、ミニカーが好きだった幼い僕は早くから消防車、パトカーなどと並んで面識(?)があった。
のりものずかんやビデオなどで見た「救急車のためだけに道を開ける車」と言う絵面に救急車の持つ絶対性みたいなものを感じて、不謹慎にも目を輝かせていた。普通の車は道路のど真ん中を走ることはできない、というのもわかっていたので、車線の真上を走るようすに余計釘付けだった。
左右行き違うためと思えば今ではごく当たり前のことだとも思うが、昔はハンドルが真ん中じゃなく右側についてたのも不思議だったっけ。コクピット的に真ん中に座って真ん中を走るのが自然なんじゃないか、右に座って左を走るなんてあべこべだよ、と不服を垂れていた幼少期だったが、そうであればこその救急車の強キャラ感だったのかもしれない。
僕が生涯で初めて触れた特撮ドラマ『救急戦隊ゴーゴーファイブ』にも、ピンクエイダーというゴーピンク専用のビークルがあり、立ち往生した多数の車を積み込んで助けるシーンが差し込まれていた。梯子車型マシンが救助活動に繰り出し、化学車型マシンが放水し、ホバー型マシンが空から応援に出る中で、本来人を運ぶはずの救急車型マシンに与えられる役割としてはとてもうまいなと今になって思う。ピンクエイダーといいながらもベースカラーはちゃんと白で、あくまで差し色としてピンクが入っているに過ぎなかったのも得点高かったなあ。
そして何より、僕自身救急車に運ばれたこともかつて一度だけ。これは過去記事を参照されたい。
ことほど左様に、パトカーや消防車のようないかにもヒーロー然とした車両ではないながらにも、救急車は節々に幼心の僕を振り向かせてきていた。
***
『Family Song』(星野源)という歌がある。
救急車のサイレンが胸の糸を締めるから
ここから先は
【週刊】アドレセンス・アドレス
毎週水曜日、ワンテーマ3,000字前後のエッセイをお届けします(初月無料)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?