日穏-bion-「月の海」ネタバレ感想

11日に初日を迎えた日穏-bion-の「月の海」見てきました。
基本的に好きな俳優さんが出ていればなんでも行く主義なので
あらすじを2行くらいしか読んでない状態で見させていただいたせいか
一つの出来事に色々驚きながら見ることができました。
それで、見ながら色々考えた。
最初に頭をよぎったのは、去年、認知症の末に亡くなった祖父の事だ。
主人公の静は認知症のお母さんの看護をしている。
お父さんも早くになくなって、仲の良い弟もなくしてしまって
一人で認知症のお母さんと向き合っていた。
しかし、宮地さん演ずる昭二さんをはじめ、ヘルパーさんも看護師さんも
お隣の八百屋夫婦も気にかけてくれて、たくさんの人に支えられていた。
うちはどうだろうか…と思った時に、一緒に暮らしていなかった分
申し訳なさを感じて、見ながらしょぼくれてしまっていた。
そんなしょぼくれた気持ちを、作中で昭二さんが汲んでくれる。
自宅で介護をすることがベストとは限らないんだよ、自分を責めちゃだめだよ、と。
この言葉で静だけではなく私も救われたようだった。

このお芝居に出てくる人物は、みんな優しい。
空き巣に入ろうとした勝男と正直。この二人は悪どいながらも
実は気づかいできる人でもあった。
本当だったら、スキを見て出ていくことも十分できたのに
豊が帰ってきたと喜んでいるみんなに気を使ったのだ。
みんなが誰かを気遣って成り立っていた。
家を気遣い、仕事を気遣い、過去を気遣い。
そういう場だったからこそ、最後の方で
勝男が正体がバレて悪態をつくところは本心じゃないなとすぐわかった。
ああやって、悪党になろうとしたんだなって感じがした。

見ながら、母と娘ってわかりあえないんだよなーって改めて思っていた。
「母は要するに不完全な一人の女の事なのだ」
というのは、よしながふみ先生の「愛すべき女たち」のセリフだけれど
静とお母さんも、一緒にいたはずなのに何処か気持ちがすれ違っていて
お母さんと豊の関係性が羨ましくて、婚約者ともダメになって
「自分なんて…」ってずっと思っていたかもしれない。
そんな静が最後で救われた気持ちになってくれたのはよかったなと思った。
元婚約者が結婚したっていう連絡がきたのも、どこか彼女の中で
ホッとした要素だったと思う。
「豊がいてくれたら…って思って。」と
自分の弱い所を人に言えてしまう部分はすごく強みだと思った。

昭二さんが所々で静大好きが出ちゃってるのがとても可愛かった。
婚約者を見に行ったみんなの輪に遅れて入る所なんか切なかったなー。

豊の海、静の海の話。勝男はなんとなく聞いていただろうけれど
勝男の「勝」には「月」があるので、勝男にだって月は関係あるのだ。
豊のふりをした他人かもしれないけれど、名前の漢字を聞いた時点で
静の中では、勝男だって家族の一員になっていたのかもしれない。
家族をなくしてしまった人が、誰かの家族を呼び起こしてあげる。
そうやって、人は人との繋がりや自分の在り方を考えるんじゃないかしら。
月の海は再生のお話でもあると思った。

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