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#4 菌類に覆われた世界 未来を拓く菌類スタートアップ

ここ数年、キノコに代表される菌類が持つ可能性に着目し、様々な産業に活用しようと研究開発を進めるスタートアップが数多く誕生しています。人類の新たなタンパク源となる代替食品の開発から、プラスチックに代わる新素材としての活用方法まで、菌類が私たちの生活をどのように変えていくのか、想像が膨らむ先進事例をご紹介します。


肉に代わる代替タンパク源としての可能性

菌類スタートアップの代表的な活用例は食品産業ですが、そのまま食用のキノコを育てるのではなく、今回紹介するのは菌糸部分を使って代替肉を生産するというものです。代替肉と言えばタンパク質が豊富な大豆を使ったソイミートが有名ですが、キノコも種類によっては多くのタンパク質を含んでおり、新たな植物性のタンパク源として注目されています。タンパク質に加えて食物繊維も多いため、栄養素の面でも優秀なのです。また、キノコ類は食用肉と似た繊維状の構造を持つため、より肉に近い食感を再現できるとも言われています*。

菌類による代替タンパク源は、欧米でのヴィーガンメニューの広まりと共に注目され始めましたが、最近はサスティナブルな新たな代替食品として注目を集めています。従来の畜産業による食肉の生産では、広い農地や多くの飼料を必要とするため、環境問題の懸念もありますし、視点を変えると地球全体で増加し続ける人口に対して十分なタンパク源を生産できなくなるのではという食糧危機への懸念もはらんでいます。そういった課題に対して、キノコ類であれば広大な農地を必要とせず効率的な生産が可能で、環境負荷も少ないという大きな利点があるのです。何よりも成長のスピードが速く、畜産と比べると手間もかかりません。

これら菌類による代替肉市場では、複数のスタートアップ企業がすでに商品化段階を終え、アメリカではスーパー等での販売が始まっています。代表的な例を挙げると、アメリカのMeatiは、米国のレストランチェーンsweetgreenと提携し、代替肉を取り入れたメニューの販売を行っています。筆者が実際に食べてみた経験だと、やはりそれ単体だとキノコっぽさが感じられますが、調理次第で普通の肉のようにも感じられました。これからのメニュー開発に期待したいところです。

Meatiでは鶏肉や牛肉に似せた複数のラインナップを展開している(画像引用元:https://meati.com/

梱包材や建築材にも活用可能な有機素材

食品産業以外にも、菌糸を素材として活用しようとするスタートアップがいくつか登場しています。例えばアメリカのEcovativeは、プラスチックの代わりに使用できる天然素材の梱包材「Mushroom Packaging」を開発。工場で生産される従来の化学素材の梱包材とは異なり、決められた型に原料となる麻くずと菌糸を入れ、約7日間成長させることで生産します。自然素材のみで作られているため、使用後はごみとして捨てるのではなく、細かくしてコンポストに入れるか自宅の庭に撒くことで、自然に分解されて堆肥に。SDGs対策を重視する企業やブランドにとっては、自社商品の梱包材に進んで取り入れたい技術として、すでにIKEAやDELL等の企業で採用されています。

Mushroom Packagingの梱包材は商品に応じた形での製造が可能(画像引用元:https://mushroompackaging.com/pages/our-work

Ecovativeは梱包材だけではなく、菌糸を使ったレンガのような建築資材も開発。細かい植物の茎や破片を養分に菌糸を成長させ、四角く成型することでブロック状の建築材を作るのですが、このブロックを使って、実際に高さ12mの塔を建てるというプロジェクトも2014年にニューヨークのMOMAで行われています**。キノコで家を建てると聞くと耐久性は大丈夫なのかと不安に思いますが、野生にはとてつもなく固いキノコも見かけるので、未来の建築材というのもあり得る話かもしれません。

また、イタリアのMoguというスタートアップでは、室内に設置する吸音材や壁紙の材料として菌糸素材を活用しています。菌糸の構造は吸音効果が高く、形の加工もしやすいため、建築物のインテリアや家具にも活用できるかもしれません。

インテリアにも映えるMoguの吸音材 Foresta System(画像引用元:https://mogu.bio/acoustic-collection/foresta-system/)

まとめ

太古の昔から存在してきた菌類の力と、人類の科学技術がかけ合わさることによって生まれた菌類スタートアップの事例をいくつかご紹介しました。この日本でも食卓にキノコベースの代替肉が並ぶ日や、配送される商品の梱包材として見かける日は意外とすぐにやってくるかもしれません。ある意味万能とも呼べるこれらの菌糸素材。この他にもどんな場面で活用の可能性がありそうか考えてみると、まだまだ新しいビジネスチャンスが眠っているかもしれません。

≪参照記事/ウェブサイト≫
*きのこラボ from HOKUTO / 「きのこ肉」が食料危機を救うヒーローに!代替タンパク質の広がりときのこが秘める可能性
https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/discovery/137590/

** ARUP / Hy-Fi reinvents the brick
https://www.arup.com/news-and-events/hyfi-reinvents-the-brick?utm_medium=website&utm_source=archdaily.com

(文・高橋 功樹/未来予報株式会社)


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