見出し画像

【短編小説】男子校生・復縁ネガティブキャンペーン

「未だに忘れることができない人達、というのは自分に新たな価値観を提供してくれた人であることが多い。」とバカ真剣に言ったら、すっかり酔いの回ってる達也は、「俺ってそんないいやつなんか…」と返してきた。いや、お前じゃねえよ。というしかない。忘れることができないのベクトルがちげえよ。週1で飲みに行くこいつは、学科同じだし、授業で一番会ってるし、多分社会人になっても飲みに行くし、結婚式にも呼ぶくらいの奴だ。価値観なんて1ミリも変わってない。あれ、そしたら矛盾するやんか、と思ったけど、こいつだけ稀有なんだと思い、ビールの泡に溺れるかのように微睡んでいく自分を感じた。

2日酔いでガンガンの日には、ポカリとキレートレモンで朝を過ごす。
華金っていうけど翌日は生活リズムに終わってるし、悪酔いってよくねえなと思いながら午前中をダラダラと過ごす。課題やらなきゃいけないのに午後からはサークルだから、結局何もできないまま焦って日曜日に徹夜してなんとか終わらせるのはしょっちゅう。入学したてはこんな生活を望んでいたわけではない。やっぱ1人暮らしって怠惰になるだけ。自己管理の難しさを痛感するばかりの土曜日の午前中は、散らかったワンルームに差し込む日の光がより一層輝く。そのコントラストに打ちひしがれるのも、また常である。

やっとの思いでカーテンを開けて、最近流行りのコールドシャワーを浴びて、そこで心が折れてスマホを開くと、昨夜吐きそうになっていた間にLINEの通知がヘッダーに連なっている。なんや、高校のやつが俺のこと恋しくでもなったんかと思ったら、確かに連絡先は高校の同期数人でも、そのほとんどは不在着信と「どういうつもりなん??」的なもので、何の記憶もない僕は「お前がだろ。元気か?」とだけ書いて終いにした。

午後のサークルでも頭はやはりガンガンのままで、ずっと友達がダンスしてるのを見届けているだけだった。すぐにでも寝てしまいそうだったけど、まあこうしてぼーっと眺めているだけでも自分にエモさを感じて妙な優越感に浸る。溜まり場に映える木漏れ日も相まって、その快感だけは、小説を読む以外にこれでしか感じ取れない優越感を含んでいる。なんて幸せなんだろうなと思う。永遠にここにいたい。

ま、そんなのは無理なんだけどと毎回思うが、今回ばかりは奇怪な現実への引き戻され方を経験した。呑気にTik〇okで動画を流し見してたら、高校から同じ大学に進学した俊から電話がかかってきた。口数が少ない奴だから、電話してくるなんて珍しいな。へへへ。

「話聞いたよ。最近お前疲れてるだろ。」
「急になんやねん。電話してくるなんて珍しいやんか」
「そりゃお前、最悪な別れ方した元カノに連絡してる時点でおかしいと思うのが普通やろ」
「まあお前、そういう日も…は?」
「さっき聞いたよ。何しとんねんお前」
「いや、は?連絡するわけないやん。何のためにすんねん」
「知らん。でもしてるのは事実だからな。事情聴取や。とりま夜お前んとこ行くわ。」
「おい、ちょっとま」

話を聞くに、僕は昨日元カノに電話したらしい。悪酔いだ。2年ほど連絡を取ってなかった奴に深夜2時にシラフで電話をかける方が確かにおかしい。俊の言う通りだ。時間が解決したとはいえ、あんなことされて普通でいられるのもおかしいが、一応忘れかけていたのに、変に思い出してしまった。あの時の自分は未熟だったのかなと思い返す。周りには別れて正解だったとか、お前は悪くないとか言われても、どこか自分では腑に落ちない、蟠りが無性に自分の心臓にナイフを刺す。

感情がぐっちゃぐちゃになった2年前は、自分が受験生だったこともあってか、疲れ・ストレス・呆れ・怒りと言った全てのネガティブが僕を纏っていた。マイナスにマイナスをかけたらプラスになるとか言ってられない。あいつが行きたい大学に自分も行くために勉強頑張れてたし、出会ってから付き合うまでの1年間、付き合ってからの1年間、全部が輝かしい思い出だと思っていたのに、そうやって思っていたのは自分だけだったみたい。何も消化しきれないまま終わったし、あっという間に受験を迎えて、自分の心を誤魔化しながら、あいつの志望校を受けて、受かって喜んだし、あいつを大学で見かけることはないから、多分落ちたんだろうと思ってガッツポーズしたこともあったけど、思いを馳せればそうしている自分さえ虚しく思えてくる。別にいいじゃんか。それでも僕にはどこか拭えない、ふさげないポッカリと空いた穴が、そこにはある。別の子と付き合ったり、女遊びに手を出したりしても、あの時の煌めきは感じられないし、でもその相手がよりによってあいつだから、なにも進まず絶対に落ちないと言われてる平均台の上をとぼとぼと歩いているような感情に包まれて。

