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#55「手挽き」

 以前、バリスタの話を書いたと思う。
 どのタイトルだったかは失念してしまったが、以前とある電器店でのとある縁で、持て余していたというネスカフェバリスタを譲り受けることになり、以来ずっと使っている、というやつだ。

 あれが、9月に入ってからだろうか、とつぜん水漏れするようになってしまった。

 そのほんの少し前から配置換えなんかをしていたので、どれの何が原因でどこがどうなっているのか、はじめはまるでわからなかった。
 検証を重ねた結果、バリスタでコーヒーを注ぐ時、注ぎ口からコーヒーを出すと同時に下からお湯をお漏らししていたということがわかった。電気系の事故が起こったり、怪我をしたりしてもおかしくない状況だったわけだが、無事でよかった。

 調べてみると、この手の症状には主に考えられる原因が2つか3つあるらしく、うちひとつは「給水ボトルのパッキンの劣化」だった。ボトルから本体に水が送られるとき、その途中でパッキンの隙間から漏れていくという症状だ。
 これが原因なら、新しいパッキンを買って取り替えれば、コスト的には100円ちょっとで済む。ところが幸か不幸か、パッキンは健在だった。

 そうすると残りの可能性はもうパイプの破損などといった内部由来のややこしい不具合しかなく、本体外装をドライバーで解体した上で、あれもこれもそれも買い集めて補強なり交換なりをしなければいけない。貰い物なので当然、オフィシャルの保証も効かない。
 コーヒーも早く飲めるようになりたいし、そのセルフリペアが失敗したら結局モノ自体買い直さなければならないし、色々考えて結局破棄することにした。
 年季の入ったそのバリスタと、あの日の電器店のあの方に対して感謝の念を送り、手を合わせた。

 で、新たに買い直すとなった時に、ふと弊バンドのドラムふっしーのお父様を思い出した。

 お父様(以下ふっしーパパ)は福島市で自身の喫茶店「伏見珈琲店」を営んでおり、先日GREENBACKとのツーマンでは会場へ出張出店してくださった。
 そのときいくらかお話しさせていただいたのだが、家で毎日バリスタで飲んでいると話した時「手で挽くのも良いもんだよ」と仰っていた。

 その時は確かに、ふっしーパパご自身がコーヒーを淹れる光景も見ていたので、ああ確かにそれもいいな、かっこいいな、風情があるなと憧れを抱いたが、実情としては器具も多いし手間もかかるし、豆も自分に合う味を探究しなければいけない。なかなか現実味がないなと、その時は正直言って心の隅に置いやっていた。

 では、今この機会に、これからその準備をしてみるのはどうだろう。
 色々調べてみると、価格差や仕様の違いなどもあれど、最低限のもののみであれば全部で1万円もかけずに揃えられるらしいということがわかった。バリスタもピンキリだが、良いものを買おうと思ったら同じかそれ以上はする。

 今回はコーヒーのハンドドリップ化、その記録と所感を書いてみる。
 あわよくば、同じくコーヒーに興味がある方の参考になったら嬉しい。
 つらつらと書いていくが、言っても初心者なので、間違いがあったら逆に教えてくださいね。

***

 まず、コーヒーをハンドドリップで飲む場合の工程はこんな感じだ。

 豆を挽いてさらさらにする
→それをフィルターに入れ、お湯を通す
→落ちたお湯がコーヒーになる
→マグカップなどに注ぐ
→おいしい

 恥ずかしながら僕はこんな基礎的なことでさえ、調べて初めて認識した。何も知らなくてもコーヒーが飲める良い時代である。

 で、これを家でやるには最低でも以下のものが必要になる。

・コーヒーミル(豆を挽く)
・ドリッパー、フィルター(挽いた豆を入れる)
・ドリップサーバー(コーヒーを貯める)
・ドリップポット(お湯を注ぐ)

 ここにさらに、一定の匙加減で豆を入れるための軽量スプーンとか、時間とグラム数を測るためのはかりとか、フレンチプレスという抽出方法を使うならそれ用のポットとか、こだわり出したり集め出したりすると無限だ。どこの世界でもそれは一緒らしい。

 ネイルの時と同様、買ったはいいものの気持ちがハマらず挫折してしまうリスクも考えて、なるべくコスパと扱いやすさを意識した。フレンチプレスの方がコクや香りが楽しめるみたいなのだが、それを避けたのもコスパ面での都合だった。

