見出し画像

日没から30分後に閉まる美術館

*島根旅ですごく好きになった場所が、「島根県立美術館」だ。島根には大きな大きな「宍道湖」という湖があり、その湖に向かって美術館が建てられている。友人が「どこかで夕陽を見よう!」と言ってくれたので、おすすめの場所である島根県立美術館で見ることになった。美術館の敷地がちょうど湖と繋がっており、ちょうど夕陽が沈んでいく様を、館内からも湖からも観れるのだ。期間中の展示や、北斎をはじめとしたコレクション展示も良かったのだけれど、この夕陽にはかなわないくらいだった。

島根県立美術館のHPのトップには、「その日の日没時間」が表示されている。その日は19時1分だった。館内をうろついていると、「30分後に日没です」とアナウンスが響く。素敵だなぁと思っていたところ、もっと素敵なことが起きた。「当館の閉館時間は、日没の30分後です。本日は日没が19時1分なので、19時31分に閉館となります」と。

つまり、日没に合わせて毎日、閉館時間が変わるのだ。夏は遅いだろうし、冬はもっと早くなるのだろう。何時に閉まる、という決まりきった時間ではなく「日没の30分後」という、曖昧な時間設定にうっとりしてしまった。こういう場所がもっと増えればいい。

次の日の朝は、友人が朝早くから開いているホテル近くのパン屋に連れて行ってくれた。そのパンが美味しくて安くて、どこにでもあるようなパンだけれど、心がいっぱいになった。不動産の物件紹介では「駅から何分」とか「スーパーまで何m」とか、そういう機能的な価値しか記載されていないが、こういう「パン屋さんまで何分」なんてのも、あっていいんじゃないだろうか。

世の中にグラデーションがなくなってきている。それはつまり、可もなく不可もないものが少しずつ淘汰され、可と不可しかなくなってしまう。曖昧なものや目に見えづらい価値は、時代の波と共に少しずつ淘汰されていく。僕たちは本当に、そんな世界を求めているのだろうかと思う。日没から30分後に閉まります、そんなロマンチックな場所がもっと増えればいいと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?