確かに、履歴を見たら電話をかけていた。でも「応答なし」の文字を見て少しだけ安心する。でも、広がってるってことは電話がかかってきていることには気がついているわけで、なら、出ても良くない?と思って、あたふたしてたら目の前の俊が
「お前、相当なんだなあ」
とポツリと呟く。酔いが回ってるせいか、元々の性格かはわからないが、その一言に僕はハッとさせられる。こいつの一言には十二分な重みがあった。俊が言いたいことも、「相当」が指すことも、その後に自分がショットを一杯飲んで泣いている理由すらも、全てが理解できる。どうして?なぜ?答えのない問の中で、微睡を感じる前に、目の前は真っ暗になっていた。そしてその一瞬できる瞼の裏には、あいつの顔がぼんやりと浮かび上がって、すぐにフェードアウトしていく…。

隣で俊が寝ている。時計を見る。午前2時。デジャブ。スマホを手に取る。通知なし。開くとあいつとの電話の履歴。しばらく悩む。1度閉じて眠りにつく。それでももう一度開く。悩む。かける。出た。「間違えた。」。切る。寝る。…。

新しく始まる恋愛を楽しむことはできないのかな。もしもう一度やり直せるのだとしたら、たとえまたあの結末が待っていたとしても、もう一度、もう一度と願う。自分は大人になったから、と普段なら自信満々で言える自分も、今回ばかりは諦める。それでも「俺はできる」と叫び、もう一度電話をかけてみる。

「応答なし」だった。後には戻れない。


「復縁」をしたことも、したことがあることを周りで見たことは(もちろん)ないのだが、何故か意外と自分の周りにいるような気がしてしまうのは、最近の思考が恋愛小説の制作とロマンチシズムに偏っているからだろうか。例えばYoutubeでは復縁したカップルというのは見かけるし、その成功体験や、したこともないのに正攻法を鼻高々に語っている動画は多く出回っている。しかし、実際に見かけたことはない。映画の続編が大概つまらないように復縁もうまくいかないものだという言葉を聞いた当時は僕は激しく納得した節がある。自分が考えたかのように語りたいくらいには納得した。したことないのに咀嚼してしまった。お互いをある程度、またはほとんど知り尽くした後に別れて、復縁したとしても、恋愛としての刺激は最初に付き合い始めたころに比べたら激減するだろう。それで安定して関係が修復していくのだと言われたらそれまでだけど、一度別れたということはそこに原因があるわけで、人ってそんな短期間で買われるものでもないから、そのリプレイが流れる可能性はぬぐえないままで…。やっぱり無理だったんだってなっちゃう方が多い気がする。
あくまで気がするだけで、本当はどうかなんてミリも分からん。あくまで想像上。想像で経験したこともない恋愛を語んなよ、って声が聞こえてきそう。
だからこそ、ここまで読んでもらった上で、今回の最初のセリフが、あらゆる人たちに刺さってくれたら、今回書いた理由がひとつできる。

中高男子校だった輩が恋愛観について語るのって需要あるのかな…。と思いながらこの文章をカタカタしている。でも多分、めちゃくちゃ外れていたり変すぎたりするわけではないにしても普通の恋愛観とは違うし、一般的な恋バナでもない、妙な胡散臭さとシンパシーを感じられる気がする。あくまで1種のエンタメとして、思想として解釈してもらうのが一番かな…。ぶっちゃけ恋愛自体もどんなもんかさっぱり分からん。

恋愛って、独り身や失恋があるからこそ、その価値を見出しているんだろうなと勝手に感じた今日は、非生産性な1日を送りつつある。だからこそ生産的な1日に価値があるんだろう。今の状態を謳歌することも1つの楽しみ方であるし、それでも、また新しく、自分を生産市場に売り出していく必要性も感じている。それを僕が恋愛に投影できる日は、まだまだ先っぽい。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?