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中学の数学教師が、あまりにも「デザイナー」すぎて感銘を受けた話

こんにちは。ひらやま(@rhirayamaan)です。

この間、日帰りで静岡に行ってきました。

これは静岡駅からバスで20分ぐらいで行ける大浜公園という場所で撮った写真です。
傷心気味のひらやまにはこの迫力が身に沁みました…

そして、静岡駅周辺はかなり栄えていて楽しい街でもありました!

駅周辺は栄えていて、少し行けば大迫力の海も見れて、どう考えても超最高な場所でした!

海へは一人で行ってぼけーっとしてきたわけですが、本来の目的は、、、

教職履修時に一緒に学んだ、現在「中学の数学教師」である友人と飲むこと

でした。

その飲みに行ったときに、あまりにも感動しすぎて「この話記事にしていい!?」と大興奮しながら伝えたところ、「もちろんいいよ!」と快諾してくれたので今記事を書いているところです!

先生ってのは懐がでけぇや。。。

「勉強」ではなく「学び」ができる環境をつくる

みなさんは「数学」という科目は好きでしたか?

苦手意識を持っている人は多いのではないでしょうか?
結構「嫌い」と言う方も多いですよね…笑

先生の言われたとおりに計算したはずなのになぜか答えが合わなかったり…
この公式は暗記しろと言われ、どういう場面で使えばいいのかわからなかったり…
たかしくんはなぜか池の周りを弟と歩いて抜かして抜かされて…

数学との思い出は、苦い思い出が多いのだろうと思います。

そうやって苦手意識を積み重ねていって数学がどんどん苦手になってしまうのだろうと思います。
そんな中、数学教師の彼は、

「どんな内容であれ、答えが出るまでの過程を生徒自身が考えられる授業になるように心がけているよ。答え自体は間違えていても、そもそも生徒が考えたかどうかが重要だから、生徒たちが間違えを恐れずに、どう考えたかを生徒自身の言葉で述べられるような授業にしているよ。

と言っていました。
すごくないですか?? めちゃ教わりたかった…

彼は、テストで丸をもらうのが目的なのではなく、どういうプロセスでその答えにたどり着いたかを考えることこそが学びだと言っているのだと思います。

それを日々の授業で経験できれば、より論理的思考が養われていくだろうと思います。

テストの点が採れるかどうかではなく、数学を通して「学びを学ぶ」機会をいかに作り出すかが、彼の授業設計の「軸」となっているのだと思います。

生徒の「わかる」をデザインするために、ITを活用する

そんな、生徒たちの「学び」と真剣に向き合う彼が、iPad 上で動く教材を作成していました。

その教材を見せてもらったのですが、あまりにも感動して、居酒屋で咄嗟に動画を撮らせてもらいましたw

それがこちらです。
※音声はカットしてあるので、安心して再生してください!長さも 7 秒です!

こちらは GeoGebra と呼ばれるもので作っているとのことです。

iPad アプリや Web アプリもあるようなので、様々な端末でグラフ作成を行えるようです。

GeoGebra を使えば、割と簡単に自分の作りたいものを作れるそうです。
なので、この教材自体を、技術的な目線だけで評価するのであれば、特段高いものではないかもしれません。
(とはいえ、結構プログラムも書いたとのことなので、かなり大変だったとは思います…!)

しかし、これを「教育」と「デザイン」の観点から見たときに、このコンテンツの質の高さに感動してしまったわけです。

まず、この教材をどういう場面で使うのかを軽く説明しますね。

みなさんは「変域」というのは覚えていますか?
問題としてはこんなものがあります。

出典:5分で解ける!y=ax^2の変域に関する問題
※「x^2」は「x の 2 乗」と同じ意味です。

見ただけで「うっ」と思う方もいるかもしれませんw すみませんw

これはどんな問題かをざっくりと説明します。
例えば、(1) の場合です。
まず、y=2x^2 という式があります。その式の x の値が変わる範囲が 2 〜 5 まで限定されている場合に、y の値はどこからどこまでの範囲に限定されますかねー?という問題なわけです。

