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#203 我が亡き後に洪水よ来たれ。

 20代の頃は、東京都の臨海副都心と呼ばれるエリアに憧れたものだ。東京のど真ん中にありながら、未開発の地域がほとんどで、しかし築地市場の移転やオリンピック招致を見込んだ、きわめて人工的な開発の気配を感じる、不思議な土地だった。

青海方面から見たフジテレビ本社
2005年9月13日 撮影

 レインボーブリッジを渡ると、フジテレビ本社ビルが象徴的な「お台場」に出る。台場というのは要するに、かつて異国船を攻撃するために作られた砲台(場)ということだ。そのため、埋め立て地とはいえ、その歴史は江戸時代にまで遡る。

お台場海浜公園
2005年9月13日 撮影

 90年代後半、この一帯は「世界都市博覧会」を行うことを契機に開発される予定であったが、青島幸男氏が東京都知事に就任後、中止を決定。以降、しばらくの間は無人モノレールの「ゆりかもめ」と、点在するいくつかの大規模施設とタワーマンション以外は、殆ど公園か空き地という状態が続いていた。

豊洲方面からレインボーブリッジに向けて
2006年8月29日 撮影

 今や、築地市場は対岸の豊洲へ移転し、東京オリンピックも終わった。そして、湾岸部の開発は、更なるタワマンの建設を中心に加速している。かつて魅力を感じた「開発前夜の雰囲気」はもう、そこにはない。

豊洲から有明方面に向かうゆりかもめ
2006年8月22日 撮影

末路が見えているタワマンバブル

 日本人なら、いや外国人であっても、誰もが知っている事実がある。日本は地震が多い土地だということ、海底地震が発生すると、津波の危険があること。そして、その被害は「甚大であった」こと。

 加えて、埋め立て地は液状化現象が起こる危険性が高い。これも既に、阪神・淡路大震災の教訓として、ずっと前に語られていることだ。(テクノロジーの進歩?災害は常に想定を上回るからこそ、災害となりうるのだ。そして毎年、災害は起こり続けている)

 それに何より、地球温暖化により海面が上昇し続けている。人口減少の確定した日本の中心に建てられ続ける、明らかに「適地」ではない高価なマンションは、いったいどんな原理で増え続けているのだろうか。

資産として切り離される、「人と家」

 そうした物件に入居するには、やはりお金が必要で、入居者は社会の中流以上の人々である。当然、前述したような指摘は理解の上であろう。しかし、そもそも「終の住処」とするつもりがない。住むもよし、貸すのもよし、売ってもよしという、資産として扱っているのだから。平民が考える「家を買う」感覚とは、異なるものだ。

 また、中国人からの人気も高い。彼らは、本国では本質的に土地を所有することはできない(中国の土地は、あくまで使用権である)が、日本のマンションを買うことはできる。住むにあたっても見栄えが良く世間体が良い。「面子」文化の彼等には、うってつけの資産なのである。また、中国共産党の意向に振り回される本国で資産を持つよりも、日本の方が安心できるということもあるだろう。

 いずれにしても、「家」はその概念からして、資本の手により解体されている。これらの建物はふるさとにはなり得ないし、土地の歴史も築けない。メンテナンスが不可能になり朽ちていくのか、あるいは海に沈むか。しかし、そのようなことはどうでもいいのだろう。誰もが「我が亡き後に洪水よ来たれ!」の精神であるからだ。

海面上昇の現実を無視した、無責任な開発

 さて、ここからが本題だ。これまでの話を批判的なニュアンスを含めて進めた理由は、言うまでもなく、気候危機の時代に逆行した行いだと考えるからだ。

 現在、既に海抜の低い国々 ーツバル、モルディブ、マーシャル諸島…地球温暖化に全く責任を負う必要が無いような小国ばかりー が海面上昇による水没の危機を迎えている。

 同じように、東京湾・伊勢湾・大阪湾もいずれ被害を受ける。富裕国である利を活かして堤防を作るなどしても、温暖化そのものを止められなければ、地球規模の現象に人類が太刀打ちできなくなる日が必ず来る。

2030/2050年「気候変動対策なし」シナリオの脅威

日本全国で600万人以上の人々に
せまる浸水・冠水リスク

気温上昇にともない、海面上昇も今までにないペースで加速しています。すでに日本沿岸の平均海面水位は、30年前よりも8.7cm上がっています。

このまま気候危機を回避する政策を国や各地方自治体が実行しなければ、あと9年後、2030年の東日本では、スカイツリー、東京ディズニーシー、新潟や茨城の稲作地域、主要空港などが、西日本では、名古屋や神戸などの大都市圏、関西国際空港、阪神甲子園球場、原爆ドームなどが浸水・冠水することが予測されています。暮らしや経済への影響は避けられません

NGOグリーンピースのサイトより

 以下の画像は、NGOグリーンピースによる海面上昇や高潮で浸水する可能性がある場所のマップである。どの程度信頼できるものかは知らないが、一見の価値はあると思う。(もっと大胆な数値で遊んでみたいならfloodmapというサイトもおすすめだ)

 赤く塗られた場所が海面上昇・高潮の影響を受けると予測される場所である。東京都の中においても、荒川沿いを中心とした、いわゆる「下町」がその影響をモロに受けるというのがえげつない。「山の手」というのは、確かに書いて字の通り、ということがわかる。

わたし達にできること…

 ない。だが、知ることは大切だ。何がバカバカしくて、何が尊いのか、見方が変わる。見方が変われば行動は変わる。だが、具体的に何をやれば解決する、と言えるような問題ではない。むしろ、やらないことの方が大切だ。GDPに計上されるような行動をしないことだ。

 ちょっと書くのが面倒くさくなってきたのでやめるが、言いたいことはだいたい伝わっただろう。マネーゲームではなく使用価値を重視しようとか、自分が死んだ後の地球のことも考えていこうぜとか、そういうことだ。

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