指導とは?教育とは?哲学とは?昨日の制作物を捨てようとしている児童生徒への対応の話の続きです。

昨日の制作物を捨てようとしている児童生徒への対応の話の続きです。

何人かの方から,自分ならこう答えるというメッセージをいただきました。

子供に「なぜ捨てるのか」を考えさせる,あるいは,「制作物の意味」を考えさせるという回答が多かったようです。

昨日の課題は,教師としての対応や,教育論,そして,場面指導ならどう回答するかという3通りの答えを自分なりに見出すものでした。

はっきり言って,いわゆる「正解」はありません。

1つ目の教師としての対応は,それが,現実的で,また,ある程度の教育的な意味合いがあれば,対応の範囲は広いでしょう。

2つ目の教育論は,もう少し,哲学的ですが,教育者としての信念を持って語るのであれば,考え方は比較的自由でしょう。

3つ目の教採での場面指導の問題は,面接官を満足させる必要はありますが,正解として,一つの方向性が決まるというものではありません。

さて,皆さんからの回答にあった「なぜ捨てるのか」を考えさせるというのは,本当に必要でしょうか?

「なぜ捨てるのか」は,子供ごとに違います。

もういらないから捨てるでも,もしかしたら,もう見たくないのかもしれません。

その理由を聞いたところで,子供の気持ちを変える必要があるでしょうか?

また,子供にとって,制作物がいらないものになっているとして,その気持ちを変える必要があるでしょうか?

制作が終わり,評価が終わり,共有が終わったのであれば,客観的には,必要がなくなっています。

自分の制作物に,愛着なり,価値を感じるかどうかというのは,子供の主観的な問題です。

子供の主観的な問題に,わざわざ,教師が介入すべき場合でしょうか?

また,もっと中長期的な視点も必要です。

もし,自分の制作物に,愛着なり,価値を持てと言うのであれば,制作物は永遠に捨てるべきではないのでしょうか?

仮に,1年後なら捨ててもよいのであれば,なぜ,今の時点で捨ててはいけないのでしょうか?

3日後ならいいのでしょうか?

捨てさせない戦略を選んだ人は,教育的な思考というよりは,教師の,その瞬間での感情に動かされているのではないでしょうか?

また,中には,制作物の材料は,保護者などが買ってくれたから大切にしようという趣旨の回答もありました。

この理由付けをするのは,ちょっと危ないかもしれません。

子供が保護者に,「これ,もう捨てていい?」と聞いたら,保護者は,きっと,「もう評価も全て終わったのなら,捨てれば。」と答えるでしょう。

教師としては,保護者の一言で,完全にひっくり返るような指導を,子供にすることは,かなり,危なかしいことです。

教育的価値とか,倫理的価値というのは,教師のその瞬間での感情のことではありません。

本当に,子供に行動の変容や,考え方の変容を促したい場面なのか,そして,その変容は,中長期的に見ても,子供の利益になり,また,保護者からも教育的な賛同を得られるものなのかを考えることが,教育的価値や倫理的価値を考えることです。

昨日の課題の場合,学校で捨てないように声掛けをすることには意味があります。

児童生徒は,複数います。

児童生徒の考え方,感じ方は,多種多様です。

制作物をいらないから捨てるという子供もいるでしょうが,ちょっとした愛着を感じている子供もいるでしょう。

自分の制作物を大切にしたいという子供もいるのに,教室のゴミ箱に,無残に捨てられた他の児童生徒の制作物を見せるというのも,あまり,気持ちが良いものではありません。

何か価値的に中立な言い訳を作って,(例えば,ゴミ箱がいっぱいになるから),家に持ち帰るようにするのは,この場合の対応としては,適切でしょう。

家でどうするかは,子供の自由としか考えられません。

子供が「家でなら捨ててもいいですか?」と聞いてきたら,教師は,「家に持ち帰ったら,自分の判断で決めてください。」と答えるだけで十分でしょう。

捨てるか捨てないかは,また,捨てるとしても,今日なのか,1週間後なのか,1年後なのかは子供の自由です。

自由ですが,ここで,自由を子供に対して,強調する必要はありません。

ここでは,子供に全てを委ねるのが賢明でしょう。

教師が行うのは,学校では捨てないように声掛けをすることで,他の子供の考え方や感じ方を尊重するということだけでよいのではないでしょうか?

教師が,その瞬間での感情をそのまま教育的価値や倫理的価値にして,指導を始めると,その指導には,すぐにほころびが出てきてしまいます。

感情ではなく,教育論・教育哲学で,冷静に考えて,何を指導するのが最善かを考えることが教師の仕事ではないでしょうか。

でも,正解はありません。

皆さんの正解を追い求めてみてください。


河野正夫
レトリカ教採学院


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