(1) の場合、ざっと求め方は以下の通りになります。

2≦x≦5 というのは、最小値は 2 、最大値は 5 ということです。
なので、y = 2x^2 の x に最小値と最大値を代入します。
そのまま計算すると、それぞれ 8 と 50 という値を求められます。
なので、y の変域は 8≦y≦50 となります。

(1) までは、あーなるほどね〜となりやすいと思います。
しかし、(2) になると生徒もつまづき始めます。

ちなみに、(2) の答えを先に言ってしまいます。

答えは 0≦y≦8 となります。

みなさん、なぜこの答えになるのか説明できますか?

(1) の私の説明を活用して計算してみると -12≦y≦8 となりますよね?
しかし、これは答えとしては間違えです。

つまり、説明できますか?と言われて、「(1) ではこう求めたので、(2) でも同じように計算していったところこの答えになりました!」と説明したのに、最終的に「間違いでーす!」となるわけです。

やかましいわ!って感じですよね!

普通に考えて、以前の例を求め方を活用して次の問題を求めようとすること自体は、評価されるべきことだと思います。
「こうやったらできるかもしれない!」と思い、自分でトライしてみたその思考力と判断力と実施力は、どう考えたって素晴らしいことです。
というか、社会人になったらそれの連続ですよね。

考え方自体はとても素晴らしいのに、ただ正誤を判断されて「間違いだよ!」なんて言われた日には、そりゃ勉強なんてしたくなくなります。

みなさんの中に、先ほど私が答えを提示したときに「あれ?答え違うの?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?
疑問を抱けたということはそこに関心が生まれたということです。
生徒自身がさらに深い学びへと飛び込めるきっかけができたわけです。

そのきっかけを潰さないように、多くの生徒の疑問にも答えられるようにするべく、彼は IT を活用した上でこの教材を作ったのだと思います。

前置きが長くなってしまいましたが、ここからようやくこの教材のすごさを語っていこうと思います!笑
どんな教材だったか忘れてしまったと思うので、もう一度だけ動画を見てみていただきたいです。

この教材のすごいところは、ずばっと言ってしまうと…
「変域」という概念を x 軸の点を指で動かすだけで体感できてしまうところだと私は思っています。

「変域」とは「(特定の数が)わりうる領(範囲)」です。
(私なりの言葉の置き換えなので揺れはあると思いますがだいたいあっているはずです!)
この「変域」というのは動的な考え方を想像しなければならないので、教科書などの静的な「紙面」から理解するのはなかなか難しいと思います。

ならばと、動画で表現してみても良いと思います。確かに紙面よりかはわかりやすくなると思います。
しかし、動画よりも彼の教材の方がより良い点が一つあります。

それは、自分の指で動せる機能があることで、ユーザ(生徒)が試行錯誤できるという点です。

x の変域の最小値が、負の値から 0 に増加するときに、y 軸の最小値が減少していく様がグラフから安易に読み取ることができます。
そして、そのまま 0 から正の値に増加し続けると、y 軸の最小値は逆に増加していく様が見られます。

この作業を繰り返していきながら y 軸だけに着目していくと、x の変域が 0 をまたぐ場合、y 軸の変域の最小値は 0 になるという点に、自ら辿り着けやすくなるわけです。

このように、今回の「変域」を教えるために、ユーザの行動に対して連続的なフィードバックを提供することで、ユーザの学びを最大限に引き出したわけです。

それを実現するためには、IT を活用する必要があったというわけです。

IT を使うために教材を作ったのではなく、「変域」を教えるために IT を使ったということです。

ものづくりをしていると目的と手段を入れ替えがちになる中で、ものづくりが専門ではない彼がそれを難なくできてしまっているということに深く感銘を受けました。

あくまでも「生徒の学び」を第一に考える

そして、彼のすごいところはもう一つあります。
それは、この教材を「補助教材」として用意している点です。

我々ものづくりをしている者は、どうしても思い入れのある機能や、苦労して作ったものは、なるべく使ってもらってほしくなってしまうけど、、、それをぐっと我慢…!という経験がある方も多いと思います。

