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"あるべき姿"という名の甘美な毒 〜なぜ大企業は"いかがわしくあれ"が出来ないのか?〜


私は大きな製造業のIT部門で働く傍ら、Ninja DAOで超スピードで新規事業が立ち上がっていく姿を日々見ています。

両者の働き方や考え方の違いの中で、特に
"あるべき姿"
という大企業で使われがちな言葉について感じることをまとめました。

1."あるべき姿"とは

 大きな企業は事業規模が大きくなっているため、そこで働く従業員は事業を運営する仕組みを回す歯車の一部となっています。
すると自分の仕事が全体としてどう役立っているのか見えていない従業員が一定数出てきてしまいます。

そんな中で何か新しい取り組みをしようとすると、自分
仕事の範囲しか見えずに視野が狭くなり、何が本当に良い姿が見失ってしまうケースが多々あります。

そんな時に使われるのが、「本当に"あるべき姿"は何か考えよう」というフレーズです。

視野を広く持ってより良いゴールを設定し、そこに目掛けて動くためにこのフレーズが有効なのです。


2.行き過ぎた"あるべき姿"

この"あるべき姿"ですが、これまで非常に有効だったフレーズだったゆえに、以下のような場面でもよく耳にします。

①成果物のハードル(要求スペック)が高い
「XXXようなケースにも対応できるようにする"べき"」

②組織体制が整わないと動けない
「関係者で協力して進める"べき"」
「新たな仕事を担う部署を定義する"べき"」

③他と同じくらいのリソースの要求
「他の会社と同じくらいの開発予算がある"べき"」
「優れた専門家がチームにいる"べき"」

この"あるべき姿"ですがが、これまでのような変化の少ない状況であれば良かったかもしれません。
しかし、昨今のように技術発展がすさまじく環境が目まぐるしく変化する状況においては、物事を進められない要因になっているのではと思うようになりました。

事実、こういう発言が多い人がいるチームは全然物事が進まなかったり、多くのリソースを消費して進捗も遅かったりしている印象です。


3."あるべき姿"という名の甘美な毒

この裏側にある"あるべき姿"をしきりに主張する人の背景にあるのは以下の3つの要素があると感じています(意識的・無意識問わず)

・視野が広いことをアピール(能力誇示)
・少ないリソースの中で無理な進め方をしなくて済む(保身)
・多くの人に合意をとったから自分だけの責任ではない(責任回避・分散)

①視野が広いことをアピール(能力誇示)

視野の広さをアピールすることは、リーダーシップや戦略的思考の証明となります。大企業では、意思決定者が多くの利害関係者に対して信頼を得る必要があるため、自身の能力を誇示することは重要です。
しかし、視野を広げすぎるあまり、具体的な行動が遅れたり、現実的な問題に対処できなくなるリスクも伴います。


②少ないリソースの中で無理な進め方をしなくて済む(保身)

大企業において、「リソースがない」という理由で新しいプロジェクトやアイデアの実行を避けるケースは少なくありません。実際にリソースが不足していることもありますが、それ以上に「リソースを用意すべき」という考えが先行し、動きが取れなくなるパターンも見受けられます。

大企業は、リスクを最小限に抑え、安定した運営を重視する傾向があります。そのため、新しい挑戦やリスクを伴うプロジェクトに対しては、慎重な姿勢を取ることが一般的です。このような環境下では、「十分なリソースが確保されていない限り、プロジェクトを進めない」という決断が下されやすくなります。

これらの行動は、一見すると合理的に見えますが、急速に変化する市場環境においては、大きなデメリットとなり得ます。


③多くの人に合意をとったから自分だけの責任ではない(責任回避・責任分散)

考察:大企業において、合意形成は重要なプロセスです。多くの人の合意を得ることで、意思決定の正当性を高め、責任を分散させることができます。これにより、個々の責任が軽減され、リスクが分散されるメリットがあります。しかし、責任回避のためだけに合意形成を行うと、意思決定が遅くなり、迅速な対応が求められる状況での機動力を失うことになります。責任を共有しつつ、スピーディな意思決定ができる体制を整えることが重要です。


"あるべき姿"を主張すれば、能力誇示をしながら保身・責任回避の免罪符が手に入ってきた

なんと美味しいことでしょう。
そりゃ"あるべき姿"信者になるわけです。


4.「いかがわしくあれ」という考え方

ところで、孫正義氏の「いかがわしくあれ」という考え方は、革新と挑戦を奨励する哲学を象徴しています。これは、現状に満足せず、常に新しいアイデアやアプローチを模索し、リスクを恐れずに実行する精神を意味します。

大企業がリソース不足やリスク回避のために動きを鈍らせるのとは対照的に、「いかがわしくあれ」はむしろ未知の領域に踏み出し、革新を推進する姿勢を強調しています。

いかがわしさの本質

「いかがわしい」とは、一般的には怪しげで信頼できないという意味を持ちますが、孫正義氏の文脈では、むしろ「常識にとらわれない」「大胆で斬新な」というポジティブな意味合いを含んでいます。以下のような性質がこの考え方に含まれています

リスクテイク
リスクを恐れずに、新しい挑戦に果敢に取り組む姿勢。失敗を恐れず、多くの試行錯誤を通じて成功を掴む。
(失敗前提だから少ないリソースで早く)

既成概念の打破
既存の枠組みや常識に縛られず、独自の視点で物事を考える。普通の人には理解できないものである。これにより、新しい市場やビジネスモデルを創出する。
(ゆえに多数の合意は得られない)

スピードと柔軟性
素早い意思決定と実行を重視し、状況に応じて柔軟に戦略を変更する能力。市場の変化に迅速に対応し、競争優位を確立する。
(走りながら考える)

挑戦精神
常に挑戦を続ける姿勢を持ち、停滞や自己満足を避ける。困難な状況でも前進し続ける精神力。

大企業の"あるべき姿"信仰とは真逆

"あるべき姿"を追求することの対極にあるのが"いかがわしくあれ"である。


5. 学び

変化の激しい現代、考え方のUpdateが大切だと言われている。
とくにこの"あるべき姿"という大企業では絶対的なフレーズまで見直すことが必要である。
Ninja DAOの中に入って実際にそれを目の当たりにするからこそ痛切に感じたことでした。


6.参考



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