廃墟

ちょっと、邪魔しないでくれる。

見れば分かるでしょ、血を濾しているの

純血を取り出しているところ。

ずっと見ているとトマトジュースみたいで飲んでしまいそう。

私の妹が重い病に罹ってしまった。

もう治る見込みはない。

妹が言うの「お姉ちゃん、綺麗なものが見たい」って

僅かな時間だけどありったけの物を見せてあげたいって思ってる。

この世界に綺麗なものはとても少なくなった。

だから創生しようと思ったの。

かわいい妹に嘘は吐くことは出来ないもの。

誰の血か?そこら辺の人の血を貰ったの。

濾さなくても綺麗だけど、何が混じってるか分からないじゃない?

動脈から貰ったの。私お医者さんでもなんでもないけれど

怪我をした人の手当している人を見て少し覚えたの。

向こうの建物に怪我をした人がたくさん運ばれてきて溢れてるじゃない?

人手が足りてないのよね。だから私が紛れて手当の振りをするの。

死んでいく人を見ると妹の顔ばかり浮かぶ。

妹には手足があるし五感もある。だからすぐ死なない、大丈夫って。

大半の人が爆撃や爆破で手足を吹っ飛ばされてる。

それでもここではマシな方よね。

かろうじて生きているのだもの。

誰かが運んで繋いでくれてる。

何て言って血を貰うか?何も言わない。

血を抜いていても誰も何も言わない。怒らない。

ただ泣いてるだけ、祈ってるだけ。

中には私を「お母さん」って言った人がいた。

意識が朦朧としていたのでしょうね。

だから微笑んで大丈夫って言ってあげた。

ただ血を貰うのも罪悪感があるから止血をした後

普通サイズの絆創膏を小さな傷に貼ってあげるの。

お大事にって。その瞬間がとても悲しい。

さぁ、なんでだろうね。

紛争が激化してから幾度となく世界は悲しいって思ってる。

悲しいわ。

それより何か用?そう、一休みしに来たら私がいたってことね。

あなたよく見たらジャーナリストじゃない。

わざわざこんな惨い所に来るなんて。

なら、たくさん記事を書いて、写真も撮ってよ。

たくさんお金が入ったら私にもちょうだい。

妹にもっと綺麗なものを見せてあげたいの。

約束なんてしなくていいわ。約束って言葉が嫌いだから。

待って、『紛争は悲劇的だ』とか、そんな風に書かないでね。

この紛争が悲劇だと思う?

私は違うと思ってる。

だってこの”紛争”でご飯を食べているひとがいるのでしょう?

あなたもその内の1人。

気を付けてね。


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