しかし、彼が作ったこの教材はあくまでも「補助教材」なので、生徒の反応次第では「教材を使わない」という状況となる可能性があったというわけです。

なぜそんな謙虚なことができるのかと疑問だったのですが、どうやらそれは彼の授業設計の緻密さが影響していました。

教師は授業をする前に「発問計画」というのをします。

先生が「この問題分かる人ー!?」と聞いてきた経験があると思います。
これは、ただ闇雲に質問しているわけではありません。

生徒の習熟度を知るためだったり、
生徒が関心を持てるようにするためだったり、
生徒が教師を注目しやすくするためだったりと…
一つ一つの投げかけに様々な目的を持たせた上で質問をしています。
これを「発問」と呼びます。

さらに、教師は自らの発問に対する生徒のリアクションまでも予測もします。
この予測までも含めて「発問計画」と呼ばれています。

この発問計画をしていく中で、「最後の発問をした際の生徒の反応を見て、まだ疑問を持ち続ける生徒がいたら、最終手段としてこの教材を使おう」と決めていたようです。

つまり、その教材を使って最初から変域の概念を説明しないでおこうと思っていたことになります。
さらに言うと、発問をしていく中で生徒が考えを巡らせながら、自分自身の力で答えを導き出せるように、あくまでもサポートをしていこうという姿勢から、そのような授業設計になったのだと思います。

この話から、やはりあくまでも、教材はツールでしかないのだなと再認識しました。
そのツールを使って、どのような授業をするかはその先生次第ということです。
そのツールを活かすも殺すも先生次第で、それによって生徒の貴重な時間を良いものにするのか悪いものにするのかも、先生次第ということです。

これだけの教材を生み出してしまったら、私だったらすぐに生徒たちに見せびらかすように使ってしまうだろうと思いました…

生徒の学びを第一に考え、自分の力を見せびらかさない、したたかで驕らない姿勢は、私自身を大きく内省させるきっかけとなりました。

最後に

私は、彼のその姿勢や考え方に感銘を受けて「どうしてそんなに頑張れるの?」という質問をしました。

すると彼は、

「生徒に『教師という仕事は忙しい』と思われるのが嫌なんだよね」

と言っていました。

巷では、残業が多く、給与面もあまり待遇されていないというニュースも多く、教職に対してプラスな感情が生まれづらい風潮があるように感じます。

だからこそ、彼は残業をなるべくしないように心がけているそうです。
生徒を想うからこそ、生徒に素敵な職業だと思ってもらえるよう、自分が働きかけていきたいと心の底から思っているとのことでした。

それだけ「教職」というものに向き合えているからこそ、
生徒とも真正面から向き合うことができ、
生徒の感情や考え方を汲み取り、
適切な教材を作り、
生徒が最大限に学べる授業のデザインができるのだと思います。

我々 IT 業界の者たちは、UX と謳いながら、ここまでユーザと向き合うことができているのでしょうか。

UX というワードに酔いしれながら、自分たちのためだけに仕事をしてしまっていることが割とあるような気もしてしまいます。

生徒と教師は物理的な距離が近かったり、そこまでビジネス的な要因がなかったりと、状況は違う点が多いのでなかなか真似できない点もあります。
しかしデザイナーは、教師という一見かけ離れた職から、何なら教師以外の様々な職からも、実は学べるがたくさんあるのだと思います。

「我々」とは言っていますが、結局は自分自身に対しての問いかけなのです。
このような問いが生まれるほどに、生き生きと仕事をしている彼はとても魅力的で、本当に素敵だなと感じました。

そんな感じで、とても素敵な飲み会でした!

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