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劇伴音楽における音楽理論の使い方?

よくツイッターなどで音楽理論について賛否両論が行き交っているのを目にすると思います。

個人的にどこからが音楽理論なのか、何をしたら音楽理論を使ったことになるのか定義がよくわかりません。しかし、一般の書店にも置いてあるような「〇〇でもわかる」的なコードの本や、いわゆる芸大和声を勉強しただけだと音楽理論を学ぶ必要はないと感じる人が多くなるのもうなずけます(ちなみに日本ではその先について解説しているような音楽理論の本は多くが絶版になっています)。

「音楽理論を知らなくても曲は書ける」。

これはその通りですし、それで名曲になり得ると言っても良いと思います。しかし、劇伴音楽(ゲーム音楽なども含みます)の作曲家は音楽理論の本に載っている素材のようなものを意図的に活用する時があります。今回はハリウッド映画の音楽を例にその一つをご紹介したいと思います。


2016年に公開された映画『キング・オブ・エジプト』から1曲「Obelisk Fight Part 2」を選んでみました。作曲家はマルコ・ベルトラミです。日本ではあまり知られてないかもしれませんが、『スクリーム』や『バイオハザード』、最近では『クワイエット・プレイス』などの音楽も担当しています。

キャッチーなメロディーがある訳でもなければ、コードネームで表せないような和音も出てきます。緊張感または緊迫感のあるアクション・シーンやチェイス・シーン(誰かを追いかけたり、何かから逃げるような場面)では、このような雰囲気を維持しつつ、長い曲を「限られた時間の中で」作らなければなりません。

今回はこの楽曲の00:33~00:39の部分に注目してみたいと思います。

この部分で鳴っている重要な音を拾って順番に並べてみると次のようなスケール(音階)になります。

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なぜDの音から始まっているのか。これは楽曲分析のスキルが必要になるため今回は解説を割愛しますが、みなさんはこのスケールの名前をご存知でしょうか?

僕があるスケールの名前を調べる時によく利用している「Scale Finder(スケール・ファインダー)」というサイトがあります。


先程のスケールをCから始まるスケールに移行して(それぞれ長2度下げる)、該当する音の下にあるバツ印をクリックしてみましょう。このサイトではフラットで書かれている音をシャープに直さないといけないので注意してください。スケールを構成している8音にチェックを入れると次の画像のように「Spanish Phrygian(スパニッシュ・フリジアン)」と表示されます。

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「Obelisk Fight Part 2」の00:33~00:39は「D Spanish Phrygian」というスケールをもとに構築されているということになります。たった5, 6秒ではありますが、この後に続く力強いパッセージへの上手い橋渡しになっています。

事前にこのスケールについてどこかで情報を得ていたら話は別ですが、そうでなければ、いきなりこれら8つの音を使おうという発想には至らないかなと思います。

「Spanish Phrygian」のスケールを使ってどのようなフレーズを作っていけば良いのか。ここから先はセンスやインスピレーション、楽器演奏の体験などが関わってくる領域になると言って良いでしょう。

他にスケールを活用する方法としては、ある世界感や雰囲気に音楽で寄せていく場合などが考えられますが、それはまた別の機会にご紹介できればと思います。

最後になりましたが、作曲・編曲オンラインレッスンを行っています。1日に見ることの出来る生徒の数は少ないのですが、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。


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