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しっかり法律解説・第07回 夫婦別姓選択制が違憲になりにくい理由解説・判例要旨

2015年に最高裁で夫婦同姓を合憲とする判決が下され、また今日も地裁で夫婦同姓は合憲という判決が出ました。

私は2015年に夫婦同姓が合憲という判決文を一通り読ませて頂きました
こちらの最高裁判所のHPの、裁判例情報から検索して判例を誰でも読むことができます
ちょっと検索しづらいですけどね(汗)
判例の日付で検索するのがオススメです。

そして、最高裁にて判例が出た場合は、大抵はその他の裁判でもそれに倣うことがほとんどです。
何故ならば、そうしないと「Aさんには夫婦別姓が認められ、Bさんには夫婦別姓が認められなかった」と、それこそ平等に反してしまうからです
そのため、裁判官は以前に出ている判例などをよく参照した上で、判決を出します。

そのため、今回の地裁の判決への影響もあったと思われます。
よほどその最高裁判決が、不合理であると認められる特別な事例・事情があったり、時代が変わり、その判例が現代に合わなくなった等がない限り、基本的に判例変更はほとんどありません
私が勉強していた時(約7年前)の時点で、戦後より、法令違憲判決が出た事例は7例のみです。(衆議院・参議院総選挙判決は除く)

例えば、法令違憲判例で一番有名なのが刑法199条尊属殺人罪が違憲無効となり、被告人は殺人罪として懲役3年の執行猶予つきになった判決です。
尊属とは、自分にとって、親であったり祖母、祖父のことを指します
そして、刑法199条では「尊属を殺人したら無期か死刑」のみしか規定していませんでした。
その被告人は、十代後半頃から実父に性的虐待を受け、3人の子を出産するほど虐待は続いていた。そして、その彼女にも結婚したい人が現れ、全ての事実を知った上で結婚しようと男性が言ってくれたので、それを実父に報告したところ、それこそボコボコに殴られたのです。
そしてその夜、彼女は全てに絶望して実父を殺しました
この事件で、彼女が無期か死刑しかないのはあまりにも量刑が不当である、ということで「親や祖父母を殺してはいけないという道徳的理由で量刑を増やす目的での法律の存在に問題はないが、量刑があまりにも不当である」という理由で、この刑法199条は憲法に違反し、無効、殺人罪に該当する、ということになりました。そして、彼女に適切な量刑は執行猶予つきだという判決を下したのです
その後、検察は199条での起訴をすることはなくなり、数年後199条は国会の議決によって削除されました

そして今回の、選択的夫婦別姓制度についてですが、要約して判決を説明すれば「合理性がないと断ずるものではない」としつつ、「この件については、主権者たる国民に一番近い機関であり、社会的なことに一番精通している国家機関である国会での議論が望ましい」としました
国会で議論し、必要なら選択的夫婦別姓制度を法律で制定するかしないか決めて下さいということです
何故なら、裁判官というのは世俗のこと、現代社会のこと、世論のことの専門家ではありませんし、国会・内閣・裁判所の三権の中で一番主権者たる国民から離れている組織です
もし社会的に、世論的にも「夫婦別姓選択制度が望ましい」という社会になっているのであれば、国会でそういう法律を作って下さいということです
しかし、実際は夫の姓を選ぶ夫婦が約96%、夫婦別姓にできないことでデモが起こったりするほど社会的大問題になってはいません
また、姓が同じことで「この人たちは結婚しているのかな」と推測したり、家族で同じ姓を名乗ることが、むしろなんとなく当たり前のような世の中である現時点では、夫婦別姓制度が導入された方が現実にトラブルが起きることが多いかもしれません。逆に私は旦那と同姓であるがゆえに、法定代理人として旦那の代わりにできることが多く、その信頼も同姓であるところに論拠を求めている部分もゼロではないと思うからです
勿論、自分たちが少数派であるとわかっているからこそ「少数者の人権を守る機関」である裁判所に訴え出ているのだと思いますが、裁判所からすると「現代社会世情について精通機関ではない裁判所に訴え出られても困る問題」であると言えます
ちなみに、毎日新聞が2015年に実施した世論調査では、選択的夫婦別姓制度が認められた場合も「夫婦で同じ苗字を選ぶと考えている人」は73%に上り、「別々の苗字」は13%にとどまったとのこと
そう考えると、まだまだ夫婦別姓への意思感覚度は広がっていないと言える
国会議員は個々の国民から意見を聞いたり、支援者から意見を聞いたり、直接国民を接している人たちで、その人たちから成り立っている国会が、一番世情に詳しいでしょうというのが法律的考えです

現状に合わせて法律を作っていくのが国会の仕事であり、現代社会にできるだけ添い、合理性のある法律を作っていくのが国会の役割です
法律学上、夫婦同姓を強制している現戸籍法は、「合理的ではない、とはいえない」という違憲レベル、ということでもあるかと思います

もっとざっくり言いますと「こちらは社会経済常識などについての推移に疎い機関なので、そちらの専門であるまず国会で議論欲しい」というのが最高裁の意見です。

ですので私の私見では、今回の裁判も最高裁まで持ち込んだとしても、同じ結論が出ると考えます

そのため、私から見て、夫婦別姓を訴えている方達は、まず裁判をすることでこうやってマスメディアにのることで、自分たちの意見を国民の皆さんに伝え、これでいいのか!?ということを問うと共に、議員立法ででもいいからまず立法化を目指して署名活動をしたりすることの方が現実的だと思います
そうやって街頭でビラ配りや演説などで、夫婦別姓にした方がどれだけメリットが高いのか、そして今どれくらいデメリットがあるのかということを国民に説明して世論を変えていく必要があると思います
そういう意味で裁判を利用するのはアリかなーと思いますが、判決には期待しない方がいいと思います

ただし、2015年の最高裁判決では、15人の裁判官中、5人が違憲だと主張しました。(15人中女性裁判官3名全員が違憲と判断)
そのため、私と、多数派だった2015年の最高裁裁判官10名は、この件については国会の役割・判断の場面かと考えましたが、ここは裁判所が違憲無効を出して国会で法律を訂正させるべきだという意見が5人いました
そのため、2015年以上に説得的な弁論ができれば新しい判例が出る=夫婦同姓強制は違憲という判決が出る可能性がゼロではない、ということもご紹介しておきます

そして夫婦別姓がいいという意見の方のインタビューも拝見しましたが「姓が変わると自分が自分じゃなくなる気がする」「自分の半分が削られた気分だ」という、かなり深刻な人権侵害を感じているというのも拝見しました
そこまで感じながら生きるのもつらい、ということを考えると人権侵害という訴えもあながち間違ってないように思いました
ここは国会の出番なのか、裁判所が救済すべき場面なのか、かなり難しい問題だと思います

もし心に響いたならば……投げ銭のひとつやふたつやみっつやよっつ!!よろしくお願い致す!(笑)