勝てっこない

春の風物詩。さくら。
それを見ながら、ご飯を食べる。
和気あいあいと言葉を交わす。
そんな温かな風景が私は好きだ。
みんなといる時間が好き。
お花見が好き。
でも、桜は嫌い。
桜はいつだって綺麗で美しくて、みんなの目を奪う。
桜は、愛されている。
そんな桜の愛くるしさ、美しさが嫌いだ。
桜には野花の気持ちなんて分かるはずがない。
桜から目線を外して彼を探す。
見つけた。
真っ黒な黒髪に優しそうな笑みを浮かべた彼。
そして、その隣には彼女がいた。
真っ直ぐな黒髪にぱっちりとした目。
可愛らしい服装をした女性。
ふたりは楽しそうに作業をしながら話していた。
その間も私はその場所から目線を離せずにいた。
でも、彼と目が合うことはない。
そのすぐ後、
彼女の頭に花びらが落ちた。
それを彼が見つける。
1秒後、彼と彼女の目が合う。
2秒、彼が優しく彼女に微笑む。
3秒、彼の手が彼女の頭に伸びる。
4秒、 彼女が頬を赤く染める。
5秒、彼が手を頭から離して、彼女の前でそっと手を開く。
6秒、それをみて2人が微笑み合う。

私は目を背けて、自分の手元に目線を移した。
そしてお団子を1口頬張る。
口の中いっぱい甘味が広がる。
笑みがこぼれる。
ズキズキする胸には気づかないフリをして、箸を進める。
それを見兼ねた人が言う。
「辛いなら割り込んじゃえばいいのに。」
返事はせず曖昧に微笑む。
私を思って、そう言ってくれたのかもしれない。
でも、綺麗な花を前にして、他の花に目を配ると思っているのだろうか。
たとえ、目を向けてくれても彼の中の1番になる事は叶わない。
想像や恋のフィルターには勝てっこない。
弱気な自分に呆れてそっとため息をつく。
胸の中に膨らむ思いを閉じ込めて、そっと、桜を見上げる。
その時ザァーっと風が吹く。
花びらが空を舞う。
思わず手を伸ばして、ギュッと掴む。
強く握りしめた指を解く。
目に映ったのは2枚の花びら。
「これだから、桜は嫌いだ。」

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