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生物多様性と衛星データ その5

(宇宙投資の会では、2023年度はこのテーマに注目をしたいと思います。このタイトルでしばらくブログを書きます。こちらにも掲載しています。宇宙投資の会のHPでも掲載しています)
 
 「日本企業は生物多様性について対応が遅い」と、ロンドンにある資産運用会社で日本株をみているファンドマネージャーは苛立ちをみせた。2022年の11月だった。しかしその後、12月にモントリオールで開催されたCOP15などの影響もあり、今(2023年7月)には、生物多様性に対する取り組みを行いそれを開示する日本企業は思ったより増えた。
しかしキリングループ(以下、キリン)にとっては、2010年から取り組むあたりまえのことだった。
 
2010年からの取り組み「生物多様性保全宣言」
 キリンは2010年に「生物多様性保全宣言」を行い、2013年には「持続可能な生物資源利用行動計画」を発表するなど、すでに10年を超える取り組みをしている。
 2013年は金融庁が最初のコーポレートガバナンスコードの開発に取り組む前の年で、気候変動についても、まだそれほど広くは議論されていなかったということをおもうと、非常に早い時期から議論をしていたことがわかる。
 
 キリンは現在、自らのビジネスに必要な5つのプロダクトについて取り組んでいる。まずは紅茶。スリランカの紅茶農園の持続可能性の向上に力をいれる。次にコーヒーはベトナムのコーヒー農園の持続可能性の向上に力を入れているという。そして様々なものの原料やパッケージになる大豆、パーム、紙についても目標を設定し取り組んでいる。キリングループはほかにもビールの原料である大麦やホップ、ワインの元になるブドウ畑の生態系を調べている。特に後者は、遊休荒廃地をブドウ畑として整備することで生態系を豊かにする実験を行っている。何年か生息を調査している中で、発見できる昆虫の種類が増えたことなどを確認している。製品の一部で利用しているパームオイルは、使用料が少ないこともありできる対応も限られているようで、「持続可能なパーム油の為の円卓会議(RSPO)」が承認するやり方で購入していることがHPに記載されている。
 
「月面農場」宇宙ステーションでの実験
 キリンは「袋型培養槽技術を活用した病害虫フリーでかつ緊急時バックアップも可能な農場システムの研究」について文科省のプロジェクトで取り組み、2021年10月にそれを発表した。国際宇宙ステーションで実験を行い密閉された袋のなかで低重力下でレタスを育てた。
 キリンは紅茶やコーヒーが生物多様性を維持し、自社の事業をより持続可能とする農法をさぐってきたが、このレタスの実験はある意味人類そのものの持続可能性に関わっている。つまりこの実験は将来ヒトが月面で生活するときのためだが、同時に地上の環境に何かあったとき、密閉状態で成長するレタスがあること人類の持続可能性も高めるだろう。
 
 
自然回復
 キリンの活動はモニタリングにとどまらず、自然回復に及んでいる。たとえばスリランカでは、紅茶農園の若者を対象とした野生生物保護のための教育プログラムに資金援助をしている。また岡山工場では、国指定の天然記念物アユモドキの保全活動に取り組み、地元の小学生が育てたアユモドキの人工繁殖個体を敷地内のビオトープに放流するそうだ。このような活動がなぜ、紅茶や他のプロダクトのビジネスに長期的に良いのか、単なる社会奉仕ではないという理解を広げるのは、今はともかく数年前までは本当に大変だったろう。

 こういった企業が評価され、また現地の状況を容易に確認できるよう、衛星データができることが何かあるのかもしれない。

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