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苦しくも貴重な、3ヶ月だけの小説家
昔から文章を書くのが好きだ。
初めて好きだと自覚したのは小学校低学年の頃。夏休み最終日に適当に書いた読書感想文が大変評価され、職員室にいた教員全員が回し読みしたらしかった。担任はもちろん、話したこともないような先生にも褒められて、文章を書くのが好きになった。
文章を書くこと、と、文章を読むことは切り離せないと思っていて、私はそもそも読むことも好きだった。
我が家に来るサンタさんはプレゼントとは別に、2,3冊の本を枕元に置いていった。
周りの友達に聞いても、プレゼントしか置いてないと言う。サンタさんが私にだけ特別に本を与えたのだ、と思い込み読書が好きになった。図書室で江戸川乱歩少年探偵シリーズと、アガサクリスティ全集、スティーブンキング短編全集を読み切ったのはその当時私だけだった。
そんなわけで、小学校では私が一番本を読んでいたし、読書感想文や卒業文集なんかもよく書けたと思う。クラス紙か、自己紹介の紙だったかは覚えてないが、将来の夢は小説家と書いたこともあった。
でも、中学高校では一番じゃなかった。私よりも本を読む子はいたし、文章も月並み。地元の小学校は教育レベルが低くて、読書をする子が少なかったことを知った。
大学受験は小論文と面接だけのAO入試で受かった。やっぱり文章書くのが得意だったんだ!と思うのも束の間。
こんな書き方だと大袈裟かもしれないけど、いわゆる日文と呼ばれる学科は、読書好きで尚且つ文章を書くのも得意な子が全国から集まったようなところだった。私なんかは本を読まない方で、論文もてんで書けない。将来の夢は小説家なんて、絶対言えない。なんなら、読書が好きと言うことすら烏滸がましいような、そんな気持ちになっていた。
それでも、学生時代オタク文化にハマり二次創作に勤しんだり、大人になってからは台本を書く仕事をしたりと、形を変えながらも、ひっそりと、この歳まで何かしらの文章を書くのはやめないでいた。
それが!なんと!報われたようで!
いまから3ヶ月前の2023年1月に、あるコンテンツの原作の依頼が名指しで来た。
1週間に1度、何万字と決められた量の小説を書いて先方に納品する。そうすると先方が別の形にしてコンテンツとして世に送り出す。(私が担当しているのは原作なので、世の中には別の形で発表される。)
私の文章が直接世に出るわけじゃないけど、それでも楽しみに待ってくれている人がいる。そして、その小説に対して充分に暮らしていけるだけの報酬が振り込まれる。小説を書いて生活しているのだから、これはもう小説家と言っても差し支えないのでは、と喜んだ。確かに喜んだ。
それなのに、順調に書けていたのは最初の1ヶ月だけで、ここ最近は全く書けずにいた。
そもそも私は漫画やアニメ、映画、ドラマなどどの媒体でもミステリーやホラーが好きで、恋愛系やほのぼの系は少し苦手意識があった。
今回私が受けた依頼はほのぼの恋愛系、とでも言えばいいのか、とにかくいままで触れてこなかったカテゴリーだった。
仕事を受けて、まずは勢いで筆を走らせた。次に参考にするため、ほのぼのとした雰囲気の恋愛小説をいくつか読んだ。いくつか読んで、居心地が悪くなってきた。それに伴うように書くことがどんどん苦痛になってきて、今に至る。
(読んだ小説はどれも売れているもので、大変素晴らしい作品であることに間違いないです。私にはその作品を理解するセンスがなくて、批判するつもりではないのでご容赦を…)
最初から3ヶ月の契約だったので、3月末でこの仕事は終わるのだけど、実は今日先方に、「好評なのであと3ヶ月契約延長しませんか?」と大変嬉しいお言葉をいただいた。
先方にはかなり申し訳ないことをしている。納期を伸ばしてもらって、なんとか納品するのがやっとだ。最初の頃はかろうじて保っていたクオリティもいまではガタガタな気がする。それなのに、本当にありがたいことだった。でも、丁重にお断りさせていただいた。
こんなの続けられない。ここ最近は書けなくて苦しくて苦しくて、文才がないと毎日突き付けられるようで辛い。
それでも私にとって人生で一番貴重な3ヶ月間だった。たった3ヶ月間だけでも、夢を叶えたようなものだから。
実はあと2回納品が残っている。最後の2回くらい、せめて前向きな気持ちで書いて、先方に恩返しをしなくては。
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