コンサルの道具として「ブライト・スポットを見つける」を持つ

最近『スイッチ!』という書籍を読みました。Amazonでは「倫理学・道徳」のジャンルに分類されているのですが、個人に限らず企業や組織を変えるヒントがちりばめられており、その中でも「ブライト・スポットを見つける」という考え方をコンサルの道具として持っておきたいな、と思ったので、シェアします。

べき論は「真実だが役に立たない」ことがある

コンサルの基本的なスタンスは、知識(業界知識、フレームワーク、他社事例など)と経験をもとに、クライアントの課題を分析し、根本原因を突き止め、あるべき姿を描き、そこへの変革を支援する、というものだと思います。

クライアントもこの役割を求めていることが多く、仮に特別な事実が見つからなくとも、企業内のしがらみにとらわれず、堂々と(ずけずけと)べき論・正論を言ってもらうことに価値を感じています。

一方で、コンサルが描くあるべき論や、提案する解決策は、しばしば壮大すぎたり、理想論であったりして、「真実だが役に立たない(true, but useless)」ことがあります

具体例: 意思決定が遅い
ある企業が「意思決定が遅い」という課題を抱えていたとします。コンサルがこれを分析した結果、同業他社と比べ、組織の階層が深く意思決定をするのに多くの決裁会議で承認を貰う必要があり、結果として意思決定が遅れていることが分かったとします。そして、その解決策として、「組織構造を見直しましょう」という提案をしたとします。

しかし、実際にこれを推進しようとすると、ただでさえ意思決定の遅い企業の中で、見直し後の方針を検討し、組織構造の変革による様々な副作用を予測、対応案を検討し…と何年かかるかわかりません。恐らくこの提案は「おっしゃる通りだけど今はね…」となり実際には行われないでしょう。(もちろんこれが課題の根本解決になる最適な案である可能性もあります)

ブライト・スポットを見つける

『スイッチ!』では、こうした課題を分析し、原因を突き止め改善しようとするのとは全く異なるアプローチが紹介されています。それが、「ブライト・スポット = お手本となる成功例」を見つける、というものです。

具体例: 意思決定が遅い
先ほどの承認の例だと、多くの組織で意思決定が遅いかもしれないが、全ての組織で意思決定が遅いわけではないのかもしれない。素早く意思決定を行えている組織がないだろうか?と考えます。

その結果、例えば、ある組織では「内容に応じて、決裁方法を現場判断、メール・チャット、会議の3段階に分け、できるだけ多くを現場判断orメール・チャットでの確認で済むようにしている。また、決裁会議は金曜の定例枠に加え、急ぎ決裁が必要なものに対応できるよう予備枠を火曜に設けている。これによって決裁を素早く行っている。」とう工夫をしていたとします。

これは組織構造を見直すような根本的な解決ではないかもしれませんが、同じ方法を他の組織でも再現することで、企業全体として意思決定のスピードを上げられるかもしれません。

課題の原因を分析し、それを改善しようとするのではなく、既にうまくいっている成功例を見つけ、それを広げていこうとします。

反発を少なくできる

変革の推進のカギは、いかに反発する人たちを説得し、見方にするかということです。いくら知識や経験があろうが、内情をよく知らないコンサルタントのべき論・正論に素直に従う人ばかりではありません。そして、経験上、正論であればあるほど反発が生まれやすいです。「わかっててもどうにもできないから苦労してるんだよ」と。

一方で、ブライト・スポットを探し、広めるアプローチは、「自分たちと同じ境遇の中でうまくいっている人」を参考にするため、その解決策はただの理想論ではなく、実際に現場で起きていること、自分たちも同じように改善できる可能性が大いにあること、を理解してもらいやすく、反発を少なくできるのではないかと考えます

おわりに

そもそもブライト・スポットが見つからなかったり、仮に見つかっても特殊なもので広められるものではなかったり、根本的な解決策ではないこともあると思います。

とはいえ、変革できる体質を作る、変革の楽しさを知ってもらうための最初の成功例が欲しいような場面では、非常に効果的だと思うので、このアプローチを道具箱に入れておくとよいのではないかと思いました。

以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?