 僕が今回集めたのは以下のアイテムである。

 ミルに関してはもちろん手でガラガラ回すものの方が風情はあるだろうなと思ったのだが、先に書いたようなリスクのことも考え初めは最小限に手間を省いた方がいいだろうと電動ミルを選んだ。
 可愛らしく落ち着いたデザインで、インテリア得点はかなり高めだが、見かけによらず重量があるのと、動作音がけっこうバリバリだった。平均的なデシベルがわからないが、まあ確かにジューサーとかの例を考えればそうだよなとは思いつつ、はじめはかなりびっくりしてしまった。
 切れ味はというと、もちろんちゃんと粉になる。気になる人には気になるかもしれないようなアラが残るが、個人的には気にならない。丸洗いできるのが嬉しいが、中の溝や刃の裏など、毎回洗うには少し気を遣う点が多いかもしれない。

 その粉を入れるドリッパーには、ステンレスフィルターを選んだ。通常はコーヒーの工程でよく見るあの三角の紙のフィルターに豆の粉を入れ、そこにお湯を注ぐわけだけど、それがステンレスで繰り返し使えるというもの。
 いっちょまえにサステナビリティを意識してみたつもりだ。経済的だし、買い足す手間もない。金属製品を使うと溶け出した物質が疾患の原因になる可能性があるぞ、とJ.Y.Parkが著書で述べていたが、どうせポットも金属のを買うわけだし…と思い今回はステンレスフィルターを選んだ。ありがたいことに軽量スプーンつきだが、これが見た目以上にどっしりと重かった。頼もしいのでよしとした。
 そのドリッパーから落としたコーヒーを貯めるドリップサーバーは、電子レンジで再加熱もできるというスグレモノ。HARIOというとコーヒー関係では老舗らしく(門外漢でスミマセン)安心と信頼のですね、と勝手に納得して購入した。総じて使い勝手は良いけれど、ややガラスが薄い印象があり、少し扱いに丁重さが乗る。

 お湯を注ぎ込むポットに関しては、はじめ門外漢の僕にとっては「それわざわざ買うの?」となかなかその必要性がわかりかねたが、要するにその注ぎ口の細さとか長さとかが重要とのこと。
 いざ注いでみると、確かにこれを例えば軽量カップとかでビシャーッと注ぎ入れるのとでは大違いだろうな、と体感的にわかった。
 マットブラックのバージョンもあったようで本当はそちらがよかったのだが、品切れだか高騰だかでこちらを選んだ。

***

 例により、豆もひとまずはリーズナブルなものを選んでみた。レビューで酷評がちらほら見られたので恐る恐る買ったが、なんというか飲めるは飲めるし、これが美味しいんだという人がいればその気持ちもわかる。「掴みどころがなさすぎて人を選ぶ」という感じなのかなと思った(一応、リンクは掲載しないでおく)。
 それでも、豆の状態から自分で挽いて作るコーヒーは、何の根拠もなしに美味しかった。バリスタから出てくるコーヒーも良かったが、気のせいかわからないが手挽きの方が透明感があって、じんわり沁みるというよりスーッと身体に入ってくる感じ。飲む量やその濃さも、自分で気分次第に変えられることも魅力だと思う。

 毎朝限られた時間の中でドリップと器具洗浄までやるのはなかなか際どい時もあり、しかしそのためだけに早起きするのもなんだかなと思うので、時間的な折り合いをどうしようかというところではあるが、少なくとも休みの日には良い朝の雰囲気を作り出してくれるに違いない。
 お湯の音や豆の香りに包まれていると、なんか、これって"こういうマインドフルネス"かもなあ、と思えた。とても心が和らいだ。

 というわけで、少しのお金と日々の微妙な時間はかかるが、美味しさと爽やかさ、そして一種のマインドフルネスが手に入るハンドドリップ体験。興味があるけどなかなか…という方にも、ぜひオススメしたいと思った。
(僕自身そうなのだが、コーヒースティックを少し常備しておけば、今日はとてもハンドドリップできないな〜という時の応急手段になる。ごく少しの、しかもやむを得ない、些細な挫折体験が、その人のせっかくの好奇心やエキサイトを削いでしまうことが時々あるがそれはとてももったいない。こだわりすぎず適度に逃げ道を作っておくことが、気軽な人生をつくるひとつの手法なのかもしれない。併せてオススメしたい)

 あとは、僕としては相性の良い豆に出会うだけだ。
 先日福島市に行く用事があり、帰りがけに伏見珈琲店で豆を頂いてきた。何種類か頂いてこれたので、休日ゆっくり味比べができる時を楽しみにしている。

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